戦闘スタイル
夜が明けて次の日。チュンチュンという鳥の鳴き声で、僕は目を覚ました。
「ふあぁぁっ」
起きぬけに欠伸を一つして、周囲を確認した。
自分が寝ていたベッドを含めて、三つのベッドが並べてあるだけの簡素な部屋だ。
そして、視線を右側に向けた。右側のベッドでは、勇也がまだ寝ている。
次に左側のベッドを見てみる。
そこにはリディウスはおらず、綺麗に畳まれた布団とシーツが置かれていた。
僕は視線を正面に向け、寝ぼけ気味な頭で現在の自分の状況を考えた。
「昨日は、フォティアさんに部屋にとうされて、そのまま寝たんだっけ?」
上手く回らない頭で昨日のことについて思い返した。
そのせいで、此処がゲームであることや、デスゲームモドキ化していることを思い出してしまい、起きぬけから暗い気分になった。
そんな感じで少しの間ぼうっとしていると、部屋の扉が開いた。
「おはよう、アスト」
そして、リディウスが朝の挨拶をしながら部屋に入っつ来た。
「おはようリディウス。起きるの早いね」
「目が覚めてしまってね。勇也はまだ寝ているのかい?」
「まだぐっすり寝ているよ」
「そうか。にしても神経が太いな、二人共」
「どういう意味、リディウス?」
「いや、昨日の今日でよく寝ていられるな、と思って」
「ああ、そういうこと。それなら僕の場合はただ、リディウスと勇也に依存しているだけだよ。これがもし、一人や知らない人と一緒だったら、不安で眠れなかっだろうね」
「依存って。アストは自分で言うほどには、僕達に依存はしていないと思うよ」
「傍目からじゃわからないことだけど、自分ではかなり二人に依存していると思うんだけどな?」
「一応言っておくけどアスト、頼ることと、依存は別だからね」
「そうなのかな?」
「そうだよ。アストだって、僕達に頼られたら嬉しいだろう?」
「そうだね。とても嬉しいな」
僕は、二人に頼られる場面を想像して、自然と顔に笑みが浮かんできた。
「そういうことだよ。アストが嬉しい場面は、僕達にとっても嬉しい場面なんだから」
「うん♪」
「さて、そろそろ勇也を起こそうか」
「そうだね。おーい勇也、朝だよ」
僕は、隣でぐっすり眠っている勇也に呼びかけた。
「うう~ん、まだ後少し」
勇也は、そんな寝言を言いながら寝返りをうった。
「どうする、リディウス?」
僕は、判断をリディウスに丸投げした。
「しかたないな、それならもう少し寝かせておいてあげようか。どうせ、そんなに急ぐ用事とかないんだし」
「用事といえば、今日は何をするのか、予定はあるのリディウス?」
昨日の話からすると、早速レベル上げでもするのかな?
「一応、今日やることはだいたい決めているよ」
「そうなんだ。何をするの?」
「とりあえずは、昨日買わなかった武器や防具を揃えようと考えているんだ」
「ああ、そういえば結局昨日は、武器とか買ったりしなかったんだっけ」
やっぱり戦闘準備は、装備やアイテムから始めないといけないよね。
「うん、幸い昨日の報酬で予算はかなりあるから、高い装備品を買えるよ」
「高い装備品ねぇ?いったい何を買う気なのリディウス?」
「それは、品物を見て決めるよ」
「そう」
それもそうか。たしかに、ある物から見繕うのが普通だよね。
「そういえば、アストは戦闘スタイルのイメージとかは、持っているのかい?」
「戦闘スタイルのイメージ?」
「そうだよ。こんな武器を使いたいとか、こんな戦い方をしてみたいとか、そんな感じのアストの希望はないの?」
「うーん?特には、ないかな?」
そんなこと、考えてなかったからな。
「参考までに聞くけど、リディウスにはもうイメージがあるの?」
「あるよ」
「じゃあ、教えてよ」
「いいよ。僕のしたい戦闘スタイルは、一般的なエルフのイメージ的な戦い方だよ」
「一般的なエルフのイメージ的な戦い方?それってつまり、弓と魔法で戦ってこと?」
「そうだよ」
「そのスタイルって、使い勝手はいいの?少なくとも他のゲームでは、弓は不遇武器だったと思うけど?」
「そうだね。β版の時の評価でも、命中率と消耗率が原因で、不遇武器扱いだったよ」
「それでもいいの?ゲーム攻略を目指すなら、使い勝手が良い武器にした方がいいんじゃないの?」
「それはそうだけど、やっぱりゲームなんだから楽しみたいじゃないか」
「え!そんな理由!?」
そんな理由で武器を選んだの?
