武器屋
僕達三人と一匹は、フォティアさんの家を出た後、武器屋のある北側目指して、大通りを歩いていた。
街中は、昨日と同じように暗い雰囲気を醸し出していた。あえて昨日と違う点を挙げるとすれば、それは大通りを歩いている人や、建物の側にいる人達の中にいるプレイヤーの数が明らかに少なくなっていることだろうと思った。
「リディウスが昨日言ってたとおり、かなりの数のプレイヤーがいなくなっているね」
けど、それが意味することはつまり・・・。
そのことを考えると、気が滅入った。
「そうだね。けれど、それは今はどうしようもないことだから、考えない方がいいよアスト」
「そう、だね」
リディウスの言うとおりなんだろうけど、どうしても考えちゃうんだよね。
「はあっ」
僕の口から、意図せずため息が出た。
「元気出せよアスト!お前まで暗くなってる場合なんじゃないんだからさ」
「わかってるんだけど、どうしてもね」
「前向きに行こうぜ!今いなくなっている奴らは、別に本当に死んだわけじゃないんだからさ」
「そうだよ。だからアスト、さっさと武器屋に行こう」
「わかった。今は考えないように頑張るよ」
「そうそう、その意気だ」
それから僕は、目的の武器屋に行き着くことだけを考えて足を進めた。
そのかいあって、武器屋に着くまでネガティブにならずにすんだ。
そして僕達は、剣と盾が描かれた看板が出ている店の前にたどり着いた。
「到着!」
「ここであってるのリディウス?」
「ああ、この看板の店であってるよ」
「それじゃあ早速入ろうぜ!」
「うん」
「そうだね。とと、忘れるところだった。アスト、ビットは店の中に入れられないから、店の前で待っててもらってくれるように言って」
「わかった」
僕は、姿勢を低くして僕の後をついて来ていたビットを見つめた。
「ビット」
「キュ?」
何?とばかりにビットは、僕を見上げた。
「今から僕達は買い物をしてくるから、少しの間待っててくれるかな?」
「キュイ!」
僕がそう言うと、ビットは大きく頷いて店の入り口わきで丸くなった。
「じゃあ、入ろう」
そして僕達は、店の中に入った。
その結果、僕と勇也は驚くことになった。
なぜなら、入って最初に見たのは、店中に置かれている大量の様々な武器。ではなかった。
僕達が入って見た店の中には、売り切れの立て札ばかりで、武器はほとんど置いていなかったからだ。
「何これ?」
「何だよこれ?」
僕と勇也は、揃って困惑した。
「らっしゃい」
ちょうどその時、店の奥から声が上がった。
僕達は、声のした方を見た。
そこには、子供程度の背丈にがっしりとした身体。しっかりと手入れをされた、髭を生やしたいかにも親父とか言われそうな顔つきのドワーフの男性が立っていた。
「坊主達、武器を買いに来たのか?」
「は、はい!そうです!」
僕は、声を上ずらせながら答えた。
「そうか。だが残念だったな坊主達。内の店の武器は、昨日来た客達がほとんど買ってっちまって、もうほとんど残ってねぇんだ」
「それってー」
昨日、北側に集まっていたプレイヤー達のことかな?
「アストの想像であってるよ」
そんなことを考えていたら、リディウスが僕の考えを肯定してきた。
「え!僕、口に出してた?」
無意識に口に出してたのかな?
「いや、付き合いはわりと長いからね。だから、アストがこういう場合何を考えているのかは、だいたい想像がつくんだよ」
「アハハ、そういうこと」
僕の口からは、自然と笑い声が出た。
「おい待てよ!それじゃあ、俺達これから武器無しでどうするんだよ!」
僕が笑っていると、勇也がそう言った。
「てっ、そうだよリディウス!武器無しでこれからどうするのさ!」
「そうだねぇ。まず、僕とアストについては魔法をメインにすればいいかな?けど、アークの武器は早急に手に入れないとやっぱりまずいかな?すみません」
リディウスは、僕達の会話を聞いていた店主?のドワーフさんに声をかけた。
「おう、なんでぇ坊主!」
「武器の補充って、どれくらいかかりますか?」
「そうだなあ?もう店にゃあ、材料もほとんど残ってねぇえから、材料を入手してからになるからな。・・・ざっと一週間って、ところだな」
「そうですか。どうしよっか、一週間後にまた来る?」
「そんな悠長にしてていいのか?」
「僕達の安全が第一だからね、この際時間は惜しまない方がいいと思うよ?」
「たしかにそうだろうけど、武器が補充されるまでの間僕達は、何をして待ってるの?」
「フォティアさんに頼んだ魔導書を使って、魔法の修得かな?」
「ほうっ!坊主達は、フォティアの嬢ちゃんの知り合いなのか?」
「そうですけど、フォティアさんのことをご存知なんですか?」
「おおよ!フォティア嬢ちゃんの小さい頃から知ってるぜぇ。そうか、坊主達はフォティア嬢ちゃんの知り合いなのか。坊主達、坊主達はすぐに武器が欲しいのか?」
「出来れば早めに手に入れたいですけど、僕達は安全を第一に考えているので、無いなら無いで武器が補充されるまで待ちます」
「ほお、今時の若者にしては堅実だな」
