表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/51

こんなはずでは

呪いの魔女さん、ついに我慢の限界です

 試験終了から1週間程が経ち、街でも学校内でも、クリスマスの話題がひしめき合っていた。

 しかし横にいるこの男は、何やら面倒くさい感じにしょげていた。

 「斉川……俺、クリスマスの予定が何にもないんだけど…」

 「あっそ」

 悪いがこれっぽっちも興味ない。

 「父さんと母さんは2人で出かけちゃうし…姉貴も彼氏んとこ行くし…俺1人になっちゃうじゃん」

 知らないし。

 「斉川んとこ行っていい?」

 「あははは。…絶っ対ない」

 「ですよね…」


 なんて事を話していた次の日。

 2限目が終了した所で、碧乃は山内に話しかけようと後ろを振り向いた。

 しかし山内は終了と同時に立ち上がり、しばし窓側の席の方を見つめた。

 これはついにと思ったが、結局拳を握りしめただけで何もせず、そのまま教室を出ていった。

 はぁ……やっぱりダメか。

 するとその直後、教室の後ろの方から『驚愕』が全面に押し出された声が上がった。

 「ぇええっ?!」

 見ると声の主は藤野で、驚きのあまりスマホを凝視したまま立ち上がっていた。

 そして次に見えたのは……絶望と悲痛。

 碧乃と目が合った藤野は、スマホを持つ手をだらりと下げ、感情の抜け落ちた顔でフラフラと碧乃の所へと近付いてきた。

 「あおのっちぃ~…」

 ……あー………これは………。

 碧乃はため息をつき立ち上がると、藤野に向かって苦い笑みで両手を広げた。

 「うっ…うわあぁぁぁぁぁんっっ」

 藤野はみるみる涙を浮かべ、碧乃に抱きついた。


 §


 「小坂くーん」

 「…んあ?」

 なんだ…?授業終わったのか?

 睡魔と戦いウトウトしていた光毅が意識を覚醒させると、足立が目の前に現れた。

 「ねぇ小坂くん!今度のクリスマス、うちでパーティーする事になったんだけど、小坂くんもおいでよ!」

 「え?あー…」

 クリスマス……。

 と、その時教室の後ろの方から大声が発せられた。

 「…ん?」

 藤野?なんかあったのか?

 しばし見ていると藤野は斉川へと近付き、そして…抱きついた。

 「えぇ?!」

 どういう展開だよ?!

 驚いた光毅は慌てて立ち上がった。

 「あ、待って!小坂くんどこ行くの?!」

 「悪い、後にして!」

 足立には見向きもせず、2人の元へと向かった。


 「おいっ、何やってるんだよ藤野!お前もうセクハラしないんじゃなかったのかよ?!」

 「緊急事態なのっっ!!うわぁあああんっ」

 斉川は泣きじゃくる藤野を自分の席に座らせると、胸元に飛び込んできた彼女の頭を優しく抱きしめポンポンと撫で始めた。

 …なんだそれ。めちゃくちゃ羨ましいんだけど。

 しかし光毅の睨みは完全に無視され、同じく近付いてきた三吉が驚いた声で訊いた。

 「どうしたの?那奈ちゃん」

 「くっ、クリスマス…っ……ドタキャンされちゃったあぁぁーーっっ!」

 「ええっ!」

 「あー…」

 「わああぁぁあーーーんっ」

 斉川に抱きつく力が強まった。

 「っく……、…絶対っ…だいじょうぶだっ、て…言ったのにぃ…っ…うう~っ…」

 聞くと、彼氏が『仕事のせいで会えない状態がずっと続いているから、クリスマスこそは絶対に一緒に過ごそう』と2ヶ月も前から予定を入れてくれていたのだそうだ。しかしそれも、突然発生したトラブルの処理に追われてなくなってしまった。

