最悪最高のクリスマス 前編
終業式が午前で終わり、部活も早めに切り上げてもらえた12月24日。仕度を終え、今は15時を少し過ぎた辺り。
光毅がインターホンを鳴らし待っていると、ガチャリと扉が開いて、なんとも複雑な顔をした圭佑が出てきた。
「よう」
「…おう」
「今日は逃げなかったみたいだな」
「…うるせーよ」
ニヤリと笑う光毅を雑にどかし、圭佑は家を出た。
§
「……よし」
できた。
碧乃は模様を付けるために使ったフォークを置き、テーブルの上のブッシュ・ド・ノエルの出来栄えを確認した。
「うーわ、すごっ。完成度高すぎて引くわー」
「うるさい」
陽乃の横槍を軽くいなし、家族で食べる用に作ったそれを冷蔵庫にしまった。
時計を見ると、丁度いい時間だった。
キッチンを片付け、出かける仕度をするため部屋へと向かった。
あー………行きたくない。
しかし行かなければ呪い殺されてしまうので、仕方なく服を着替える。
家族には、変に隠してもどうせバレるため、小坂の家で皆でパーティーをする事になったと正直に伝えていた。おかしな事を言い出さないよう、『皆で』を強調しつつ。
んー…今日はあくまでサポート役だし、格好はいつも通りで良いよね。
ゆるめのニットにジーンズ。
適当なコートを羽織り、ショルダーバッグを肩にかけて下へ降りた。
「行ってきまーす」
言いながら靴を履き、玄関の扉を開けようとした時だった。
ガシッ!
誰かに強く肩を掴まれた。
「あお~?ちょぉーっと待ちなさい」
振り向くと、怒りの滲む母の満面の笑みがあった。
「………え…」
…なんで怒ってるの……?
§
まずは皆で買い出しに行くため、家の最寄り駅にて光毅と圭佑は女子3人の到着を待った。
ほどなくして、藤野と三吉が改札を抜けてやってきた。
藤野は白いタートルネックとショートパンツにブラウンのボアコート、三吉はオフショルダーのニットとチェック柄のミニスカートにピンクのコートを羽織っていた。メイクや髪型、アクセサリーまでおしゃれに整えられ、2人共とても可愛らしかった。
「あ、やほー!」
「おー」
手を振る藤野に光毅が応じ、待ち合わせ場所に4人が揃った。
「良かった、来てくれて。今日はいっぱい楽しもうね」
「え…あ、ああ」
ふわりと笑う三吉に、圭佑はぎこちなく返事をした。
「あとは斉川か」
とそこへ、光毅に1通のメールが届いた。
「え…?」
「小坂君どうしたの?」
「斉川が、遅れるから先に行っててだって」
「えー、そうなの?」
「そっかぁ。じゃあ4人で買い出し始めちゃおっか」
「そうだね」
4人は近くのショッピングモールへと歩き出した。
「…………」
……斉川、どうしたんだろう…?
§
クリスマスのグッズコーナーにて。
「何にするー?あ!これとか可愛いー」
「あー、良いんじゃん?」
「よし!じゃあ決定ー」
光毅がカゴを持ちつつ藤野に対応しているので、必然的に圭佑は三吉の方へ付く。
「うーん、何か面白いものないかなぁー?」
「…………」
後ろを歩きつつ、頭の中でグルグルと疑問が渦巻く。
本当に…?本当に大丈夫なのか?俺がこのまま気持ちを伝えても、この子が傷つく事はないのか?俺なんかが……言っても良いのか?俺は光毅と違って、何にも持ってないんだぞ?
「山内くん、これかけてみて」
「ぅおう?!」
考え事に気を取られていたら、三吉にいきなり眼鏡らしきものをかけさせられた。
「あ、いい!すっごく似合う!これも買お」
「え…」
「えっと、あとはー」
なんともいい笑顔で購入を決定すると、また次のものを探しに行ってしまった。
ええー…?何今の。…ってかこれ放置かい。
「圭佑ー、こんなんあったけどどう──ぶはっ!何だよその顔!」
「……もうよく分からん」
けどなんか……考え込んでるのが馬鹿らしくなってきた。
パーティーグッズのおもしろ眼鏡をかけたまま、圭佑は三吉の元へと向かっていった。
「あはは!山内くん変なかおー!」
§
買ってきた物を皆でリビングに飾り付けながら、光毅は何度も壁の時計を見やった。
斉川…遅いなぁ……。
メールが来てからだいぶ時間が経ったのだが、未だ斉川は来ていなかった。
もうすぐ17時。パーティーを始める時間になるというのに、どうしたのだろう。
……まさか…来ないとかないよな…?
