第1話 ペンギンを飼おう
同一作者小説紹介
★Crystal Legend シリーズ★ 「Crystal Legend 7_2 〜トルマリンの胎動〜」、「Crystal Legend 7_3 〜はじまりの時代〜」、「Crystal Legend 7_4 〜もしかして怪談?〜」
★超獣神グランゾル シリーズ★ 「超獣神グランゾル」、「鳳凰編」
★なんちゃらプラネット シリーズ★ 「なんちゃらプラネット」
★美咲ちゃん シリーズ★ 「〜もしかして怪談?〜」
★4コマ劇場 シリーズ★ 「桜のひみつ」、「ラズベリル☆ショート劇場」
事の始まりは、優子の何気ないひとことであった。
「ペンギンって可愛いよね〜」
突然、何を言い出すのだろう…。ショウは、優子の言葉に小首を傾げる。
「いや、前々から言ってることだけど。飼育環境とか餌の問題がクリアされるなら、“フクロウ”か“ペンギン”を飼ってみたいよね〜」
それを聞いて納得するショウ…。優子は、以前から、テレビ等でペンギンを見かけるたびに“飼いたい”と繰り返し言っているからだ。
「飼ってみたいって簡単に言うけどな〜、生き物を飼うってことは、大変なことなんだぞ…。だいたい、うちにはもうアクアっていう犬がいるじゃないか」
その瞬間、純白の毛並みをした仔犬がずっこける。仔犬の名前はアクアマリン。これでも、精霊界で聖獣とされる光竜一族の幼体である。
「シ、ショウさま〜。何度もいうようですが、ボクは犬ではありません…」
涙ながらに訴えるアクア…。人語を操り戦闘力も高いアクアではあるが、ここ如月家では完全にペット扱いであった。
「うん。確かにアクアちゃんも可愛いんだけど…。ペンギンを飼うことは、長年の夢なわけだし」
優子は、唸りながら何かを考え込む。
「まぁ、飼えないにしても、間近で見てみたいかな〜。テレビの映像や水族館とかで飼育されてるヤツのじゃなく、自然の中で暮らしている野生のペンギンを…」
また無茶な事を言い出した…。ショウは、苦笑しながら優子を見つめる。
じつのところ、精霊界の勇者であるショウなら、一瞬でどんな場所にでも行くことができる。しかし、ペンギンを見たいという理由で、異世界の能力を使うわけにもいかない。
ショウは、どうすれば優子が諦めるのか方法を考えようとした。そのときである。いつも話しをややこしくする“アイツ”が、瞬間移動でもしたかのように現れた。
「そんな優子の夢を叶えるため、野生のペンギンを連れて来ちゃいました〜♪」
そう言って現れたのは、如月家に居候している妖精族のアリスである。
「えっ? ペンギンを連れてきたって本当なの♪」
アリスの言葉に、優子は大感激する。
「何ペンギンなの? マゼランペンギン、イワトビペンギン…。もしかして、皇帝ペンギンとか♪」
可愛いペンギンを想像しながらうっとりとする優子…。だが、相手はアリスである。このまま簡単に話が進むはずもない。
「ふっふっふっ…。そんな、ありきたりなペンギンじゃありません♪」
自信満々なアリスに、優子は驚いてしまう。じつは、優子が知らないだけで、もっと可愛いペンギンがいるのだろうか。優子の期待は、さらに大きくなった。
「見よ! このしなやかな体つきのペンギンを!」
そして、アリスは、懐から、なにやら黒い物体を取り出した。
「おぉ〜〜〜♪」
夢にまで見たペンギンとの対面である。優子は、感激のあまり、拳を振り上げる。しかし、次の瞬間、優子は瞳を丸くして固まってしまった。
優子は、アリスの持つ黒い物体を見つめる。
長いくちばし、つぶらな瞳、すらりと伸びた首。大きな身体に、水かきのついた足。それは、どう見ても、優子の期待していたペンギンではなかった。
「くぅ…、くぇえええ〜〜〜〜〜!」
