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第3話 現実は、泣きたくなるほど残酷で

 鬼、天狗と並んで、この国の妖怪の中でもっとも有名なものの一つとされているのは、なんといっても“かっぱ”であろう。

 古くから目撃事例が多く様々な伝承も残されており、各地方によってその呼び名や形状も異なっている。標準的な名前である“かっぱ”は、「かわ(河)」と「わらは(童)」が変化したものと云われていた。

 また、かっぱとは、大きく二種類に分けることができる。

 全身を鱗に覆われてくちばしがあり、頭には皿・背中に甲羅・手には水かきのある“亀形態”。全身が毛で覆われており、口には牙・頭にくぼみがある“類人猿形態”である。

 どちらも、頭に溜めた水が乾くと死んでしまうとされていた。

 妖怪の中でも、かっぱほど各地に伝承が残るものは珍しい。単に恐ろしい空想が広まっただけとは考え辛いのではないだろうか…。

 毎年新種の生物が発見されている世の中である。我々の知らない未確認生物が存在していたとしても不思議なことではない。しかし、かっぱの正体で一番有力な説は、今は絶滅してしまった“かわうそ”を見間違えたのだと云われていた。

 それ以外にも、グレイタイプの宇宙人を、かっぱと間違えたのではないかというとんでもない説もある。逆に、掴まえたかっぱを、某国が宇宙人に仕立て上げた…などという噂もある。ここまでくると、たとえ本当の情報があったとしても、全てが眉唾な話となってしまう。

 だが、伝承の中だけの存在とされてきたかっぱは確実に存在している。ここ、光風町にある自然公園の湖も、そんなかっぱの生息地とされていた。


「へぇ〜、キレイな湖ですね〜」

 月明かりに照らされた水面は、風に揺られてキラキラと輝いている。

 樹神の退魔師(半人前)である美咲は、遊びに来ていた如月家で、偶然にも野生のかっぱの生息情報を耳にした。

 その情報が事実だとするならば、絶滅危惧種でもあるかっぱを狙って、幻獣ハンターが現れてもおかしくはない。そうなってしまう前に、個体数の確認、生息地の確保を行う必要がある。

 異形や妖怪が暮しにくいこの世の中、それらを保護することも、樹神の退魔師としての仕事の一つであった。

「この辺に出てくるのよ〜。かっぱが…」

 辺りを見回しながら優子が説明する。以前、ショウたちと肝試しをしたとき、不気味な姿で現れたことがあった。そんなことを思い出した優子は、おもわず身震いした。

「そうなんですか〜。どんなかっぱ(子)なのか、いまから楽しみです♪」

 そう言って、かっぱのぬいぐるみ(?)“か〜くん”を抱きしめる美咲…。

「じつはわたし、か〜くん以外のかっぱに会うの、はじめてなんですよ〜」

 嬉しそうに微笑む美咲の様子に、優子は一抹の不安を覚えていた。自然公園に住むかっぱは、美咲の想像しているモノとは掛け離れているからだ。

「あ、あまり期待しないほうが良いんじゃないかな〜…」

 優子は、やんわりと念を押す。だが、かっぱを“ぬいぐるみっぽい生命体”であると信じて止まない美咲には、そんな優子の言葉もなかなか伝わることはなかった。

「え〜っと、伝承に残っているかっぱって、確かに不気味な姿をしていることが多いんですが」

 美咲は、ある意味、異形や妖怪のプロとして説明を始める。

「それらの姿って、昔の人の恐怖心や想像から創られたものなんです。ですから、実際のかっぱは、このか〜くんのように可愛い姿をしているわけなんですよ〜♪」

 断言する美咲に、優子は苦笑してしまう。

「いや、伝承に残るぐらいなんだから、元となる生物はやっぱりいると思うんだけど…」

 なおも食い下がる優子に、美咲はか〜くんを突き出す。優子は、おもわずか〜くんを受け取ってしまった。

 大きさのわりに意外と軽く、黄緑色の生地に綿でも詰まっているかのようにふかふかである。体型はデフォルメ化したペンギンのようではあるが、頭の皿と背中の甲羅が河童の特徴を捉えていた。

「………。え〜っと…?」

 可愛いか〜くんを抱きしめながら、優子は困ったような表情で美咲を見つめる。

「か〜くんが本物のかっぱです♪」

 抱けばわかるとでも言いたげに、美咲はニッコリと微笑む。しかし、優子がか〜くんを抱っこしてわかったことといえば、やっぱり“ぬいぐるみ”だとしか思えないことだけだった。


 ざばぁ〜〜〜!

 そのとき、小さな人影が、水の中から現れた。

「あ…、出てきたみたい…」

 優子は、音のした湖畔に視線を向ける。その瞳に映るシルエットは、可愛いぬいぐるみではなく、予想通りのアレな感じであった。

「えっ、本当ですか〜♪」

 美咲は、期待に胸を膨らませながら振り返る。

「はじめまして。わたし、樹神の退魔師で美咲といいます。ぜひ、おともだちになって…」

 そこまで口にした美咲だが、その動きはビデオの一時停止をしたかのように固まってしまった。

 背丈は、七〜九歳ぐらいの子どもほどである。骨と皮だけのようにガリガリな身体で、肌は薄緑色で全身がぬめっとしている。頭には皿、ぎょろっとした目、鳥のようなくちばし、手には水かきがあり、背中には亀のような甲羅がある。まぁ〜、皆さんの想像するようなかっぱが、美咲たちの前に立ち尽くしていた。

『か…、かっぱぁ〜…』

 かっぱは、大汗を掻きながら、間の抜けた声を上げる。そして、“かっぱ、かっぱ”と口にしながら、無意味にあっちへ行ったりこっちに来たりした。

「え〜っと…、美咲ちゃん?」

 真っ青な顔で固まる美咲に優子は声をかける。

「い…、いやぁあああーーーーー!」

 普段から大人っぽく、何事にも動じない美咲だったが、このときばかりは女の子っぽい悲鳴を上げた。

「えっ、何っ、へっぽこ!?」

『かっぱ、かっぱ!(おろおろ)』

「いやっ、来ないでナマモノーーーーー!」

『かっぱ、かっぱ、かっぱ!(おろおろおろ)』

 予想通りの反応に、優子は苦笑してしまう。このかっぱを初めて目にしたら、誰でも悲鳴を上げるに違いない。

「ねぇ〜。やっぱり元になる生物も、ちゃんといるんだよ〜〜〜♪」

 泣き叫ぶ美咲に、ただおろおろするだけのかっぱ…。優子は、可愛いぬいぐるみ(かっぱ)のか〜くんを抱きしめながら、めったに見られない珍妙な光景を、微笑みながら見守っていた。


おしまい…


あとがき


 河童って、本当にいたんでしょうか? “口裂け女”“人面犬”“トイレの花子さん”みたいに、適当な噂が全国に広まっただけなのかもしれません。

 でもまぁ、幽霊や宇宙人が存在しているわけですから(えっ?)、河童がいたとしても不思議ではないでしょう♪

 今回のお話は、「第2話 かっぱの種類」の続きとなります。といっても、繋がりなんて無いのと同じなんですけどね〜。


2008/05/14 Crystalクリスタル

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