「山内くーん、次はどこに飾ったら良いかなぁ?」
「あー、じゃあ…こっちにこうするか?」
「あ、可愛いー!いいね!じゃあこのメガネは?」
「いや、それはもういいって」
「えー?せっかく買ったのにぃー」
………俺も斉川とあれやりたい。
買い出しで少し打ち解けたのか、三吉と圭佑は話しながら2人で飾り付けをしていた。
ぎこちなくも楽しそうな様子がなんとも怨めしい。
重たいため息を吐き出したところで、ポケットに入れていたスマホが鳴り出した。
着信画面には『斉川碧乃』の文字。
やっときた!!
慌てて通話ボタンを押すと、聞き慣れない声が聞こえてきた。
「メリークリスマース!光毅くん!」
「え?…あの、誰…」
「碧乃のママでーす!こんにちは」
斉川のお母さん?!なんで?
「さっきはメールありがとー!遅くなってごめんねぇー?今おうちの前に着いたから、ちょっと出てきてくれる?」
「へ?あ…はい…」
返事をするなり通話は切られ、何が起きているのかよく分からないまま光毅は玄関へ向かった。
電話口の向こうから怒鳴り声らしきものが聞こえていた気がしたが、あれは一体何だったのだろうか。
「ん?光毅どうした?」
「斉川が家の前着いたって」
「碧乃ちゃん来たの?!」
「もー碧乃っち大遅刻じゃん!」
光毅が外へ出ると、3人も玄関から顔をのぞかせた。
家の前には、黒のミニバンが止まっていた。
運転席の窓が開き、見覚えのある顔が現れた。
「光毅くーん!久しぶりぃー!元気だった?」
「あ、は、はいっ…お久しぶりです…」
「今日はとぉーっておきのクリスマスプレゼントを届けにきたの!」
そう言うなり、車の後部座席のドアが開いた。
「ハーイ光毅さん!メリークリスマス!」
斉川の妹が何かを引っ張りながら顔を出した。
「ほらお姉ちゃん!早く!」
「いやっ、やだ!!降りないったら!!」
「もう着いちゃったんだから諦めなって!」
「やだってば!!離して!!」
「ちょっと暴れないでよー!」
「いやだっっ!」
「もう碧いい加減観念しなさい」
母親も後部座席に移動し、2人がかりで斉川らしき人物をドアの所まで引き摺り出した。
「光毅くん受け取って!」
「いやあっっ!!」
「うわぁ!」
ドンッと押し出されてきた勢いに負け、それを受け止めたと同時に後ろへ倒れた。
「いって…」
「ったぁー…」
「大丈夫か?斉か……」
見た瞬間、光毅の脳はフリーズした。
「はい、スマホ返すねー」
「お姉ちゃんの完成度高すぎケーキもここ置いとくね!みんなで食べなよ?」
「は?!あっ、ちょっと待っ…!!」
「「じゃあね~!」」
スマホを入れたバッグとコート、ケーキの箱を手早く2人の近くに置くと、慌てて立ち上がる斉川に手を振り、嵐のように去っていった。
車が消えた方を睨み怒りに震えた斉川は、未だ呆然と地べたにいる光毅の胸ぐらを勢いづくままに掴んだ。
「なに勝手に家の住所教えてんのよっ!?」
「わっ…や…だ、だって……さっきのメール、斉川からだと思って…」
先の『遅れる』というメールには、母親に送ってもらう事になったから住所を教えてほしいという内容も記されていた。アドレスは確かに彼女のものだったので、何の疑いもせず素直に返信したのだった。
「私があの人に何かしてもらおうなんて思う訳ないでしょ!!それくらい気付けバカッッ!!」
「ご、ごめん………それより、斉川……そのカッコ…」
瞬きも忘れ、光毅は彼女を穴が開くほどに凝視した。
斉川は今、薄い水色のニットワンピースに黒タイツという、完全おしゃれ仕様の格好をしていた。長い髪はゆるく巻かれ、ほんのりメイクも施されていた。
斉川の母親が言うクリスマスプレゼントとは、この事だったようだ。
「めちゃくちゃ可愛い…」
「なっ?!」
気持ち悪いものにでも触れてしまったかのように、斉川は慌てて手を離し後ずさった。
しかし光毅は気にする事なく見つめ続ける。
「こっ、これ、は……あの2人が、無理矢理っ……!」
今にも逃げ出しそうだった斉川を、三吉と藤野が両側からガシリと捕まえた。
