第1章 眠たい入学式
ピンクの花びらが散る季節。道の突き当たりにある正門はこれからの高校生活のスタート地点である。皆が同じ制服を着て、正門へと歩いていく。
「早い、早すぎる」
そう呟いた理由は目の前にいる男子生徒6人のかたまりがわいわいと話しながら歩いていく姿を見て、友達が欲しいと思った。
どんよりとした灰色の雲。すぐにでも雨が降ってきそうな空をしている。
やっと正門を抜け、『新入生は体育館へ』と書かれた看板を見つけ、『体育館はこっち』と書かれた順路を進み、今からここは博物館になるのかと思うくらいの大きさの体育館を入ると
「名前をお願いします。」
と受付の2年生だと思う人に聞かれた。
「多西 空 です」
自分の名前を言うのは何年ぶりだろうと思いながら、その後言われた席に行く。
僕の席は名前順だとタ行だから後ろの方かと思えば、僕が筆記試験で一位だったらしい。自慢では無いがこの学校は日本で3番目に賢い。だから新入生代表として、話さなければなかった。しかし、僕は席に座ってからの記憶がない。なぜなら寝ていたからだ。
「おーい、そら君は何がしたい?」
「ぼくは鬼ごっこかな」
と夢を見ているとだんだん目が覚めてきた。誰かが話している声が聞こえる。中年くらいのおじさんの声。
『次に新入生代表。多西 空 さん 』
あっ、僕の名前だ。眠たいから寝ようという感じで二度寝をしていると、
『おーい、呼ばれてるよ。君のことであってるよね?』
可愛い声で小さい手を僕の肩を揺さぶってくる。
さすがに僕は起きた。
また、低い中年くらいのおじさんの声が聞こえた。
『多西 君 出てきてください。』
僕は舞台に登るための階段を登り、マイクの前に立つと今ごろ、こんなに人がこの体育館に居たんだなと思っていた。マイクの前にたったものの話す言葉が無い。冷汗をかいてきて、心臓の鼓動が早くなってくるのを感じている。皆の顔がいらだちと まだ? という表情が出ている。今、頭に出てきたことを言おう。
「今日は良い天気ですね。」
あぁ、ダメだ。『あんな奴が新入生代表?』という声が聞こえてくる。わぁ、助けて。
「この体育館の面積は3850㎡、人数は750人だから人口密度は約8.52人だよ」
とよくわからないことが頭に出て、そのまま発言してしまった。
その後の記憶が無い。肩に地面の感触があったことだけを覚えている。
次に目を覚ましたとき、
『せんせー、目を覚ましたよ』
一回聞いたことのある声が聞こえた。
「おーい、君、大丈夫?体のどこか悪くない?」
どこも悪いとこなんて無い。逆に寝て、気持ちがいいくらいだ。
「あっ、さっき入学式で起こしてくれた子だよね。」
「君、いきなり人口密度とか計算を初めて、言い終わったら倒れたんだよ。」
本当に記憶が無い。倒れたって大げさなと思いながら、
「何で、えーと名前なんていうの。」
「私?富田 早苗。さなちゃんって呼んでくれてもいいよ。」
「じゃあ、さなちゃんは何でここにいるの?」
さなちゃんなんて一回も呼ばれたことなんて無くて、初めて言われて恥ずかしそうな表情が顔に出ている。
「何でって多西君が倒れたからだよ。」
「ふーん。ありがとう。あと空でいいよ。」
こっちがさなちゃんと呼ぶならこちらも名前で呼ばれる方がいい。
「僕はどうしたらいいの?教室に戻った方がいいの?」
「うん、教室に戻るよ。」
そこから僕が寝ていた部屋から出た。その部屋の入り口には保健室と書いてあった。
1年生の廊下を歩くと結構静かだった。
「すごい静かだなぁ。」
「今、ホームルーム中だもん。」
僕の教室に着いた。何組かは受付でもらった紙に書いてあったらしいがその紙を失くしてしまっていた。僕の教室は2組だった。さなちゃんは僕の隣の席というだけの理由で保健室までボストンバッグを持っていかされていたらしい。
教室に入ると全員が僕の方を向き、冷たい目で見てきた。『あいつ恥ずかしいよな』『緊張で倒れるとか、あれで新入生代表』という僕の心に大きな穴を開ける声が聞こえてくる。
僕は自分の席に着き、さなちゃんも座った。これからの授業の進み具合などを担任の先生が説明し、今日のホームルームが終わり、下校になった。他のクラスの奴が僕の方をじろじろと見てくる。
「変な感じで有名人だね。」
とさなちゃんが声をかけてきた。
「少し嫌な気持ち。」
僕がそう言うとさなちゃんは苦笑いをした。
「これからもよろしく!」
「よろしくお願いします。」
と僕がなぜか敬語になりながら答えた。
家に着き自分の部屋に入りジャンピング睡眠をした。