第2話 かっぱの種類
とある日の午後…。我らが如月家に、樹神の退魔師“美咲”がやって来ていた。
リビングで寛ぐ美咲の腕には、黄緑色をした謎の物体が抱えられている。優子は、その物体を見つめ、引きつった表情で苦笑していた。
「ねぇ、美咲ちゃん…。その抱っこしているヤツって、本物の“河童”なんだよね…」
それは黄緑色をした固まりで、中に綿でも詰まっているのか、とても柔らかそうである。
パッと見はペンギンをデフォルメ化したような感じなのだが、頭に皿・背中に甲羅といった河童の特徴を捉えた飾りが付いている。総合的に見ても、なかなか可愛い“ぬいぐるみ”だといえた。
「はい、かっぱの“か〜くん”です♪」
美咲は、両手でか〜くんをギュッと抱きしめ、愛おしそうに頬ずりをする。抱きしめられた箇所は、中の綿が収縮し、反対側とくっついてしまうほどへこんでいた。
どこからどう見ても“ぬいぐるみ”なのだが、美咲はそれを本物の“河童”だという…。優子は、そんな美咲にどう対応していいのかわからず、心の中で頭を抱えてしまった。
樹神の退魔師である美咲は、様々な異形や妖怪と仲間の契約をしている。ツチノコやスカイフィッシュなどの未確認生物をはじめ、天狗の少年や山龍の幼体、四神刀と呼ばれる刀の化身や優子たちの知り合いでもある鬼族の末裔“銀星”とも仲間の契約をしていた。その中でも、ひときわ異彩を放っているのが、河童のか〜くんである。
「え〜っと、ファロルさんが置物みたいに、やっぱりただのぬいぐるみ…じゃないの?」
優子は、魔族によって水晶像にされてしまった精霊神ファロルの姿を思い浮かべる。ただし、優子の脳裏には、精霊神殿に安置されている水晶像ではなく、へっぽこ太郎作“信楽焼タヌキ”の置物が浮かんでいた。それらを通称“ファロルさんシステム(意味不明)”という…。
「違いますよ〜。か〜くんは、歴としたかっぱさんです♪」
そう言ってか〜くんを抱きしめる美咲…。抱きしめられた箇所は、ものすご〜くへこんでいる。やっぱり優子には、どう考えても“ぬいぐるみ”にしか思えなかった。
「そ、そうなの…? まぁ、美咲ちゃんがそう言うなら、本当なんでしょうけど…」
精霊や妖精、魔族や魔獣が集まる如月家の状況を考えると、いまさら生きている“ぬいぐるみ”が現れたところで、それほど騒ぎ立てる必要もないだろう。
そんなことを考えながら、かっぱのか〜くんを見つめる優子…。ふと、あることを思い出し、その内容を美咲に確認してみることにした。
「そういえば、近くにある自然公園の湖にも河童が住んでるんだけど…」
すると、美咲は、身を乗り出すよう優子の話に耳を傾ける。半人前とはいえ、美咲は樹神の退魔師である。異形や妖怪の情報には、敏感でなければならない。
「へぇ〜、かっぱが住んでいる湖ですか…」
今は、異形や妖怪の暮らしにくい世の中である。一昔前なら、悪さをする異形や妖怪を退治することもあったが、最近では個体数の減少により保護を優先されることが多い。環境改善や生息地の確保…。退魔師連中の間でも、まさに、絶滅危惧種扱いであった。
また、そんな希少種は、幻獣ハンターと呼ばれるやからの、格好の餌食となる。希少種を捕獲し、売買をして利益を上げる。
対象が異形や妖怪であるだけで、やっていることは人道から外れた行為である。しかも、河童は、幻獣管理組合が発行している幻獣レッドデータブックにも載せられており、取引は固く禁じられているのだ。
ちなみに、美咲とか〜くんの関係はお友達で協力関係にあり、捕獲していることにはならないためお咎め無しとなっている。いや…、もしかすると、幻獣管理組合側も、生きた“ぬいぐるみ”の扱いに困っているのかもしれない。
『いちど、生息地を確認しにいかないと…』
ちゃんとした調査を行い、必要があれば生息地を保護しなければならない。美咲は、紅柱石へ戻る前に、河童の住む湖を確認しようと心に決めた。
そんな考えを纏めていた間も、優子の話は続いていた…。
「それがね…。その湖に住む河童は、あきらかにか〜くんと形状が違うんだ〜」
如月家の近くには、大きな自然公園が広がっており、その中にある湖には河童が住み着いている。優子も何度か出くわしたことがあり、その不気味な姿を思い出すだけで身震いがした。
「やっぱり河童にも、種類ってあるのかな〜?」
恐る恐る問いかける優子に、美咲はパッと笑顔になった。
「かっぱの種類ですか? はい、たくさんありますよ〜♪」
異形や妖怪の種類について、語れる機会などほとんどない。また、理由もなく忌み嫌われる存在である彼らのことに興味を持ってくれる人がいることは、美咲にはとても嬉しいことであった。
そのため、美咲は、いつも以上のニコニコ顔で語りはじめた。
古くから目撃情報が多く、各地域で様々な呼び方をされている河童…。しかし、代表的なところから見てみると、まずはこの二種類が上げられるだろう。
「そうですね〜、“イシがっぱ”に“クサがっぱ”♪ 二種類とも、小さい(子どもの)ときは“ゼニがっぱ”と呼ばれています…」
時の流れが止まり、場の空気が凍りつく…。
「………は?(大汗)」
一瞬、美咲が何を言ったのか理解出来ず、優子は間の抜けた声を上げてしまった。
「あ、でも在来種より、最近では外来種の方が有名かな〜。ほら、“ミシシッピーアカミミがっぱ”って聞いたことないですか? 夜店とかで売っている“ミドリがっぱ”が大きくなったヤツで〜、かなり凶暴な性格をしているんですよ〜♪」
「外来…? って、夜店で売っているーーーーー!」
あまりの衝撃に、優子は叫んでしまう。すると、どこからか、“ずががーーーーーーーん!”といった効果音が聞こえてきた。
さらに、美咲の解説(ボケ?)は続く…。
「“ワニがっぱ”なんて超(ちょ〜)危険なんですよ! あとは〜、“ウミがっぱ”も何種類かいますね。“アカウミがっぱ”、“アオウミがっぱ”…」
「ちょっ、美咲ちゃん?(汗)」
優子は、慌てて美咲の説明を遮る。そして、申し訳なさそうに、確認をしてみた。
「真面目っぽい話のときに申し訳ないんだけど…。それ、本当に河童の種類?(どきどきどき)」
なんともいえない空気が流れる…。
「もちろん、かっぱの種類に決まってるじゃないですか〜♪」
美咲の言葉に、何の迷いも感じられることはなかった。
ちなみに、かっぱのか〜くん。一部の間では、超獣神の一体“超亀神”ではないかと噂されていたりする。
その噂が真実であるかは定かではない…。
おしまい…
あとがき
えっ、終盤に出てきた河童の種類がわからないですか? では、“かっぱ”の部分を“ガメ”と置き換えて読んでみてください。
イシガメ、クサガメ、ゼニガメ、ミシシッピーアカミミガメ、ミドリガメ、ワニガメ、ウミガメ、アカウミガメ、アオウミガメ。全て亀の種類です。
2話連続の動物ネタなのは、本当にたまたまですよ〜。っていうか、今回は亀(動物)の話じゃなく、河童の話がメインですからお間違いなく…。
2008/03/30 Crystal