「っ?!あっ」
「もうー、碧乃ちゃんやっときたぁー」
「碧乃っちにまでドタキャンされたかと思ったじゃん!」
「パーティー始める時間になっちゃうよ。早く入ろう?」
「ってか、今日の碧乃っち超可愛いー!」
慌て怯える斉川を連れだって、2人は家の中へと入っていった。
呆けたままそれを眺めていると、いつの間にか隣に来ていた圭佑に声をかけられた。
「おーい光毅、突然の天使降臨にびっくりすんのは分かるがいい加減起きろー」
「へあ?」
「じっくり見たいなら中で見ろって。風邪ひくぞ?」
「あ、ああ…」
やっと立ち上がり、光毅も圭佑と中へ入った。
玄関で靴を脱いだ所で、いきなり三吉がくるりとこちらを振り向いた。
「ところで……碧乃ちゃんと小坂君て、どういう関係なの?」
「…え」
「ど、どうって…?」
「さっき碧乃ちゃんのお母さん、小坂君に『久しぶり』って言ってたよ?」
「あ……」
しまった………。
全てを見透かす笑顔が、光毅達を貫いた。
「どうしてなのか、ちゃんと教えて?」
「「…………」」
光毅と斉川そして圭佑は、渋い顔を見合わせた。
「「ええーーーーーっ!?」」
「小坂くんの家庭教師が」
「碧乃っちだったぁ?!」
リビングにて、光毅らは三吉と藤野の反応を真正面から受けていた。
「そして山内くんもその事知ってたの?!」
「あ、ま、まぁ…成り行きでな…」
「ひっどぉーーーい!3人でうちらの事騙してたんだ!」
「ち、違うって!私は騙すつもりはっ…。この2人が勝手に!」
「いや、女子大生とかでたらめ言い出したの圭佑だから!」
「お前だって否定しなかっただろ?!」
「3人とも悪い!!」
「「っ!…」」
藤野の叱責に光毅らは口をつぐんだ。
「じゃあ前に萌花が碧乃っちと家庭教師が似てるって言ったの、当たってたんだ」
「まぁ…そうだね…。あれはものすごく心臓に悪かった。この人も悪ノリするし」
「うっ、ごめん…」
斉川の睨みに思わず目をそらす。
「あ!!ならこの間の『家庭教師と別れた』って話も全部ウソ?!」
「…そうですね……」
「なにそれぇー!!碧乃っち私を利用して楽しんでたんだ?!」
ずいっと近付き見下ろしてくる藤野に、斉川はビクリと反応し怯えるままにそれを見上げた。
「あ……ご…ごめんなさい……」
藤野は斉川をしばし睨み続け……そして。
「スキありっ!!」
「いひゃあっっ」
突然のわき腹攻撃に、斉川の腰がくだけた。
藤野が両手の指をわきょわきょ動かしながら変態の笑みを浮かべた。
「うふふふー。更衣室恒例ウエストチェーック。相変わらずいい腰してるねぇー?」
「っ!!」
「な…お、おい藤野………それってまさか…教室でやろうとしてたやつか…?…」
「阻止しといて良かった……」
頬が紅潮し床にへたり込む姿なんて、他の男に見られたらたまったもんじゃない。
「騙した罰としてお仕置きだぁーー!!」
「えっ?!やだっあぁっ!」
藤野は斉川に襲いかかり、後ろから彼女の両手を拘束した。
「やっ、何するの離してっ」
「萌花いけっ!日頃の怨みを晴らすんだ!!」
その光景をただ見つめていた三吉は、むっと怒り顔になると、無防備にされた斉川の体へと手を伸ばした。
「碧乃ちゃんの嘘つきぃーー!!」
「やめて!だめっ、いやぁっっ!」
三吉は全力のくすぐり攻撃を開始した。
「おんなじ秘密持ってるなんてずるいー!!」
「あはははっ!ごっ、ごめん!ごめんてあははははっ」
「碧乃ちゃんばっかり楽しそうにお話してー!!」
「あっ、そ、それやだっっあはははっ」
「もう全部全部碧乃ちゃんが悪いぃーーー!!」
「だめぇっ!そこはっ、ひゃんっ」
「許さないんだからぁーーー!!」
「やああぁっ」
繰り広げられる光景を前に、光毅と圭佑は直視できずに両手で顔を覆って耐えていた。
「おいっ…これは何の苦行だ……っ…」
「俺もうなんかいろいろ全部出そう…」
「耐えろっ!耐えるんだ光毅!!」
「ううぅ…っ…」
彼女らのお仕置きは、斉川のみならず男2人にも多大なダメージを与えた。
