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ひそかに疼く心

 冬休みが終わって三学期。碧乃は窓側の席に横向きに座り、机に頬杖をついて本を読んでいた。

 とそこへ朝練を終えた小坂がやってきて、隣の席にカバンを下ろした。

 「あれ?お、おはよ斉川」

 「おはよう」

 「なんで三吉の席座って……ああ、取られたのか」

 「うん」

 頷きつつ、パタンと本を閉じた。

 ただ今廊下側の席では、三吉と山内がファッション雑誌を間にキャッキャしていた。家が美容室なだけあって、山内はその手の情報に詳しいのだそうだ。

 「山内君て私より『女子』だよね」

 「家に大量にあるやつよく読んでるからな」

 「妹が買ってるの見たけど、何が面白いのかよく分かんない」

 「あれ結構意味不明な単語ばっかで難しいよな」

 「うん」

 「前に、雑誌に載ってたコーデ?だかを真似してみたけどどうかって訊かれた事があってさ、さっぱり分かんなくて笑ってごまかした事ある」

 「あー、私もそれある」

 「マジでウザいからやめてほしいよな」

 「あはは、酷いなぁ。君のためにおしゃれしてくれたんだから、そういう事言っちゃダメでしょ?…あ、那奈ちゃん来た」

 話していたら、藤野が教室へ入ってくるのが見えた。

 「んじゃね」

 「お、おう」

 立ち上がり、そちらへと向かっていった。


 §


 斉川が離れていったのを確認し、光毅はバクバクと鳴っていた心臓をこっそり押さえた。

 だ、大丈夫だったよな?!普通に話できてたよな?

 ちょっと目をそらしてしまったかも知れないが、気になる程ではないはずだ。

 「はぁぁーー……」

 ……びっくりした。

 心臓を落ち着かせるため、ゆっくりと息を吐き出した。

 クリスマスのあの時以来、彼女に近付くだけで、目を合わせるだけで、身の内からゴボリと悪いものが音をたてるようになってしまった。

 一つだけもらえれば大丈夫だと思ったのに、どうにもならないどころかかえって逆効果だった。

 だから隣の席にいるのを見た時は、どうしようかと思った。

 だが相手は鋭い目を持つ黒蛇。こちらが少しでも変な言動をしようものなら、即座にあの日の事がばれてしまう。

 もしもばれたら……仕返しだけでは済まない気がする…………。

 それだけは絶対に、絶対に防がなくては。



 昼休み。三吉の呼びかけにより、昼食は5人で食べる事となった。

 斉川と2人きりは気まずいが離れるのも嫌だと思っていたので、願ったり叶ったりと承諾したのだった。

 ゆったり座りたいという事で、皆で第二和室へと移動。三吉、圭佑、光毅、斉川、藤野の並びでぐるりと輪になって弁当を広げた。

 「ねぇ那奈ちゃん聞いて聞いて!」

 「どしたの萌花?」

 「圭くんったら酷いんだよー?私が圭くんの事気付かなかったら、ずーっと『仲の良いお友達』のままでいるつもりだったんだって!」

 「えー何それ?」

 「『仲の良いお友達』?」

 首を傾げる斉川にも怒り顔が向けられる。

 「そうなの!酷いよね!」

 「い、いやだってさ、こんな展開になるなんて思ってもみねーもん!」

 突然の愚痴に圭佑は慌てて言い訳を述べた。

 「俺が『友達想いで喧嘩っ早い』ってイメージだけ植え付けといて、付かず離れずの距離にいりゃあそれで十分だと思ってさぁ!」

 「んもー!ひどいひどい!それって、私がそんな事にも気付けないおバカな子だと思ってたって事でしょ?!」

 「ちちち違うって!!」

 「圭佑……まさか『防御壁』って、それの事だったのか…?」

 「あーそーだよ!どーせ俺はどうしようもないヘタレだよっ!」

 「圭くんは『お友達』じゃないの。私の『彼氏』なんだよ?『彼氏』として防御壁になってくれなきゃダメなんだからね」

 「えっ、ちょっ…萌花サン……?」

 「頑張って完成させようね?」

 「えええぇぇーー」

 両手を取りしっかりと目を合わせてくる三吉に、圭佑の顔から火が噴き出した。

 呪いをかけられている最中の圭佑に代わり、斉川が要約する。

 「あー……つまり、萌花ちゃんの気が済むまで毎日2人のイチャイチャを見せつけられる、って事…?」

 「そういう事だねー」

 「………めんどくさ」

 「碧乃ちゃん何か言った?」

 「言ってないです!」

 「光毅助けてくれぇ~」

 「ははははっ」


 騒がしくて、面白くて、とても充実した時間。

 5人でいるこの空間に、光毅は心地よさを感じていた。

 心穏やかな今ならばと、そっと隣を見やる。

 「……っ」

 しかしやはり、悪いものは音をたて身の内に波を起こす。

 現状維持は……本当にもう無理なようだ。

 解決策はただ一つ。

 彼女に想いの全てを伝え、深い関係になる事。

 ……どうやったら、俺を受け入れてくれるんだろうな。

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