追い詰められた組織
本編を読んでいる事を前提に書いてますのでご了承下さい。
ストライズは軽く舌打ちをして咥えた煙草に火を付けた。
目の前の部屋には3つの死体が血まみれで転がっていた。
「またか・・・。」
「これで4件目です、ボス。」
隣からそう言ってくるのはストライズの腹心でもあるゼリオンだ。
ストライズが煙草の煙と共に深い溜息を吐く。
最近帝都では他マフィアとの抗争が過激になっていく一方だ。帝都に巣食う
マフィアは全部で5つ、その内のひとつがストライズ率いる龍の咢だった。
「うちは弱小だからな、狙われるのは当たり前だ・・・。」
ストライズ率いる龍の咢は帝都最弱のマフィア、
その数は21人にまで減っていた。
「ったく、ミローネ王国から参入してきたマフィアのせいだな・・・。」
「数も組織力も高いですし、正面から戦えば勝ち目はないと思われます。」
「分かってる。これ以上数を失えば帝都から逃げる事も考えないとな・・・。」
煙草を足で踏み消しながら部屋を出る。ストライズの身長は他の大人と
比べて低い。だがその身長でもギルドのホワイトゴールドの資格と強さを
持っている為、マフィアのボスをやっているのだ。
手を翳し異空間収納から紙を取り出す。
「今日は午後から商隊の搬入を狙うんだったな。」
「その件ですが、情報では相当腕が立つ男が居るようでして見送るのが良いかと。」
「馬鹿が!一般人に後れを取るマフィアなんてマフィアと言わねぇよ。」
ゼリオンが黙って頭を下げるとストライズがまた煙草に火を付けた。
今日は龍の咢15名が参加して商隊の討伐を予定していた。
これが上手く行けば少しは組織の金欠が解消する予定なのだ。
「見張りからの連絡はまだか?」
「はい、少し遅いかと・・・。」
イラつくように煙草を踏み消してストライズが裏通りを歩いていく。ゼリオンが通信を
気にしながら後ろから付いてくると建物の陰から男達が4人剣を抜いてまま出てくる。
「お前らどこの者だ。ギールムの手先か?」
男達は何も言わず間合いを詰めてくる。
「馬鹿が・・・。」
ストライズが手を前に突き出して魔力を指輪に流し込むと男達がその動きを止めた。
その短い間にゼリオンが相手の胸を貫いて斬り捨てていく。
遅れて血を吹き出しながら倒れる男達を横目にストライズが呟く。
「影縛りの指輪か、使えるなこれ。」
「はい、あの男とパイプを持てた事は組織にとってかなりの利益になると思われます。」
ゼリオンが言うあの男、ミローネ王国に恨みのあるダークエルフの老人か。
確かにこの指輪の魔法は数秒とは言え相手の動きを止める事が出来る代物だ。
それにゼリオンが居れはそう簡単には負けるような事はない。だが幾ら負ける事が
無いと言っても仲間達がストライズが居ない所で殺されていくのは防ぎようがない。
どうしたものかと考えているとゼリオンの指輪に通信が入った。
「ボス、商隊は予定通りの時間に着くそうです。」
「分かった、俺達も向かうぞ。」
頷くゼリオンと共に帝都付近の森へと移動する。
既に森には仲間達が待ち伏せていた。商隊から荷物を奪った後は
別なルートで品物を捌く手筈になっていた。
ストライズ達は静かに獲物が網にかかる時をじっと待ち続ける。
そうして商隊が目の前に来た時、馬車の前にストライズとゼリオンが立ちふさがった。
御者が馬車を一旦止めると後ろの荷台から一人の男が降りてくる。
「後ろの積み荷は全て貰う、抵抗すれば全員殺す。」
「それは困ります。引いては頂けないでしょうか。」
その言葉にゼリオンが剣を抜いて構える。
「誰だお前は?」
「私はヴァーミル商会のシディール・ヴァーミルと申す者です。」
「商人か、なら殺せ。」
ストライズの言葉に全員が木の陰から現れシディールへと襲い掛かった。
シディールは部下達が振るった剣を躱しながら、そのまま体重を乗せた蹴りを放つと
ストライズの部下が数mほど飛んで転がった。
「手加減はしているので死にはしないでしょう。」
ストライズが指輪に魔力を通すとシディールが真横に飛びのいた。
「馬鹿な・・・。」
相手の動きを拘束する影を察知して避けるとはただ者じゃねぇ・・・。
「ゼリオン止めだ、撤退する。」
「それは助かります。」
「なっ!いいのですか?」
「あぁ、このままやっても勝てないからな。引かせてくれるなら引くだけだ。」
「お客様としてなら何時でも歓迎いたしますので宜しくお願い致します。」
綺麗に礼をするシディールにストライズが溜息を吐いた。
これでますます組織の台所事情が悪化したな・・・。
全く、世の中には化け物が多すぎるな。勝てない戦いに面子も何もあったもん
じゃねぇ。生き残る為には逃げる事だって負ける事だって必要なんだよ・・・。
汚くて狭いアジトへと戻りまた煙草に火を付ける。
だが先立つものが直ぐにでも必要だ。凌ぎは減る一方で増えはしない。
他のマフィア達には狙われてる。正に八方塞がりだな・・・。
あの男に勝つにはもうひとつは指輪が必要だ、だがそれを買う金はない。
どの道、こんな汚れた世界に生きてる価値なんてねぇけどな・・・。
それに削り合いはもう沢山だ、食われる前に食ってやる。
「ゼリオン、今夜仕掛けるぞ。ギールムのとこの組織を潰す、総力戦だ。」
ゼリオンは黙って頷いた。何も言わなくても分かっているのだ、
もう他の組織を潰す事でしか龍の咢が生き延びる手立てがない事を。
蒼の軌跡 (本編)
蒼の軌跡外伝 ハーレム×ハーレム (ハーレムの話)
蒼の軌跡外伝 AMBITION (ストライズの成り上がり話)