 「やっと会えるとっ…思ったのにーっ……うわぁああぁあーーんっ!…くっクリスマスっ…ひとりぼっちはやだぁーっ!」

 …すると突然。

 「あ!」

 三吉が思いついたとばかりに、ポンと両手を合わせた。

 「それじゃあ、ここにいるメンバーでクリスマスパーティーしよ!」

 「え!」

 「ひっく…ここにっ、いるって……この4人で?」

 「そう!那奈ちゃんと碧乃ちゃんと私と小坂くん!絶対楽しいよ!ね?小坂くん」

 「え……あ、まぁ…」

 斉川もいるなら…。

 「だよね!」

 「えっ、ち、ちょっと待って萌花ちゃん!」

 なぜか強引に進める三吉を慌てて斉川が止めた。

 「それ別に私いなくても…」

 「ダメだよ。碧乃ちゃんも一緒じゃなきゃダメ!」

 「え、なんで──」

 「ダメなの」

 「っ!…」

 ずいっと近付いてきた三吉の瞳に何を感じたのか、斉川はそれ以上何も言わなくなった。

 三吉が再び笑顔で話し出す。

 「やっぱり皆一緒じゃないとね。じゃあ決定!」

 光毅の顔がパアッと明るくなる。

 クリスマスに斉川と過ごせる!!

 棚からぼた餅とは正にこの事。

 しかし喜んだのもつかの間、三吉から1つの指令が下された。

 「あ、でも小坂くん、男子が1人だけじゃ寂しいよね…。そうだ、山内くんもパーティーに誘って!」

 「圭佑?いやどうだろ、来るかな…」

 「ね?」

 「っ…はい……」

 可愛いはずの笑顔になぜか悪寒を感じ、光毅は素直に承諾した。

 丁度空いているという理由で場所は光毅の家となり、クリスマスは5人で過ごす事が決定した。


 クリスマス……斉川と一緒かぁ…。ヤバイ、めちゃくちゃ嬉しい!

 ルンルン気分で戻った所へ、待ち構えていた足立が再び話しかけてきた。

 「もー、突然行っちゃうからびっくりしたよー。でね?クリスマス──」

 「あーわりぃ!その日予定入ったから無理」

 「えっ!予定って、まさかあの人達と過ごすの?!」

 「誰だっていいだろ。だからお前らとは過ごせない」

 「そ、そんな!あっ、じゃあさじゃあさ、あの人達も入れてみーんなで一緒に──」

 「やだよ、お前らすぐうるさくすんじゃん」

 「えっ……」

 今まで我慢して付き合ってたけど、もうやめた。全部思うままに行動してやる。

 せっかくの時間を邪魔されてたまるか!

 斉川うるさいの嫌いだろうし。

 「とにかく!俺は今お前らとはいたくないから!」

 「…う、嘘……小坂くん…」

 次の授業の担当教師が来たため足立を強制的に追い払うと、光毅は満足気に席についた。

 いいな、これ。なんかすっきりした。

 足立が誰かを睨んでいた事など、知る由もなく。



 昼休み。

 「なぁ」

 「ん?」

 「さっきの三吉のあれってさ…やっぱり…」

 「そうだよ。山内君との事に協力しろって意味。だから今こうやって探してるんでしょ?」

 「だよな…」

 覗いた空き教室の扉を閉めた所で、斉川は思い切り苦虫を噛み潰した。

 「あーもう、なんでこんな事に…。ってか全然見つからないし」

 「……」

 「どこ行ったか本当に知らないの?!」

 怒る斉川の睨みを受け、光毅は目を泳がせた。

 「え、や…えーっと…」

 「…………」

 「…………」

 「…知ってるみたいだね」

 「え゛っ」

 また顔に出てた?!

 「案内して」

 「いやぁ…それは…」

 「案内しなさい」

 「はいぃっ」

 ごめん圭佑!


 §


 「あ゛あ~~~~っっ!くそっ!!」

 ガシガシと頭を掻きむしり、圭佑は怒りを吐き捨てた。

 いつまでこんな事やってんだよ、俺は!

