そして、死んだ
甘いマスクをつけて、甘い言葉を並べて女に近づいて、手に入れた女を弄ぶだけ弄んで、飽きて捨てる。
『コイビト』という鎖に縛りつけられるのが嫌いなのか、ただ単に面倒臭いだけなのかは分からない。
相手が、『コイビト』と思うのはどうだっていい。人の恋愛事情に首を突っ込むほど暇な男ではない。人間が、犬や猫を愛するように、彼も、楽しいことを愛しているだけだ。ただ、相手を人間と見ているかどうかと問われれば、否と答えるだけだ。相手がどんなに少年のことが好きでも、彼が飽きてしまえばその関係は白紙に戻るのである。
自分には『コイビト』だなんて一生縁の無い話、だって楽しくなさそうだもの、と快楽を求めるだけに作られた頭で考えた。
「だから、終わりね。僕、もう君に飽きたから。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
赤いドレス。赤い口紅。ウェーブのかかった茶色の艶やかな髪。白い肌。青い眼。どれも、彼の好みの女だ。ここのところ、一週間は遊んであげていた。
だが、それももうおしまい。
赤い女のヒステリックな声が、安っぽい部屋の中で響く。
「だーかーらー、僕の話し聞いてたの?」
「聞いてたわよ!!」
少年が一人で寝るには些か大きすぎるベットの縁から立ち上がり、振り返る。
その幼く端麗な顔は飽きた玩具をもう二度と開かれることの無いオモチャバコに仕舞う子供のような顔をしていた。女が再度叫ぶ。
「飽きたってなに!?私を捨てんの!?」
「捨てるもなにも、別に君と僕は『コイビト』じゃあ無いデショ?」
どうして?と言うように首をかしげてくりくりとした愛らしい大きな眼をベットの縁に座っている赤い女にむけた。
「金?金が欲しいの?貴方のためなら、今の倍払うから…」
「お金なんか、要らないよ?だって、お金なんて他のお姉さんから貰えるもの。」
「・・・そう……」
座り込み震えながら下を向いていた女がゆっくりと顔を上げる。
その青い眼は涙に濡れ、何かを決意した眼をしていた。少年の背筋がゾクリとはねあがる。
「分かったわ、貴方の気持ち。」
ヤバい、そう感じた時には遅かった。
何処から取り出したのかは分からないが、彼女の手には銀色のナイフがあった。
女が立ち上がり、走る。
一瞬のことだった。
「・・・うっ、」
少年の横腹に、ナイフが刺さる。
べちゃっ。
女の赤いドレスと同じくらい赤い血が、床へ飛び散った。
痛い痛い痛い痛い。刺された部分が焼けるように痛い。悲鳴をあげて助けを請うこともできない。
「(あ~あ、僕はここで死んじゃうのかなぁ。でも、今までで一番僕の好みの女の人だったから、まぁいっか!)」
元より爛れた生活。家族なんかとうの昔に亡くしてしまった。
パタン。
扉のしまる音がして、女が消えた。
少年が最後に見た女の顔は、とても辛そうな顔をしていた。
「(ばかな、おんなだよねェ……こんながきに、だまされるな、んて・・・)
少年は笑った。