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英雄達の交友譚  作者: 笹矢ヒロ
第一章 春
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事件発生

そのころセナンは陣地の防衛をスピナスと共にしながら少し退屈になり始めていた。大事な事だと頭では理解してはいてもそれで首肯できるかはまた別の話だ。だから大胆にも真正面から敵が襲ってきたときにはおもわず笑みを浮かべた。セナンも一人の年頃の少年としてこの手の状況が好きなのである。

スピナスを後ろにかばいセナンは前に出る。ペルセには到底及ばないがセナンもソルディン家によく訪れ、手ほどきを受けていたため心得位はある。

相手は一人、人数ではこちらの方が有利だが相手もオリオほどではなくとも腕はそれなりに立つだろう。鋭く切り込む敵にセナンは刃で受け流すことで避けた。刃を使って器用に受け流しながら反撃の機会を狙い、一気に切り込む。セナンがアライル将軍から習った技だ。

その様子を少し離れた所でスピナスは見ていた。

セナンは今奮戦している。ここからでは見えないがペルセもマラフもそしてアリナもそれぞれ自分の役割をしている最中だろう。自分だけが何もできずにいる。そのことがたまらなく悔しかった。セナンの手助けをしようにも足手まといになってしまうだろう。

自分にできることはないか。せめてこれ以上敵がこないよう見張っていることしかアリナには今できることはなかった。そう思って周りを見渡す。目はこれでもいいほうだ。

前方からだれか来た。影になっているが黄色でも水色でもない、黒っぽい服だ。先生ならそれと分かるよう白っぽい生地に細縞の入った服を着ているし、首から銀の笛を下げている。でも目の前の人影は明らかにそれとは違った。もう一步足を踏み出そうとしてとたん横を鋭い何かが通りすぎだ。後ろを振り向くとセナンと戦った相手のすぐ後ろに本物のナイフが刺さっていた。

今のはナイフがとおったのか、誰がやったのか、さっきの奴なのか、なんでだ、頭の中で色々な事がぐるぐると回る。声も出ずに震えながら指さすのが精一杯だった。セナンはスピナスを怪訝そうに見て、それから驚愕の表情を浮かべた。戦っている相手を突き飛ばすと、スピナスを呼んだ。怪我はしていない。スピナスが無事なことに一瞬ほっとした顔を浮かべたがすぐに顔をひきしめた。

それはつまりこの中で戦っているはずの攻撃陣が敵に遭遇するという事だ。もしかしたら既に出会っているかもしれない。目つきが自然と険しくなる。一撃でこれほどの傷を負わせる相手だ。ペルセやオリオであっても大丈夫だろうか。ともかくゆっくりしている暇はない。血は見えなくてもこの光景に不審に思う奴はいるだろう。先生達が駆けつけたら事情を話して一刻も早く試合をやめさせてもらわなくては。焦る気持ちを必死に抑えつけながらスピナスを伴ってセナンは先ほどまで戦っていた相手を背負いながら慎重に歩き出した。

そのペルセはオリオと激しい斬り合いをしながら次第に疲れをにじませ始めていた。事前の作戦でペルセと互角に渡り合えるのはこの中ではオリオだけ。だからペルセの相手はオリオがする。そう向こうが考えているのは明らかだったしペルセもオリオの相手は自分がするだろうと思っていた。ペルセの事を相手が警戒しているのは明らかだった。この間の試合でもペルセは囮みたいなものだったのだからそのことを予測してもいいはずだが、セナンはこの様子を見るが結局この間の試合でもペルセの活躍っぷりは目についたしオリオのペルセのライバル心からみてペルセはまだ囮として十分に使えると判断したのだ。たとえ囮だと気づかれたとしてもペルセ達と正面きってぶつかったらアリナのほうに駆けつける余裕なんてないだろう。そこまで読みきったセナンの作戦だった。そしてセナンの読みが見事的中したのである。が、二度も体よく利用されたペルセからするとちょっとくらい外れてほしかったような気がしなくもないだろう。

こっそりと自分の役目を果たしたアリナが離れていくのをそちらに目を向けないように注意しながら確認するとオリオとの闘いに集中した。一度は奇襲をかけられ不利にたったものアリナの矢によってなんとか一対一にたったもののオリオはこの間とは違いペルセと互角の腕前を誇っている。気を抜いて勝てる相手ではなかった。オリオも疲れをにじませている。完全な膠着状態だった。