アリスの持つ謎の生物が、奇声を発する。ちなみに、作者(Crystal)は、ソレの鳴き声を知らないため、奇声はかなり適当である。
「どうよ、このペンギン。めっちゃ可愛いでしょ♪」
激しく暴れるソレを押さえ込みながら、アリスはニッコリと微笑んだ。
「って、どう見たって“鵜”じゃないのよーーー!」
期待していただけにショックは大きい。優子は、瞳に涙を浮かべて叫ぶ。
「え〜っと…。大きさからしたら川鵜…かな?」
ジト目で鵜をチェックする優子に、ショウはおもわず苦笑してしまう。また、鵜飼いで使われる鵜は、ほとんどが“海鵜”であったりする。だが、そのような話、いまは全然関係がない。
「あまいわね〜」
アリスが、チッチッと舌を鳴らしながら、人差し指を左右に振る。
「確かに、これは鵜に違いない…。でも、この前テレビで見たんだけど、鵜とは“ペンギン目ウ科”の水鳥…。つまり、鵜もペンギンの仲間なのだーーー!」
その瞬間、アリスの持つ記憶石から、“ずががーーーーーーーん!”と効果音が流れた。
「えぇえええーーーーーーー!」
まさか、鵜がペンギンの仲間だったなんて驚きである。優子は、かなりの衝撃を覚えた。
「そんな事実を踏まえて見てごらん…(ぼそっ)」 ← あんた誰?(笑)
アリスは、そっと鵜を差し出す。必死に暴れる鵜だったが、この際、無視することにしよう。
優子は、鵜をジッと見つめる。
小さな頭にあるつぶらな瞳…。長く伸びたクチバシ。確かに鵜の身体全体を、もっと丸っこくしたら、ペンギンに似ているような気がした。
「うん。なんだか可愛く見えてきたかも♪」
普段は見向きもしなかった鳥も、こうしてじっくり観察してみると良いものである、しかも、鵜とは優子が憧れていたペンギンの仲間…。本物のペンギンではなかったが、なかなか可愛く思えてしまうのだった。
鵜も、それを感じたのか、暴れるのをやめて優子に視線を向けている。重なり合う視線と視線…。
「………?」
そんな優子たちを、ショウはハテナ顔で見つめている。そして、その違和感にたどり着き、ため息を吐きながら呟いた。
「おまえら、鵜は“ペンギン目ウ科”じゃなく、“ペリカン目ウ科”の水鳥だぞ…」
一瞬にして場の空気が凍りつく…。
「……へ?(大汗)」
真剣に勘違いしていたのか、アリスは間の抜けた声を上げた。
「ア〜リ〜ス〜…?」
いつものように騙されたと思ったのだろう。優子は、ジト目でアリスを睨みつける。
「じゃ、そういうことで♪」
すると、アリスの身体は陽炎のように薄れ、最初からいなかったかのように姿を消した。そう、解放されたことで暴れまくる“鵜”を残したまま…。
「くぇ、くぇっ、くぇえええーーーーー!」
くどいようだが、作者(Crystal)は、鵜の鳴き声を知りません。
「って、鵜だけを置いていくなーーーーー!」
優子の悲鳴が如月家に響き渡る。
結局、ショウによって捕まえられた鵜は、そのまま自然に帰されましたとさ…。
おしまい…
あとがき
いや、とあるテレビ番組で見たんですよ。鵜は“ペンギン目ウ科”だって!
次の日、この“ラズベリル☆ショート劇場”の元作品である“4コマ劇場 アイオライト”(文字だけ4コマ)のネタにするべく、ネットで鵜について調べてみました。すると、ペンギン目ではなくペリカン目であることが判明…。言われてみればペリカンに似てますが、勘違いしている間は『ペンギンが痩せたら、たしかに鵜っぽくなるよな〜』と本気で思っていました。
真実を知ったとき、がっかりするより笑ってしまいましたよ。
で…、最後まで読んでいただいた方、何人ぐらいが“鵜ってペンギンの仲間なのか!”と思ってもらえました?
Crystalの周りの人たちは、ほとんどがオチまで気づきませんでした♪
2008/03/28 Crystal