『もう絶対隠し事はしない』と言質を取った所でお仕置きは終了し、斉川は髪とメイクを直されてから解放された。
再び凝視してしまった光毅に鋭い睨みが飛んできたのは、言うまでもない。
「それじゃあ気を取り直してー、メリークリスマース!」
リビングのテーブルに並べられた光毅の母お手製の料理やお菓子を囲み、乾杯のグラスを合わせパーティーを開始した。
「ねぇねぇ、碧乃っちが作ったケーキ食べたーい」
「あ、私もー」
「ええー……」
力なくソファーにもたれていた斉川が半ば諦めの境地で苦言を呈するも、案の定2人には聞き入れられず、テーブルの真ん中にて箱が開けられた。
「すっごーい!お店のケーキみたーい!」
「超おいしそー!」
「すっげぇー……」
斉川の手作りケーキ!!
まさか再び彼女が作ったものを食べられる日が来ようとは。
「あー、いや…家で食べる用に作ったやつだから、味はそうでもないよ?」
仕方なくといった感じで、斉川は光毅から受け取ったナイフで切り分けると、お皿に乗せ適当に手渡そうとした。
しかしそれは素早く三吉にかっさらわれ、圭佑へと差し出された。
「はい!山内くんどーぞ」
「あ、ああ…サンキュ…」
「………」
斉川と藤野は、唖然とそれを見つめた。
「…なんか萌花ちゃん、いろいろ遠慮がなくなったね…」
「だね。さっきのあれで吹っ切ったっていうか、我慢するのやめたって感じ?」
「ああそうだな」
いいから早く、俺にもケーキ!
相づちもテキトーに、光毅は斉川の手元に眼力を注ぐ。
「……ちょっと。今日の目的分かってるよね?」
「分かってる分かってる」
「…………」
目はケーキに向いたままこくこくと頷く様子に呆れてため息をつきつつ、斉川は光毅にそれを手渡した。
「おおー……!」
しばし全方向から眺めた後、フォークで切り出し口に運んだ。
「!!んまっ!」
塗られているチョコレートクリームがあっさりしていて、とても食べやすかった。
「おいしいねー山内くん!」
「え、あ、ああ…」
「碧乃っちこれ超おいしー!」
「そう?なら良かった」
「俺これなら毎日食える!」
「食べなくていいから」
「えー食べたい!ってか斉川はこれ食べられるんだ?」
「そりゃ自分が作ったものだからね」
お店で売ってるケーキが甘すぎて食べられないから毎年自分で作るようになったのだそうだ。
「じゃあ次の俺の誕生日に…」
「作りません」
「えー?良いじゃん!食べたい!」
「料理上手のお母さんにお願いして」
「やだよ。母さんの味もう飽きた」
「作ってくれてるのに飽きたなんて言わないの」
「作ってよ!」
「やだってば!」
ある程度食べ進めた所で、パーティーはゲームタイムに突入した。
「ゲームと言えばやっぱこれでしょ!」
そう言って藤野は、《黒ひげ危機一発》をテーブルの上にドンと置いた。
「ゲームってこれかよ」
「なんだかんだこれが一番楽しいじゃん!」
「まぁ、簡単だしな」
「ちゃんとやるの久しぶりー!」
「ふーん…」
斉川一人がなんとも微妙な反応を示した。
「?斉川どうした?もしかしてこれ好きじゃない?」
「いや……やり方は知ってるけど、やった事ない」
「「ええっ!?」」
皆の視線が斉川へと集中する。
「マジか!」
「やった事ない奴って本当にいるんだな」
「だって一緒にやる人いないし、欲しいと思った事もないから」
「じゃあー初めての一刺しどうぞ!」
藤野から剣が手渡され、斉川は恐る恐る穴に刺した。
「セーフ!はい次の人~!」
半分程刺した所で光毅がはずれを引き当てた。
「あ゛ー!」
「はい小坂君負け~!罰ゲームでーす」
罰ゲーム用の苦いお茶が目の前に置かれた。
「いやだ!俺苦いの嫌いなんだって!」
「ちゃんと飲まなきゃダーメ!」
どうにも逃げられず、覚悟を決めそれを一気に口に含んだ。
「んぐっ!?ぎゃーーーー!!苦い苦い苦い苦い苦い苦い!!」
キッチンへ猛ダッシュし、冷蔵庫のミネラルウォーターを一気飲みした。
あ゛あぁぁーー何これ!マジで死ぬ!
