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やっと終わった

 「はい、やめ」

 担当の教師の指示で、解答用紙が回収されていく。

 その教師が出ていくと同時に教室の緊張感が一気に緩み、ザワザワと騒がしくなった。中間試験の最後の教科が、これで終了した。

 やっと終わった。ここまでものすごく長かったなぁ…。

 筆記用具をしまいながら、感慨にふける。

 小坂はちゃんとできただろうかと後ろを見ると、彼は友達に囲まれていてよく見えなかった。

 …まぁ、大丈夫だよね。

 碧乃が大きく伸びをすると、すかさず藤野が碧乃の椅子を半分奪って、腰に抱きついてきた。

 「やっと終わったよー!」

 「うあっ!だ、だからそれやめてってば!」

 「うふふふー」

 「うぅ……」

 こっちは終わってなかった。試験期間中は大人しかったのに。

 「もうー、那奈ちゃんたらー」

 呆れた三吉が近づいて来た。

 「ねーねー、3人でお昼食べに行こー?」

 碧乃にくっついたまま、藤野が提案してきた。試験は午前で終わるので、昼食がないのだ。

 「私は良いけど…斉川さんは大丈夫?」

 三吉は2人の状態を見ながら、不安げに訊いた。

 「あ…えっと…」

 「行こーよー。じゃないと離してあげなーい」

 渋る碧乃に、藤野は腕の力を強めた。

 「わ、分かった、行く!行くからっ」

 「やったー」

 「相変わらず強引なんだから…。ごめんね、斉川さん」

 「あ、うん。大丈夫…」

 すると、ホームルームをするために担任が教室へ入ってきた。

 三吉と藤野は一度離れていった。

 2人を見送り、碧乃は頬杖をついた。

 …まぁいいか。

 だんだん、3人で過ごす事が普通になりつつあった。



 3人は通学で使う駅の2つ隣にある中央駅で電車を降りた。駅前がかなり大きな繁華街になっているので、この辺りの人達が遊んだりする時は大抵ここに来る。碧乃達と同じ制服姿の人も、何組かこの駅で降りていた。

 駅を出て少し歩いた所にある、おしゃれなカフェレストランに入る事になった。前に三吉と藤野が来て、デザートがおいしくて気に入ってしまったのだそうだ。内装は白を基調としていてとても明るく、可愛い小物などが飾られていて、いかにも女の子が好きそうなお店だった。碧乃1人だったら絶対に入れない場所だ。

 昼時で混んでいたが、4人掛けのテーブルが運良く空いていたのでそこへ座った。碧乃は必ず藤野の隣に座らされるので、三吉はその向かい側に回る。この位置関係はもうお決まりとなっていた。



 「んーおいしー!やっぱここのデザート最高!」

 「こっちのケーキもおいしいよー」

 お昼のパスタを食べ終わり、藤野と三吉は食後のデザートを食べていた。藤野は大きなプリンパフェ、三吉はチョコレートケーキをそれぞれ頼んでいた。

 碧乃はアイスティーを飲みながら、幸せそうな2人を眺めていた。

 小坂もそうだが、どうしてそんなに甘い物が食べられるのか不思議で仕方なかった。

 「斉川さんも一口食べてみる?結構甘さ控えめだよ」

 ボーっと見つめていたからか、三吉が話しかけてきた。

 「え、ううん。私には甘そうだからやめとく」

 「じゃあ、こっちあげるー。はい、あーん」

 藤野が生クリームの上にあったオレンジをフォークに刺し、碧乃の口元に近づけてきた。

 「え…」

 「ほらほら。幸せのおすそ分けー」

 強引な押しに負けて、碧乃は渋々それを食べた。少しついていた生クリームがやっぱり甘かった。

 「甘い……」

 「えー?これだけでもダメー?」

 「本当に苦手なんだねぇ」

 渋い顔でアイスティーを飲みながら、驚く2人に頷き返した。

 女の子らしいものは自分には無理だ。



 デザートを堪能し終えると、3人はこの後の予定が決まらないままに店を出た。混んでいる店に長居するのは申し訳ないので、とりあえず歩きながら考えようという事になったのだ。

