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小さな恋の行方  作者: 花 影
第3章 大団円円舞曲(エピローグ)
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第21話 幸せを掴んだティムの本音1

 わんぱくどもが無事に本宮に戻り、それぞれの父親に身柄を確保されたのを確認して俺は部屋に戻った。本当は本宮を出る前に確保したかったのだが、他に声をかけている間に小柄な体を利用して荷車に潜り込んでしまい、一歩及ばなかった。

 仕方なくいつも通り陰ながら警護し、時間を忘れているようであれば少々強引に連れ帰る事にしたのだ。幸いにもヒース卿の3男坊がその点はしっかりしており、ぎりぎりだが間に合う時間に本宮へ帰ってきた。但し、俺が小竜でルーク兄さん宛に伝言を送っておいたので、戻ったとたんにそれぞれの父親に確保されたわけだが……。

「お帰りなさいませ。お支度はこちらに」

 イリスさんが俺の礼装を整えて待っていてくれた。なんでもコリンがその様に頼んでいてくれたらしい。正式な婚礼は明日だけど、よくできた奥様に感謝だな。

「ありがとう。後、これ、合間に食べられそうなら出してくれ」

 懐から取り出したのは果物の砂糖漬けだ。警護を悟らせないために、一般の客を装って露店で購入していたものだ。ここのところコリンの食が細くなっているのだが、これなら食べられるだろうと思ってついでにあがなってきたのだ。

「かしこまりました」

 イリスさんはそう言って頭を下げると部屋を出て行った。俺は急いで湯を使って汗を流し、用意されていた礼装に袖を通す。実のところ、身分を表す記章の数にまだ慣れていない。

 俺が副団長だなんて何かの間違いの気がする。しかし、リーガス卿は本気で後を俺に任せるつもりらしい。他にも優秀な先輩はたくさんいるのだが、団長職は面倒だからと誰もやりたがらない。今年は免れたが、近いうちに本当に団長に昇格させられそうだ。

「こっちだ」

 就任式は既に始まっていたが、ルーク兄さんの手引きでどうにか会場に滑り込み、陛下と皇妃様の前に進み出るコリンの姿を見ることが出来た。贈った真珠を使った装身具を身に付け、光り輝くような美しさに目を奪われる。遠目なのが残念だが、昔はこれが当たり前だったと思いなおした。この後の祝賀会では彼女に付き添う事になっているので、今は我慢する。

 緊張しているのか、心なしかコリンの顔色が優れない。それでも陛下と皇妃様に堂々と宣誓し、フォルビアの紋章を譲られて無事に就任式は終了した。見届けた一同へ挨拶するために振り返った時にコリンと目が合った。一瞬だがほっとした表情を浮かべたので、ああ、心細い思いをさせてしまったなと少しだけ反省した。




 このまま10周年の祝賀会になる予定だったが、本宮前広場にたくさんの市民がお祝いに集まってくれていると聞いた陛下は、急きょ露台から一家で手を振ることに決められた。エルヴィン殿下だけでなく、式典には出席しない予定の幼い殿下方も呼ばれ、ご一家が揃ってお出ましになられる。

 主だった竜騎士が呼ばれて簡単に警備を打ち合わせる。露台には先にアスター卿とマリーリア卿、ユリウス卿とアルメリア様が出られて安全を確認し、続けてフォルビア公になったばかりのコリンが出て、最後にご一家が登場されることが決められた。俺やルーク兄さん、ヒース卿が背後に控え、他は散開して様子を伺うことになっている。

 ご一家の人気は絶大だ。そのお姿を現しただけでものすごい歓声が沸き起こっている。怖気づいてしまったのか、エルヴィン殿下は普段のわんぱくぶりが鳴りを潜めてしまっていた。

 陛下と皇妃様が気にかけてお声をかけられたおかげでどうにか気を取り直し、手を振られるのを見守っているコリンを俺は眺めていた。

 どよめきに視線を移すと陛下と皇妃様が口づけを交わされていた。いつまでたってもお熱い2人の姿はこの国の幸せの象徴だ。ふと、コリンが振り返り、目が合う。婚約者なので側にいても不自然ではないだろうが、今日の主役は皇家の方々なので俺がでしゃばるつもりはない。