「あははは。そんなに苦い?」
「斉川も飲んでみろよ!!」
「次当たったらねー」
そして見事引き当てた。
「あっ…」
「やった!斉川罰ゲーム!」
光毅はいつもの仕返しとばかりに、うきうきとした顔で斉川にお茶をついであげた。
苦しむ顔を拝んでやる!!
しかし、ぐいっと飲み干した斉川の表情は微塵も変わらなかった。
「え!」
「碧乃ちゃんそれ苦くないの?」
「んー、苦いけど耐えられない程じゃないよ」
「ええぇー」
何だよそれ。
「反応薄ーい。面白くなーい…あ!じゃあ碧乃っちの罰ゲームこれにしよ!」
そう言うと藤野はお皿の上にあったチョコレートを一つつまむと、斉川の口元へ近付けた。
「はい碧乃っち、あーん」
「え、今お茶飲んだじゃん」
「苦しまないと罰ゲームにならないのー!」
「うぅ…」
仕方なく口を開けた所へチョコレートが放り込まれた。
「ほらほら、ちゃんとよく噛んで碧乃っち」
促されるまま、それを一口噛んだ瞬間。
「んんっ!?」
何が起きたのか、驚きのあまり一気に飲み込んでしまったらしく、ケホケホと咳き込み出した。
「どうした?!」
「碧乃っち大丈夫?」
「そんなに甘かった?」
藤野から普通のお茶を受け取り少し飲むと、斉川は驚きとも恐怖ともとれる表情でポツリと問いを発した。
「……これ、何……?」
「え?」
「なんか……中に辛い液体が入ってた」
「へ?!辛い液体?」
そんなチョコ買ったっけ?
「…あ!そう言えば冷蔵庫に入ってたやつも適当に皿に出したんだった!」
光毅は慌ててそれが入っていた箱をゴミ袋から取り出し、内容を確認した。
「げ……これ、アルコール入ってるやつだ…!」
「うっそ!マジで?!」
「バカ光毅!何やってんだよ!」
「いや、いっぱいあったから一個くらいいいかと思って…っ」
「碧乃ちゃんどうしたの?大丈夫?」
三吉の声にハッとして見ると、斉川は目を見開くままにスッと立ち上がった。
「…帰る」
「えっ!?」
ヤ、ヤバイ!!怒らせた?!
光毅の顔から一気に血の気が引いた。
「ごっ、ごめん!本当ごめん!!まさか入ってるなんて思わなくてっ!」
「いいよ。大丈夫だから」
と言いつつ、かばんを持ち扉へと向かう。
「待って碧乃ちゃん!」
「斉川待てって。そんな怒んなよ、チョコ一個ぐらいじゃ酒飲んだうちに入んないだろ」
「違う!怒ってない」
「じゃあなんで?!」
「っっ!」
藤野に腕を掴まれ振り向いたその顔には…………怒りではなく、怯えと焦りが表れていた。
「え……斉川?……」
どうしてそんな顔…?
察した三吉が優しく問いかける。
「碧乃ちゃん。怒ってないなら、どうしてなのかちゃんと説明して?じゃなきゃ皆分かんないよ」
「………………」
斉川はしばし俯き唇を噛むと、怒られた子供のように、小さく小さく呟いた。
「…わ、たし……ものすごく…お酒に弱い体質なの……」




