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第5話 人類の夢! 有人火星探査計画の結末

 とある日の放課後――

 所属するクラブの部室へ向かっていた優子は、視聴覚教室からなにやら騒ぎ声が聞こえてくることに気づく。暗幕の切れ目から様子が覗え、その中に見知った人物を発見……。楽しそうにしている雰囲気に興味を覚え、理由を確認するために中へと入った。

「真菜先輩、こんにちは〜♪」

 視聴覚教室の中には、光風高等学校(原作では白鳳学園)なんちゃらプラネット部が集まっている。優子に気づいた真菜は、微笑みながら挨拶を返した。

「あっ、優子さん。お久しぶりです♪」

 優子は、空気が一変したことに苦笑しながら真菜へと近づいた。

 真菜以外の部員たちは、優子の登場に緊張気味である。まるで、教師が監視に来たときのような反応だ。

 それもそのはず。この作品での優子は真菜より年下の高校一年生であるが、小説“なんちゃらプラネット”ではプラネットメーカーの開発者で年齢も三十八歳だという。真菜たちにとって、優子はプラネットメーカーを開発した凄い人である。種族の関係からか、見た目もまったく変化していないため、どうしても年下には思えないのであろう。

「あれ? 今日は、ショウさんと一緒じゃないんですか〜?」

 いつもショウにべったりな優子である。一人でいることは、かなり珍しいと言えるだろう。

「あ〜、お兄ちゃんはラルドさんに呼び出されて、いま校長室に……」

 むっとした表情で呟く優子に、真菜たちはかなり焦ってしまう。そんな様子に気づいたのか、優子は慌てて話題を変えた。

「え〜っと、みなさんは……こんなところで何をしているんですか〜?」

 すると、部長である神倉昴がみんなを代表して質問に答える。

「はい。これから火星の――中継があるんですよ!」

 その答えに優子は納得する……。太陽系第四惑星“火星”。今日は、そんな火星に初めて人類が降り立つ記念すべき日なのだ。

 天文に興味ある者としては黙っていられないイベントである。いや、興味がなくとも無視することができない――まさに歴史的な出来事だといえるだろう。なんちゃらプラネットのみんなは、視聴覚教室の大画面モニターで、そんな感動を共有しようとしているわけだ。


 有人火星探査計画――

 少し前までは、実現するにはまだまだ時間が必要だと考えられていた。

 その時間を大幅に早めたのは、今から三年前に起こった大魔王ザーヴァの人間界侵略事件である。侵略事件のことはこの作品とまったく関係ないため端折るが、有人火星探査計画には、異世界の技術が大幅に使用されていた。

 人間界の技術に精霊術や魔術を取り込むことで、一気に三十年は進歩したという。そうでなければ、地球から火星までの距離をリアルタイムで中継など出来るはずがない。

「そして、今日この日! 人類は初めて火星に降り立つのです!」

 熱く語る昴。だが、優子は意外に淡泊であった。

「へぇ〜……」

「………」

 そんな優子に、真菜たちは唖然としてしまう。とても、プラネットメーカー開発者とは思えない反応である。

「よ、良かったら優子さんも一緒に見ませんか?」

 真菜は、優子にモニターの良く見える席を勧める。必然的に真菜の憧れている昴の隣へ座ることになるが、少しでも天文に興味を持ってもらうためには仕方ないことであった。

「じゃあ…、お言葉に甘えて――」

 ここまで話を聞いた以上、興味が無いからといって立ち去れる雰囲気ではない。諦めた優子は、勧められるがまま昴の隣に座った。

「けっ、鳥人間なんだから宇宙は関係ないだろう……」

 真後ろに座っていた健介が、吐き捨てるように呟く。原作でもそうだったが、健介は優子をあまり良く思っていないようだ。

 限りなく小さな声だったが、悪口は良く聞こえるものである。

「あははっ♪ 健介先輩、肩に糸くずが付いていますよ〜」

 笑顔で振り返った優子は、握り拳で健介の顔面を殴りつけた。

「ひげぐぇっ!」

 蛙が潰れたような声を上げ、健介が後方へ吹っ飛ぶ。優子がこれほどまでに遠慮しないのは、家が隣で幼馴染みのダイと、この遠野健介だけである。

 肩って言っただろう……。そんなセリフを最後まで口にすることなく、床に倒れた健介の意識は――完全に堕ちた。これで、健介は歴史的瞬間をリアルタイムで見ることはできなくなった。

「あれ〜? 健介先輩、そんなところで寝たら風邪ひいちゃいますよ〜」

 優子は、しれっとした顔で呟く。優子の方は、健介の性格を気に入っており、これも一種の愛情表現であるといえるだろう。しかし、健介にしてみれば、えらい迷惑な愛情表現である。

