狂犬となった王子
イライライライライライライライラ…。
……今日は朝から面白くない。
翌日早朝。『優しいお兄さん』のかけらもなく、光毅は苛立ちを全面に押し出して登校していた。
気持ちのままにギロリと見回せば、昨日までの親しさは何だったのか、生徒達は皆怯えた顔で足早に逃げていく。
「あーあー、もう完全に危険人物扱いだねぇ」
隣を歩く斉川は光毅とは対照的になんとも朝から楽しそうである。
今朝は少しでもやり返してやろうと、斉川を驚かせるために駅のホームで待ち伏せしていたのだが、電車を降りこちらと目が合った瞬間、盛大に当てが外れ彼女は笑い出したのだった。
画策は失敗に終わり、周囲の反応も更に苛立ちを増長させ、斉川と登校できているという最高の状況なのに心の中は最低の状態となっていた。
「あ、そういえば山内君は?」
「は?」
「そろそろやる気になってくれた?」
「知らない。俺に訊くな」
なんで俺といるのに圭佑の話してんだよ。
「うーん、出席日数ギリギリだから学校には来るはずだけど…まだダメダメかなぁ」
「…………」
「だんだんこっちも危険になってきてるんだけどなぁ」
「だから知らないって」
イライライライライライライライラ。
あ゛ーマジで今日は面白くない!
「はぁ…全く、なーんで四六時中君のその不機嫌顔を見せられないといけないのかな」
光毅は朝の登校に始まり、事あるごとに斉川の隣を陣取っては周囲に睨みを利かせていた。
昼休みになり近付いてきた藤野と三吉も追い払われ、今は2人でお昼を食べていた。
「そんなにまとわりつかれても、勉強は放課後以外教えないよ?」
「分かってる。今は、また俺に何かしでかさないように監視してるだけだ」
「ふふ、監視ねぇ」
「……なんでそんなに楽しそうなんだ?」
皮肉を口にしながらも、彼女の表情は常に笑顔でなんとも活き活きしていた。
「えー?だって不特定多数を相手にするよりバカ犬一匹相手にしてる方が何倍も楽だからね」
「なっ!誰がバカ犬だ!!」
「あははは。……本当もう完全に素だね、それ」
「は?」
「君も、何だかんだ楽になったんじゃない?」
「!」
そこには、優しさを宿した瞳があった。
むずむずとしたよく分からないものがこみ上げ、思わず顔が赤らむ。
「っ……、そ、それは…たしかに──」
「にしても、君って友達少なかったんだね」
「んなっ、なんだと?!」
「素だと誰も寄ってこないじゃん。ふふ。良かったねぇ、山内君がいてくれて」
今度は何とも馬鹿にしたような目で見られた。
なんだよその目は?!せっかく良い雰囲気だと思ったのに!
「誰のせいだよ!」
「誰だろねー」
「っ!」
またしても、光毅の顔には不機嫌が貼り付いたのだった。
§
その翌日も、更にその翌日も、小坂は碧乃にべったりまとわりつき、楽しい楽しい日々を提供してくれた。
移動教室から戻る途中、碧乃はふらっと小坂から離れた。
「あっ、おい!どこ行くんだよ?」
「どこって、トイレですけど?」
「!」
「ふふっ、なに?一緒に来る?」
「あ、いっ、いや…」
ばつが悪そうに目をそらす小坂が何とも面白かった。
「そ、それ持っとくから、早く行ってこい」
「ん?…ああ。はい」
持っていた教科書などを小坂に預け、碧乃は女子トイレに入っていった。
本当見てて飽きないよなぁ、あの人。
用を足し上機嫌で手を洗っていると、後ろに人の気配がした。
「斉川さん」
「…ん?」
振り向くとそこには………。
碧乃は、ふっと表情を緩めた。
ああ……やっと来た。
「ちょっと、話したい事があるんだけど」
「うん、何?……足立さん」
いつもの面子を従えた足立梨沙が、笑顔でそこに立っていた。