そう言った後に、店主?さんは腕を組んで、何かを考え始めた。
そして、考えがまとまったみたいで、あらためて僕達のことを見た。
「坊主達。坊主達は、これから何か予定はあるのか?」
「いえ、とくには無いですね」
「本当だったら武器を買って、街の外に行ってみるはずだったんだけどな」
「武器が無いんじゃあ仕方ないだろう勇也」
「そうだけどさ」
「それなら坊主達、俺の手伝いをしてくれないか?」
「手伝いですか?」
「ああ、俺はこれから材料の採掘に行くからどうかと思ってな。もちろんただ働きってわけじゃないぞ。ちゃんと報酬も出すからな」
「報酬ですか?」
「おうよ!坊主達は、武器が欲しいんだろう?材料集めを手伝ってくれるなら、帰ってきたらいの一番に、坊主達の武器を作ってやるよ。それに、金の方も材料費分はただにするしな。坊主達にとっても、悪い話じゃあないだろう?」
「たしかにそうですけど、僕達のメリットが多過ぎませんか?それだと、あなたの方が得るメリットが僕達に比べて少なくないですか?」
「はっ、ガキの坊主達が気にすることじゃねえよ。それにな、坊主が言うほどには俺の得るメリットは、少なくないんだぜ」
「そうなんですか?」
「おうとも!まず第一に、坊主達三人が手伝ってくれるなら、採掘する材料の量を増やせる。第二に、そうすりゃあ採掘に行くのは一回から二回程度で終えられる。第三に、時間が浮けばそれだけ大量の武器を作って、店を再開出来るってもんだ。だから、坊主達は別に気にしなくていいんだぜ」
「そうですか。勇也、アスト、僕はこの話をぜひ請けたいんだけど、二人はどう思う?」
「俺は構わないぜ。報酬もでて、武器も手に入れられるんだから、文句はないしな」
「僕もいいよ」
「それじゃあ決まりだね。店主?さん、その話おうけします」
「そうか、それじゃあ早速行くとしようじゃねいか!」
そう言って、店主?さんは店の出入口に向かおうとした。
「あ、行くのは少し待ってもらえませんか?」
が、その店主?さんをリディウスが呼び止めた。
「うん?どうかしたのか坊主?」
店主?さんが振り返って、問い掛けてきた。
「フォティアさんにアイテムを注文しているんです。ですから、街を出る前に注文した物を受け取ってから行きたいんです」
「アイテム?フォティアの嬢ちゃんにか?フォティアの嬢ちゃんの店に何を注文したんだ坊主達は?」
「魔導書を三冊程です」
「魔導書を三冊!坊主達、よくそんな大金を持ってたな」
店主?さんは、かなり驚いているようだ。
「リディウス」
僕は、リディウスの服の裾を引っ張った。
「どうかしたのアスト?」
「店主?さんをここまで驚かせるって、いったい魔導書って、どれくらいの値段なの?」
「そうだねえ?一番安い魔導書でも、だいたい八十万円相当だね」
「い!」
「え!?」
僕と勇也は、揃って顔を引き攣らせた。
「まあ当然だよね。なんせこっちの世界の本といったら全部手書きだし、それが魔導書ともなると、内容によっては国家予算全てを使っても足りないのが普通だよ」
リディウスは、なんの問題も無いかのように平然と言った。
「そ、それじゃあ、リ、リディウスがフォティアさんに頼んだ魔導書の値段って?」
知りたくないのに、聞いてしまった。
「知りたい?」
こくり
僕は、リディウスの確認に頷いた。
「そう。じゃあ教えてあげるよ」
ゴクリ
僕は、思わず唾を飲み込んだ。
「お金では買ってはいけないレベルだよ」
「お金では買ってはいけないレベル?」
「そうだよ。もしも僕が頼んだ魔導書の内容を知っている人が、あの魔導書をお金でやり取りするなんて聞いたら、発狂しておかしくなっちゃうよ」
「冗談だよね?」
「残念ながら、実話だよアスト」
「実話って、それってまさか!?」
魔導書のせいで発狂した人が実際にいる?
「うん♪アストの想像通りだよ」
「イヤイヤ、そんな楽しそうに言うことじゃないよねリディウス?」
「ああ、ごめんごめん」
「にしても、よくそんな魔導書をフォティアさんは店に置いてたな?」
「それは簡単だよ勇也」
「うん?」
「知識は高く売れるからね。アラギの眷属の大半は、珍しい魔導書なんかを普通に持っているよ」
「へえ、そうなのか。けどさ、そんな魔導書を俺達が貸し出してもらって大丈夫なのか?」
「僕達なら問題無いよ。僕達ならね・・・」
リディウスは、意味深にそう言った。
「僕の方は、もうリディウスに任せるよ。けど、あまり一人では触りたくないね」
自分で下手に触ると何か起きそうだし。
「まあ、扱い方はちゃんと教えるから安心してよアスト」
「今の話の後だと、リディウスを信頼していても不安になるんだけど」
「大丈夫大丈夫、扱い方を間違えなければ安全だからさ」
「そうであることを願うよ」
「それで店主?さん、待っててもらえますか?」
「おう!かまわねえぞ。坊主達がフォティアの嬢ちゃんの所に行ってる間に、俺の方も出かける準備をしておくからよ」
「ありがとうございます。それじゃあ二人共、行こうか」
「おう!」
「うん♪」
そうして僕達は、武器屋を後にした。