「その程度か、ソルディン家の嫡男は」若干笑いながらオリオが挑発する。

「そういうことは俺を倒してから言うんだな」一際強い打ち込みをペルセはオリオにかけた。さしものオリオも一瞬バランスを崩す。その隙を逃すペルセではない。瞬間に次の動作にうつった。剣の柄を握り直すと横に振り切った。わずかに避けそびれたオリオは頬をしたたかに強打され思わず歯が飛ぶかと言うほどの衝撃を受け、倒れ込む。それと同時にペルセも崩れ落ちた。最後の力でオリオの剣が脇腹をしたたかにないだのである。

「引き分けだな」先ほどアリナに射られた先方が起き上がった。既に失格となっているがオリオを助け起こすと嬉しそうにそういった。

「ちがうな。俺たちの勝ちだよ」ペルセが汗びっしょりになって息も荒くなりながらそれでもいった。

「俺の役目はお前達の足止めだから。戦術負けだよ、お前らは」

ペルセと分かれたマラフはそのまま敵の陣地に向かっていた。森を抜け、端の方まで来ると

旗の前に二人挟むようにして男女が立っている。マラフが来たのをアリナは確認すると、森の中から矢が飛んできたのを合図にしてマラフも飛び出した。

マラフ達の作戦はアリナの弓矢を奇襲にする作戦だ。先ほどよりもかなり距離が離れている。その中でアリナには正確に人に当てられる程の技術など無い。現に今の矢は近くの地面に突き刺さった。けど森の中から伏兵の弓矢が飛んでくればどうしてもそちらに意識は向く。もちろん相手も奇襲に備えているだろうが、それでも不意打ちで飛んでくる矢を避けるのは難しい。よろけてくれればマラフがたたくには十分だ。

マラフはよろけた相手の女子生徒の肩をなるべく優しくたたくともう一人の相手に向き合った。剣を構えて斬りかかったが余裕で迎えうたれて反撃された。よろけながらなんとか退いたマラフはその俊足とすばしこさを生かしてなんとか剣を避け、横に避けた。オリオが守備に残してきたゾラスはアンゴレ家の信頼も厚い騎士の家のヴォード家の人間だ。セナン、ペルセと似たような関係の二人だがセナンよりも腕は立つ。それを調べてきたのは今ここにいるアリナ、マラフの両名だ。実際に聞いてその性格まで調べた二人は班の中で一番相手の班に詳しい。それがここにいる理由だった。アリナの二射目はマラフとゾラスの間に突き刺さる。一瞬ひるんだその隙にマラフは陣に駆け寄る。剣は邪魔だとばかりに投げ捨てた。今、この場で自分が誇れるのは剣の腕よりもこの足の速さだ。相手が騎士の家に生まれた騎士にあこがれている人間だということは事前に聞いていた。ならまさか剣の勝負を捨てるとは思わないはずだ。

「世の中騎士同士の戦いがすべてだと思うな」どっさりと倒れ込んだ。土まみれになりながらそれでもマラフはしっかりと旗をつかんでいた。

その様子を眺めながらしかしアリナはどこか遠くの場所にいるような気がしていた。終了の鐘が鳴っているのも拍手も歓声もどこか他人事だった。その感じは降りていてマラフのそばによっても続いていた。土まみれのマラフにハンカチを差し出しながらも何か絵を見ているような感覚がしていた。

そのうちにその絵をいきなり破きだしたようにゾラスがゆっくりと倒れていく。驚いてそちらを見た瞬間動きを止めた。闇の中から鋭く光る物が飛び出してきてこちらを狙っている。

「伏せろ!」反対方向から前からセナンの声が聞こえる。その時初めてアリナは自分がその場にへたりこんでいるのに気づいた。陣の後ろに怪我をしたゾラスと崩れ落ちたアリナをマラフは引っ張っていく。それっきりなにも来ないのが逆に不気味だった。マラフに腕をつかまれれて伏せたままセナンが先生と共にやってくるまでそうしていた。自分がなにに驚いているかもよく分からないままだった。


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