 デパートやゲームセンターが立ち並ぶ方へ歩いていると、同じ制服の5人組と遭遇した。小坂と山内、それと同じクラスの女の子3人組だった。

 「あれー?三吉ちゃん達も来てたんだ?」

 可愛い子大好きの山内が、すかさず三吉に話しかけてきた。

 「あ、う、うん。そうなの」

 小坂の前なので、三吉はおどおどしながら答えた。

 「これからどこ行くの?」

 更に山内の質問は続く。

 「えっと、じ、実は、まだ決まってないの」

 「そうなの?」

 山内の顔がパッと輝いた。

 あ……。

 碧乃と小坂は、同時に嫌な予感を抱いた。

 「俺たち今からカラオケなんだけど、一緒に行かない?」

 …やっぱりか。

 「え?あの、えっと…」

 山内の突然の誘いに、三吉は困って藤野に助けを求めた。

 代わりに藤野が訊き返す。

 「こんなに大人数じゃ入れなくない?」

 「えー?ダメなら2部屋とかにすれば大丈夫だって」

 「こら、勝手に話を進めるな」

 小坂が間に割って入る。

 「だって、そっち3人はお前目当てだろー?俺1人ぼっちで寂しいじゃんか」

 そう言うと、山内は三吉の後ろに隠れ、ちゃっかり彼女の肩に手を置いて小坂に訴えた。

 「俺も三吉ちゃんと楽しく歌いたーい」

 「きゃあ!や、山内くんっ?」

 「なっ!お前な…」



 結局駄々をこねる山内に小坂と三吉が負け、8人でカラオケに行く事になった。女3男1ずつ2部屋に分かれようという山内の提案は小坂が断固反対したので、皆で大部屋に入った。テーブルを挟んで置いてあった2つのソファーの片方に小坂を連れた女子3人組が陣取ったため、もう片方に山内、三吉、藤野、碧乃の順に座った。

 三吉の隣で上機嫌の山内が先手を切って歌い出し、他の人達も次々自分の曲を入れていった。

 人前で歌うのが苦手な碧乃は聞き役に徹していたが、人数が多いおかげで誰にも咎められなかった。というより、誰も気付いていなかった。

 碧乃はしばらくぼんやり座っていたが、さすがにこの空間に疲れを感じてきた。

 誰かの歌を聞くのも飽きたし、女の子に囲まれている小坂にも興味がないので、隣の藤野にトイレに行くと伝えて部屋を出た。



 トイレは碧乃達の部屋から離れた所にあり、部屋からその場所は見えなかった。

 手を洗い終えると、碧乃は大きく伸びをした。やはりカラオケは苦手だ。

 あと1時間も聞いてるのは辛いなぁ、などと思いながらトイレを出ると、目の前の壁に寄り掛かって立つ小坂がいた。

 「!」

 驚いた碧乃と目が合うと、彼は意地悪な笑顔を見せた。

 「……」

 これは、素通りしたら怒るんだろうな…。

 碧乃は1つため息をつくと、彼に近付いて話しかけた。

 「…何してるの?」

 「んー?別にー?」

 ニヤニヤと、故意にはぐらかされた。

 …面倒くさいなぁ、もう。試験の事を訊けば良いんでしょ。

 「…ちゃんとできたの?」

 「うーん…、前よりはできたっていう手応えはあったけど、目標達成してるかは分かんないな」

 意地悪さをふっと消し、真面目に答えてくれた。

 「そっか。…まぁ、あんなに頑張ったんだから大丈夫だと思うよ」

 カフェオレを飲みながらノートに向かう姿を思い出し、率直な意見を述べた。

 「そう?じゃあ、自信持って待っとく」

 嬉しそうな小坂に苦笑いで返し、部屋へ戻ろうとした。

 「あ、そういえば」

 こちらの動きを止めるように、小坂が話しかけた。

 「なんで歌わないんだ?」

 「え…」

 碧乃の顔が一瞬にして引きつる。

 やっぱり気付いてたか。

 「に、苦手だから…」

 彼から目をそらしながら答えた。

 何か隙を見つける度に人をからかうのは、やめてくれないかな。

 「でも、前に藤野達と来た時は歌ったんだろ?」

 ちゃっかり情報収集してるし…。

 「あの時は、2人にお願いされて仕方なく…」

 「じゃあ、俺がお願いしたら歌ってくれる?」

 小坂は、ずいっと碧乃の顔を覗き込んで言った。

 いきなり目の前に意地悪な顔が現れ、碧乃は驚いて一歩後ずさった。

 「!!…む、無理だって!あんな大勢いたらっ」

 「ふーん…。じゃあ今度…」

 「小坂くーん」

 碧乃と小坂は声のした方に目をやった。

 小坂と一緒にいた3人組の1人、足立梨沙あだちりさがこちらへ近付いてきた。今日も彼女は、こてでしっかり巻いた長い髪にバッチリメイクで、小坂に愛想を振りまいていた。表裏が激しそうなので、碧乃は彼女が苦手だった。

 「もうー、なかなか戻ってこないから心配で迎えに来ちゃったー」

 真っ直ぐ小坂の方へ向かい、しっかり腕を絡めた。その際、一瞬だけ碧乃と目を合わせた。

 「え…ああ、わりぃ」

 「ほらー、早く行かないと小坂君の番になっちゃうよー?」

 戸惑う小坂をぐいぐい引っ張っていく。

 「え?俺何も入れてないけど…」

 「一緒に歌おうと思って私が入れたのー。ほら早く早くー」

 あっという間に小坂は連れていかれて見えなくなった。

 「……」

 突然の出来事に、碧乃は唖然としていた。

 何度か瞬きをして平常心を取り戻すと、彼女が碧乃を見た時の目つきを思い出した。

 お前みたいな奴が気安く話しかけるな、と威圧している目だった。

 …女って怖いなぁ。やっぱり、学校で話すの禁止にしようかな…?

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