「そろそろ宇宙船が火星の大気に突入するみたいですよ!」

 視聴覚教室に、昴の緊張した声が響く。どうやら、気絶した健介は放置しておくようだ。


 地球から約一億九千百万キロもの彼方――

 七ヶ月間にも及ぶ長い旅の末、ついにこの時がやって来たのだ。

 衛星軌道上に母船を残し、小型の宇宙船が大気圏へ突入する。

 激しい振動、真っ赤に燃える大気。搭載された複数の高性能カメラにより、迫力がそのまま伝わってくる。それほど興味が無かった優子も、ぎゅっと握った手には汗を掻き、固唾を呑んでライブ映像に注目した。

「いよいよだ!」

 昴が興奮気味な声を上げる。

 地表が近づき宇宙船は逆噴射を始める。重力は地球の四十パーセント程度であるが――有人であるため自然落下というわけにもいかないのだろう。

 激しく砂煙が巻き起こり、宇宙船はゆっくりと火星の地表に着陸する。

「よっし!」

 無事に着地を決め、拳を握りしめた昴は思わず立ち上がった。昴がこれほど興奮するのは、プラネットメーカーで惑星(プラネットMANA)創造に成功したとき以来である。

 様々な計器類が動き――宇宙船の現状を確認する。数分後、異常を感知することもなく、宇宙船のハッチが開かれる。

 様々な環境にも耐えることが出来るように作られたごつい宇宙服。そんな宇宙服を着た搭乗員たちが、ゆっくりと階段を下り、そっと火星の大地に人類初の足跡を刻みつけた。

 それがどれだけ凄い快挙だったのかはわからない。しかし、この歴史的瞬間をリアルタイムで目撃出来たことに、優子は感動すら覚えていた。昴に言わせれば、人類宇宙開拓時代の新たな幕開けであるという。

 地球以外の惑星に初めて降り立った人類。これを足がかりに、火星に基地を設立。それを拠点に、太陽系外宇宙へと旅立ってゆく……。夢は膨らむばかりであった。


『やれやれ……。急に呼び出すから何かと思えば――』

 かすかな大きさではあるが、火星のライブ中継からそんな声が聞こえてくる。突然のことに小首を傾げる優子たち。次の瞬間、宇宙船搭載のカメラが、信じられない光景を映し出した。

『火星に光風の分校を建設しようだなんて……。ラルドさまもめちゃくちゃなことを考えますね〜』

「って、お兄ちゃん!?」

 映し出されたのは、つい数分前に教室で別れたばかりのショウの姿。その隣には、光風高等学校の校長ラルドも立っている。

『うむ…。今のうちに土地を確保しておけば建設費が安上がりで済む。人類未到の境地なわけだから、基本は早い者勝ちだろ〜?』

 そんな様子を愕然と眺める宇宙飛行士たち。それもそのはず。二人は、まったくの普段着(ショウは制服)。降り注ぐ有害な宇宙線もなんのそのであった。

『あれ? ラルドさま、なんか人が来てますよ……』

『なにっ! ライバル校の関係者か!』

『いやいやいや、人が住んでもいないのに学校建てようだなんて発想は、ラルドさまぐらいなものでしょう。ほら、“HEtuPOKO−MARS”って書いてありますから、例の有人火星探査船じゃないですか?』

『おぉ〜、なるほど……。ついに人類も、火星までやって来ることができたのか!』

 高笑いする映像の中のラルド……。相変わらず意味不明である。

「お、お兄ちゃん――」

 同じく意味不明なショウの行動に、優子はしくしくと涙を流し始める。真菜や昴など、ショックのあまり深く項垂れていた。

 数年という期間と巨額な資金を費やしたHEtuPOKO−MARS計画は、一人の思い付きの行動と強大な精霊力使いの所為で台無しとなってしまったようだ。

 後に、この事件は“へっぽこの悪夢”として、宇宙開拓の黒歴史に永く語り継がれることになった。めでたし、めでたし――って、めでたくねぇーーーーー!


おしまい…


あとがき


 え〜、なかなかオチが難しいですね〜(笑) この後、火星にコンビニ(ルシフ屋24)も登場させる予定だったんですが、最初の視聴覚教室でのドタバタで予想以上に文字数を使ってしまって省略することに……。ルシフが太陽系のあちこちで展開しているコンビニは、利用者が少なく(宇宙人しか来ないので)万年赤字状態のようです。


2008/06/22 Crystalクリスタル

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