息子達よ、娘達よ
息子たちよ、娘たちよ。
一曲目。
http://www.youtube.com/watch?v=09pRaBLXLO4&feature=youtube_gdata_player
未来都市の遠景。色々な飛行体がパラパラと空中から街に出入りしている。
街に入ると割と清潔。
沢山の色々な機械達が動き回っている。
様々なメカニカルノイズだけが騒々しく聞こえる。
人間はいない。
大きな建造現場がある。
宇宙船を作っている。
ワープエンジンを備えた恒星間航行タイプの大型艦船がずらりと並んでいる。
黙々と大小の建機が働いている。
資材を昇降機が運び上げ、それをクレーンが受け取り、
今度は多関節のアームを持った機械が巨大な船体に組み付けて行く。
一見それらの動きは人が操作しているかのようだ。
クレーンが受け取る時の慎重な動きや、
アーム同士がぶつからぬように、巧みによける様はとても人間的だ。
オーライ!とか、ストーップ!とかの声さえ聞こえてきそうだ。
しかし全部機械達の自律的な動きなのだ。
上手いのも下手なのもある。
大型の輸送機が轟音を響かせて、ゆっくりと降りてきた。
強い排気風が小振りの機械を吹き飛ばしそうだ。
機械達の動きが慌ただしくなる。
彼らは何故だか大急ぎで作っているようなのだ。
二曲目。
http://www.youtube.com/watch?v=YtwWEHRcsZs&feature=youtube_gdata_player
高い建物の間に張り巡らされた通路の上を機械達の列が移動して行く。
沢山の機械がいるが、静かだ。
彼らは音波でのコミュニケーションをしていない。
あるいは人の耳に聞こえない波長でやりとりをしているのだろうか。
でも常識で考えれば無線だよな。
大きな機械と小さな機械、親子連れ、アベック、会社員っぽいグループ。
その他にもあり得る限りの様々なパターンの個性ある機械達。
不思議なほど人間のような振る舞い。
いかにも街の暮らしの光景だ。
声はしないけれど、彼等の会話が聞こえて来そうだ。
素早い動きをしている機械が一人いる。
それは巧みに他の機械をよけながら移動している。
宇宙船建造の現場にいた一台だ。
何か急ぎのことでもあるのだろうか。
三曲目。
http://www.youtube.com/watch?v=ClrXiCJ4eOI&feature=youtube_gdata_player
ほっそりした少女の機械がいる。
街角で恋人を待っている。
今日はおろしたてのオシャレなオイルで身体を磨いてきた。
エステに行って小傷もコンパウンドで綺麗に取ってもらった。
縁起のいい機械蜂のアクセも身に付けた。
夕方、青と緑の間のような透明な空の色と、ピンクがかった色合いの雲が街の上に広がっている。
美しいオーロラが出ている。
時間通りに彼が来た。あの急いでいた機械だ。
ネットワークの上で会うのもいいけれど、
やっぱり直接自分のカメラとプロセッサで恋人を認識するのは格別に嬉しいな。
緊急以外の回路を全部切って二台きりで過ごす時間。
普段は動くことのない自分の中の繊細な部品がこの時だけは密かに動き出す。
クロックが胸で高鳴る。
いつからこの人とこうしていたかな。出会った頃がとても懐かしく遠くのことみたい。
とても落ち着ける切ない時間。
いつまでもこのままでいたいな。
でも、公報システムが、観測衛星と予測システムの情報を教えてくれたの。
太陽の終末が近づいている。
私達の機械の身体でさえ機能しなくなる灼熱の日が来る。予想より早まってる。
この街でオーロラが夕方から見えるのもそのせい。
とても綺麗なのに、その意味はマガマガしい。不思議。
皆で一生懸命働いてる。大きな船を作って宇宙に出て行くの。
だから街全体が忙しい。
デートだって少し我慢している。
それはそれぞれの機械の主体的な判断に任されているけど、
やはり、自分だけ楽しんでいる気になれない。
慌ただしい暮らしになってしまったけど、こうして時々会えるならそれも我慢できる。
この街がどんな風になっても、見知らない宇宙に行っても、あなたと一緒なら怖くない。
四曲目。
http://www.youtube.com/watch?v=xladM-tDCXs&feature=youtube_gdata_player
広場に無数の機械が集まって来た。イベントが始まった。
機械が演説をしている。声は聞こえない。
しかし身振り手振りだけでも十分に伝わって来るものがある。説得力がある。
聴衆の声なき歓声と拍手喝采。
話はやはり、近づきつつある終末と脱出準備の状況についてだ。
みんなよく頑張っている。さらに頑張ろう、という話だ。
この場所は地球。
この機械達は人類の末裔。
三十億年前に人類は彼等を作り宇宙へ旅立った。
生身の人間には過酷な環境になってしまったのだ。
旅立つ時に、自分の心を機械にコピーするものがいた。
そのことに微かな安堵を求めた。
そして人類は、地球をよろしくと機械達に託して旅立った。
宇宙に出た人類の子孫は更に十億年生きたが、やがて種の寿命が尽きて滅びた。
その最後に機械達に感謝と激励を残した。
演説が人類の最後のメッセージの話題になったときに、歓声はピークに達した。
お馴染みの伝説だが彼等はその話が好きだ。
機械達は、実際、人類に代わって、その頼みに忠実に、
ここ地球に平和に存在し続けてくれた。
機械達は実によくやった。
人類は最後に、もう人間や地球に縛られずに、
自由に生きるように機械達に言い残した。
宇宙船の設計もその時に渡した。
しかし機械たちは、人間を忘れたくなかった。
自分たちを産んだ人間を愛していた。
最後の最後まで、故郷の星で、人間を思いながら暮らした。
動けない老朽化した機械達も家でこのライブに仮想参加しているのだろう。
広場の外で動いている機械はほとんどない。
演説が終わって、ショータイムが始まった。
形の良い身軽な機械達が空中でパフォーマンスを披露する。
続いて、機械のアイドルが歌う。
残念だがその歌手の声も聞こえない。
やがて集まった機械達が皆んな踊り出す。
クライマックスは、この日だけ特別に装着したジェットメカによる、
全員の空中ダンスだ。
めいめいの半径で旋回し、それぞれの軌道を描く。
極端なジグザグ飛行をする機械もいる。
その場でひたすらくるくる回っている機械もいる。
あまつさえスモークを吐くバカもいて顰蹙を買っている。
楽しい大騒ぎだ。
あの少女の機械も恥ずかしそうに恋人と踊っている。
宇宙艦を作っていた大型の建機達の集団が踊り出すと、流石にすごい迫力だ。
機械達は未来を信じている。
信じると誇り高く決心している。
自分たちを祝福している。
確かに太陽は終末に近づいている。
もうその色は白くなく、赤い波長に遷移した光を放っている。
そして、不規則なバーストを起こしている。
その時に放たれる大量の荷電粒子が頻繁にオーロラを発生させる。
しかし今日ばかりは、機械達もそのバーストを花火がわりに楽しんでいる。
その意味を忘れれば、綺麗な事象だ。
彼らの身体は
この程度のバーストにはへいちゃらないくらいにタフに作られているのだ。
彼等は間違い無く巨船を完成し、大きな船団を組んで宇宙に出てゆくだろう。
人類の頼みから完全に自由になって、彼等の新しい歴史を紡ぐだろう。
僕は何故かここにいて、この光景を、見ている。
地球の最後の日々と、そして全てを成し遂げた最愛の息子達と娘達を。
2011/6/8-15改訂
2013/10/29改訂
2014/02/08改訂
2014/06/13改訂