「行って来い」

 隣にいたルーク兄さんにいきなり背中を押されて前につんのめる。転ばないように数歩踏み出すと、下の広場から俺の姿が見えてしまったらしい。沸き起こった拍手と共に「黒い雷光」と俺の異名が呼ばれているのが聞こえてくる。

「困ったな……」

 今更隠れるわけにもいかないので、俺はコリンの前に進み出る。間近で見た彼女はめちゃくちゃきれいだ。思わず見惚れそうになるが、周囲から囃し立てられて我にかえり、騎士の礼を取り彼女の手の甲に口づけた。

「なんだ、それでおしまいか?」

 民衆からは喝采を浴びたが、陛下はご不満のようだ。他の方々も面白がって陛下に同調している。しかし、今の俺達にご夫妻の真似はさすがに無理だ。

 そこへグラナトさんが「賓客がお待ちですから」と声をかけてくださり、俺達は苦境から救われた。




「即位して10年。内乱により疲弊した国を立て直している間にいつの間にかこの節目を迎えていた。今後も初心を忘れず、過去と同じ過ちを犯さぬよう己をいましめ、そして大陸の安寧の一助となれるよう、努めて行く所存である」

 冒頭に陛下がそう挨拶されて祝賀会が始まった。権威を示したいわけではないと陛下は仰せになり、格式ばったものは排除されている。招いている賓客も10年前にお世話になった方々が中心なので、和やかな雰囲気の宴となっていた。

 軽やかな音楽が流れ始めると、早速陛下が皇妃様を踊りに誘う。そして広間の中央に進み出た2人がステップを踏み始めると、周囲から喝采がわき起こった。さすがに2人が踊る姿は優雅で美しい。思わず見入っていると、横からコリンに袖を引かれる。

「後で、一緒に踊ってくれる?」

「もちろんだよ」

 上目づかいにお願いされればどんな無茶でも聞いてしまいそうだ。もちろん、一緒に踊るくらいなら問題ない。舞踏は見習いの頃からみっちり鍛えられたので、ルーク兄さんよりは上手いと自負している。了承とばかりに彼女の手に口づけた。

 やがて曲が変わり、俺はコリンの手を取って進み出る。他にはアスター卿とマリーリア卿、オスカー卿にシュザンナ様、ヒース卿と奥方等、国内の有名どころが揃っていた。こういった場で踊る機会があまりなかったので、緊張感がないと言えば嘘になる。夏至祭の時もそうだったが、不思議とコリンと踊っていればいつの間にか緊張感は感じなくなっていた。

 どうにか無事に踊り終え、俺達は飲み物をもって中庭を望む露台に出た。辺りはすっかり日が落ちて、夜風が火照った体に心地いい。俺はワイン、彼女には甘めの果実酒を用意し、2人で乾杯する。

「フォルビア公就任おめでとう」

「ありがとう」

 ガラスの涼やかな音が合わさる。俺は杯の中身を味わいながら飲み干したが、コリンは口元にもっていったところで顔をしかめている。

「どうした?」

 一番に疑うは毒物の類。俺は彼女から杯を奪い取ると中身を確認するが、異臭は感じられない。それに彼女は杯に口を近づけただけで中身を飲んだわけではなかった。毒物の混入は除外して良さそうだが、それでも彼女は具合が悪そうにその場にうずくまっている。

「コリン!」

 顔を覗き込むと真っ青だった。とにかく医者を呼ばなければ。だが、今は祝賀会の真最中で下手に騒ぐのはまずい。

「ティム?何があったの?」

 異変をどうやら察してくれたらしい姉さんが来てくれた。俺がすがるような視線を向けると、姉さんはすぐにコリンの傍らに膝をついた。

「姫様、如何されましたか?」

「気分が……」

 消え入りそうな答えに胸が締め付けられる。

「とにかく、場所を移動しましょう。私は陛下と皇妃様にご報告してくるから、先にお部屋へ姫様をお運びして」

「分かった」

 姉さんの的確な指示に俺は頷く。広間を突っ切るのはさすがにまずいので、コリンを抱えた俺は中庭に降り立った。すると、少し離れた場所に明かりを持ったルーク兄さんが手招きしているのが見える。俺は彼女を揺らさないように、慎重に足を進めた。


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