エピローグ
エピローグⅠ
城下町を見下ろせる、小高い丘の上。
黒髪の少年と赤毛の少女は、初春の風に髪を揺らしながら、去りゆく故郷を暫し懐かしんでいた。
モリオンは、母の胸中でぬくぬくとしている。
ジャックは、草っぱらの上に寝転がり、ボンヤリと青空を見上げていた。
風が渡り、雲が流れる。
「行こう」
アルテミシアが言った。
あの時。
暗い森の中で泣く男の子を、赤毛の少女が連れ出した時みたいに。
白くほっそりした手が、差し出された。
「うん」
頷いた少女は、自分よりも頭一つ分背の低い少年の手を握った。
これから始まる旅は、決して逃避行ではない。
神殿を、森を、家族から逃げ出したあの日は、もう終わった。
これからは自分で決めて、自分で進むのだ。
冒険は、始まったばかりだった。
エピローグⅡ
それから皆がどうなったかって?
そりゃあ、死んでなければまだ生きているでしょうよ。
そう、こんな風に――
「ねぇ、『どうせいあいしゃ』って、なぁに?」
春風吹く、穏やかな日差しの下で、無邪気な少年はとんでもないことを言った。
「シっ、シア! そんな言葉をどこで覚えたのっ?」
泡を食って問いただす女騎士に、
「お母様が云ってたよ」
無垢な少年は不思議に思いながら、幼なじみの少女に告げる。
その答えに、クラウズェアは頭を抱えた。
「同性愛者ってぇのはですねぇ――」
こいつは面白そうな話題だと、話に割って入ろうとした汚らわしい影人間の言葉を遮り、
「変態のことよ」
真面目な赤毛の少女は、そう断言する。
「へんたい?」
「不道徳で、汚らわしいってことよ」
「変態の何が悪いのさっ? 変態だって生きてる! 変態でも良いじゃない!」
「黙れっ、変態の申し子!」
「皆さん初めまして。破廉恥の国からやって来た、変態の申し子です」
相変わらず変態の意味は解らなかったアルテミシアだが、楽しい会話のやり取りに、くすくすと忍び笑いを零す。そうして、こう、宣言したのだった。
「ジャックさんが故郷に帰る方法も探さないとね。頑張って探そうっ、はれんちとへんたいの国を」
「探しちゃ駄目ぇーーーっ!」
少女の言葉が、高く、遠く、空に揚がった。
――こんな具合に、今でもどこかで楽しく旅しているに違いありません。
おしまい。
今まで読んで下さった皆さん、本当にありがとう御座います。ただただ、感謝の念で一杯です。
ひとまず、一区切りがつきました。これで『始まりのお話し編』はお終いとなります。しばしの充電期間をおき、その後、『豪華客船編』に取りかかる予定です。
次こそは「複数ヒロイン」で「萌え」で「キャッキャウフフ」な内容になる……はず!……です...