 何度も自分を叱咤し、彼女とちゃんと話をしようと試みた。だがあとちょっとの所で恐怖に絡め取られ、身動きが取れなくなるのだ。

 どんなに打ち消そうとも、何度も何度も湧いてくる。その恐怖は、一体どこから来るのか。

 自分の弱さに、どうしようもなく腹が立つ。

 その時、階段裏に隠れている圭佑の前に光毅が現れた。

 「ん?なんだお前、また追われて…」

 その後ろから、斉川が付いてきていた。

 「…ふーん。こんな所にいたんだ」

 「なっ?!ななな何やってんだバカ光毅っ!!こいつに教えるとか頭おかしいんじゃねぇのか?!」

 「ご、ごめんっ!でもこれには訳があって──」

 「はぁ?!」

 「大丈夫だよ。あの子に言うつもりはないから」

 斉川の発言で、圭佑の動きがピタリと止まる。

 「………じゃあ、何しに来た?」

 圭佑の睨みに、斉川はふっと笑ってみせた。

 「あなたに、自信を持たせてあげようと思って」

 「は?…自信…?」

 「うん。まずは…そうだなぁ…君のその恐怖心の正体、当ててあげるよ」

 そう言うと斉川は、圭佑を真っ直ぐに見つめた。

 「あなたの心の奥に潜むもの、それは……あなたが『谷崎涼也と紙一重』だという事」

 「なっ…」

 ど、どうして……それを…。

 「あなたは、あの人に対してとても強い嫌悪を抱いていた。それはつまり、あの人に自分の姿が重なって見えてしまったからなんじゃない?」

 「っ……」

 「あなたは心のどこかで、『女は男には勝てない』と思っている」

 目をそらし否定をしない圭佑に、斉川は更に続ける。

 「だからもしも、あの子が自分を受け入れてくれなかったら、あなたの望む結果を得られなかったとしたら、あなたは力にものを言わせてあの子を傷つけてしまうかも知れない。……あなたが抱く恐怖心は、そういう事」

 「…………」

 圭佑は苦し気に奥歯を噛み締めた。

 …そうだ。

 女のあざとさを、したたかさを身をもって知ってしまったから、『女』に対して穿った見方しかできなくなっている。

 だから、どんなに違うと言い聞かせても、心の奥から『どうせ三吉も一緒だろ』と声が聞こえてくる。

 そいつのせいで、あの子を傷つけてしまうのが怖い。ものすごく。

 「確かに谷崎とあなたは似ているかもしれない。…でも、絶対的に違う部分が1つだけある」

 「……?」

 「あなたは、自分の弱さをちゃんと知ってる」

 「!」

 強く真っ直ぐな言葉に、圭佑の目が見開かれる。

 「弱さを知っていれば、ちゃんと自分を止められる。決して誰も傷付けない」

 「っ……け、けど…もしも、止められなかったら……俺は…」

 「…ふふっ。だーいじょうぶ」

 「…え?」

 斉川の笑みが深くなった。

 「たとえ止められなかったとしても、あの子ならあなたを止められる」

 「っ!」

 「あの子が只者じゃない事は、あなたもよく分かってるでしょ?」

 言いながら、楽しげに首を傾げた。

 「………………」

  ……三吉が……止めてくれる………。

 「……………本当に…止められると思うか…?」

 「うん。絶対に。ってか、そんな心配してる事自体無駄なんだけどね」

 「へ?」

 「んーん、何でもない」

 「…………」

 でも……そうか。

 圭佑の中で、何かがストンと落ちた。

 三吉が止めてくれるのか…。

 しばしの後、正面からクスリと笑う声が聞こえた。

 「もう大丈夫そうだね。…じゃ、あとは任せた」

 「え!」

 「…あ?」

 見ると、斉川が光毅に後を託し去ろうとしていた。

 「ま、待って斉川!なんで──」

 「まーかーせーた」

 「!?」

 なぜか怒りの混じる黒い笑みで光毅を睨みつけると、1人でこの場を去っていった。

 なんだ今の…?

 その後、光毅から詳細を聞かされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