眠すぎて…
水曜日。今日は喫茶小路に行く日だ。用事があると言って、三吉と藤野のお願いは断った。
駅の北口を過ぎてコンビニへ向かうと、中で雑誌を立ち読みしている小坂が見えた。こちらに気付いてコンビニを出てくる。
数日ぶりに、2人でお店へ向かって歩き出した。
「ふぁ…」
碧乃からあくびが漏れる。ここでは藤野による身の危険を感じないので、つい気が緩んでしまった。
「…結局昨日は何時に寝たんだ?」
小坂が眉根を寄せた。
昨晩も午後9時頃に彼から謝罪の電話が来て、少しだけ話をした。その時に早く寝ろと言われたのだが、碧乃は普通にそれを無視した。
「…3時、だったかな?」
嘘をついてもどうせバレバレなので、正直に答える。
小坂は呆れたようにため息をついた。
「斉川の性格がだいぶ分かったよ…」
「……」
…それはどうも。
店に着きいつもの席に座ると、まず小坂が3日分溜めていた質問の対応から始めた。1人で勉強する事に慣れていないため、いまいち理解し切れなかったようだ。2人でじっくり1つずつ解決していく。
小坂の真剣な姿勢に、碧乃は安心感を抱いた。藤野といる時は常に身構えていないといけないので、非常に疲れる。今いるこの空間は、実に平和で心地良かった。つい先日まで、小坂光毅という男は苦手な存在だったのに。
「明日の放課後はどうするんだ?」
休憩中に小坂が尋ねてきた。
「え?あー…どうしようか?」
そういえば考えてなかった。
「どうしようかって…。何も予定がなかったら、どうせまた断れなくて藤野に捕まるんだろ」
「う……そうですね」
「じゃあ一緒にここで勉強な。自分の事に集中してていいよ、なるべく邪魔しないように頑張るから」
「…わかった」
少々強引ではあったが、彼の言う事はもっともなので素直に従う事にした。
§
ココアを飲み終えると、いつもより早めに店を出た。斉川に睡眠時間を確保させるためだ。彼女は眠気を堪えるために、何度も強く瞬きしていた。
今も隣であくびを止められずに、手で口元を覆っている。藤野がいないからって、いくらなんでも無防備過ぎだ。自分に気を許してくれるのは嬉しいが、それは男としてどうなんだろうか。
眠そうな横顔を見ていたら、光毅の中の意地悪な部分がウズウズしだした。なんだか無性に困らせてやりたくなった。
そんなに眠いのなら、俺が目を覚まさせてあげようか…。
しかしすぐに、その考えを頭から追い出す。彼女には嫌われたくない。絶対に。
心の奥で疼いているものをぐっと抑え込み、平静を装って歩を進めた。
モヤモヤウズウズしながら歩いて、何とかコンビニの角まで来た。ものすごく長い道のりだった。
「…んじゃ、明日な」
光毅が言うと、斉川はこくんと頷いた。
「…おやすみ」
「お、おやすみ」
だから、その顔ダメだって…。
こちらのおかしな表情には気付かず、斉川は帰っていった。
駅へ入っていったのを見届けると、光毅は顔を手で覆って大きく息を吐き出した。