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逆転前夜

 「お前はいつになったら行動を起こすんだーーーー?!!」

 席替えの日から1週間経った土曜日の夜、圭佑の家では彼の怒号が響いていた。

 「うるせぇなー。騒ぎが収まったらって言ってんだろ」

 光毅は、耳を押さえた手を離しながら答えた。

 「収まってんじゃねーか、とっくに!」

 写真の件はそこまで周囲の興味を引くものではなかったらしく、土日を挟んだら一気に収束していった。

 「いや、だって、また何かやらかしちゃったら困るし…」

 「やらかすぐらいの勢いでいけよ!」

 「それで嫌われたらどうすんだよ!」

 「知るかっ!」

 「それだけは絶対嫌なんだって!」

 圭佑は大きなため息をついた。

 「『僕、碧乃ちゃんに嫌われたら生きていけなーい』ってか?」

 「気安く名前を呼ぶな」

 「あー、はいはい。…でも、早くしないと本当にやばいかもなぁ」

 「…なんでだ?」

 光毅は怪訝な表情を見せた。

 「今回の騒ぎで、斉川碧乃の存在が全校生徒に知れ渡ったんだ。1人くらいお前みたいに興味を持つ奴が現れてもおかしくない」

 「!!そ、れは…」

 圭佑の言葉に目を見開き、動揺を露わにした。

 「いや、1人じゃ済まないか」

 「えっ!」

 「あいつ、真っ直ぐ人の目を見て話すだろ?あれをやられると大抵の男は勘違いするもんだ」

 「う…」

 「なのに本人には全く自覚がなく無防備なもんだから、こちらとしてはつい手を出したくなっちゃう訳よ」

 「…お前、自分を正当化しようとしてないか?」

 「んー?まぁ、否定はしないねぇ」

 圭佑はニヤリと笑った。

 「要するにあいつは今、お前が猛獣の中に放り込んだ餌って事だ。食われんのも時間の問題だなぁ?」

 「なっ!?あ、あの写真は俺のせいじゃ…!」

 「お前が中途半端に堂々とするから悪いんだろっ!」

 「うっ!…」

 「どうせなら学校中に知らしめるくらいの事をやらかせよ!」

 「いや、でも…」

 「でもじゃないっ!!」


 §


 同じ頃。碧乃はベッドに寝転がり、手に持ったあの栞をぼんやり眺めていた。

 今日も図書館で本を借り、部屋にこもってじっくり読もうと思っていたのだが、どうにも集中できず今に至っていた。頭の中を苛立つものが占領して、文章が入り込む隙間を与えてくれないのだ。

 写真の拡散による碧乃への注目は、そこまで危険度は増さなかった。小坂を慕う女子達から何かしらの攻撃でも受けるかと覚悟はしていたが、結局何もなかった。地味な見た目ゆえに、彼女らの努力をおびやかす存在とは思われなかったらしい。加えて、碧乃を問い詰めた所で大した話が聞ける訳でもないので、生徒達は早々に飽きていった。結論として、雨の中を歩く碧乃を可哀想に思った小坂が、手を引いて駅まで連れていったという事になったらしい。彼の優しいというイメージが増幅されただけで、この件は終了した。

 碧乃の周囲は、再び平和な日常を取り戻した。…のだが。

 どうも騒ぎの発端となった小坂が、未だこちらに負い目を感じているようなのだ。

 何度も視線は向けてくるくせに、席替えの日以来全く話しかけてこようとしない。後ろにいる山内から『お前から話しかけろ』だの『癒やしてやれ』だの言われたが、こちらから話しかける事はしたくないので、そのまま放っておいた。そうしたら、1週間もその状態のまま過ごす事になってしまった。

 もうこれ以上続くのは、さすがに限界だった。

 終わった事をいつまでも気にしていたくはないのだ。からかうのでも何でも良いから、いい加減話しかければ良いのに。大胆なくせに変な所で考え込むとは、彼はかなり面倒くさい性格をしているようだ。

 …やっぱり、こっちから話すしかないか。

 しかし、何をどう話せば良いのだろうか。『写真の事は気にするな』だなんて直接的に言ったら、かえって逆効果だ。

 一体どうすれば……?

 ふと、栞を見ていて気が付いた。

 碧乃は壁にかかるカレンダーに目を向ける。

 確か次の期末試験は12月の第2週。今から4週間後。という事はあと2週間で試験勉強の期間に突入する。寝てばかりいる彼は、放っておいたらまた赤点を取るに違いない。それでまた無理に助けを求められたら、たまったもんじゃない。

 ならばそうならないよう、こちらから先手を打つべきではないだろうか。今から少しずつでも勉強させる事ができれば、前回とは違い、彼も自分も余裕を持って試験に臨めるはずだ。

 再び栞に目を戻す。

 この間は午後3時には部活が終わっていた。集団から逃れて1人になりたいであろう今なら、明日のその時間、もしかしたらあの店にいるかも知れない。

 「……」

 …たまには、立場を逆転させてみようか。

 碧乃は栞を見据え、かすかに黒い微笑を浮かべた。

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