「悪いかな?」
「いや、別に悪くはないけど、意外ではあるかな?てっきり、実用性重視で選ぶのかと思ってたから」
「ははは。最速クリアを目指すならともかく、急ぎじゃないんだから、実用性重視じゃ僕達のモチベーションの方が持たないよ」
「急ぎじゃない?」
リディウスには、速く攻略する気がない?
「そうだよ。だって、最速攻略でクリアしちゃったら、死んだプレイヤー達の死亡が確定しちゃうんだよ」
「あ、ああ!そういえばそうだったよね」
そうだった。昨日リディウスが言ってたじゃないか。クリアした時点で死亡してたら、現実でも死亡するって。リディウスの言うとおり、その前提条件があるいじょう、最速クリアなんて絶対にしちゃいけないことだ。そもそも、昨日の話だと、復活・蘇生の手段を得て、みんなにそれを教えることが、今の目標だった。
「だからねアスト。君も自分が続けられる武器やスタイルを探すといいよ」
「そうだね。けど、どんな武器とかがいいのかな?のんびりプレイするつもりだったから、戦闘関係はあまり考えてなかったんだよね」
「それなら僕が相談にのるよ」
「お願い」
「じゃあ、最初にいくつか質問をするよ」
「わかった」
僕は、リディウスの言葉に頷いた。
「じゃあ最初の質問。アストは、自分で直接戦うのと、僕達を補助するのなら、どちらをしたい?」
「そうだなあ?二人の補助がいいかな?直接戦う自分を想像出来ないし」
「そう。じゃあ二つ目の質問。魔法とかスキルによる補助と、生産による補助なら、どちらがいい?」
「魔法とかスキルによる補助がいいかな?二人と一緒に居たいし」
一人で黙々と生産活動なんてしたくないし。
「わかった。ならアストの戦闘スタイルは、後衛からの補助関係がいいだろうね」
「それだと、現状どんな武器やスキルを覚えれば良いの?」
「そうだなあ、とりあえず武器は杖か魔導書がいいかな?後は鞭も候補に入るのか?」
「杖と魔導書はわかるけど、なんで鞭も候補に入っているのリディウス?」
繋がりがよくわからない。
「それは決まってるじゃないか」
そう言ってリディウスは、僕のベッド脇を見た。
リディウスの視線を追いかけてみると、そこには気持ち良さそうに眠っているビットがいた。
ビットを見て、僕はリディウスの言いたいことがわかった。
「つまり、魔物使い的な感じ?」
「そう。昨日のモンスター達の様子を見る限り、アストがその気になれば、いくらでもモンスター達を仲間に出来そうだからね」
「たしかにそんな気がするけど」
僕は、昨日のモンスター達の様子を思い出して、リディウスの言うとおりだと思った。
「だから、武器はさっきの三択で決まり」
「たしかに、選択肢はそれぐらいかな?じゃあ、魔法・スキル・クラスの方は、どんなのが良いのかな?」
「そうだねえ、とりあえずは回復系・味方補助系・ステータス変化系の三種類を取得してほしいな」
「うん、わかった。それじゃあ、その三種類を取得出来るクラスは何があるか、リディウスは知らない?」
「そうだねえ?回復系なら《僧侶》、《神官》とかかな?補助系は、《付加術師》、《魔物使い》、《魔獣使い》なんかで。ステータス変化系は、《呪術師》、《邪教神官》、《トリックスター》なんてのがあるよ」
「そうなんだ。どれにしようかな?」
もっとも、ステータス変化系の《呪術師》と《邪教神官》は、名前からしてどうかと思うけどね。
「別に、全部取得してもいいんだよ?」
「このゲームって、そんなに多くのクラスを持てるの?」
「持てるよ。もっとも、クラス毎のレベル上げが面倒なんだけどね」
「そうなんだ。じゃあ、取得出来るものから手に入れていこうかな」
「そうしなよ」
「うん」
「ふあぁ」
僕達の話が一段落したちょうどその時、勇也の欠伸が聞こえてきた。
「お目覚めみたいだね」
「そうだね」
勇也の方を見ると、ちょうどベッドから起き上がったところだった。
「おはよう勇也」
「ふあぁ、はようアスト」
まだ眠いようで、欠伸をした後に挨拶がきた。
「さて、勇也も目を覚ましたし、フォティアさんのところに行こうか」
「了解」
「うん。ビット、君もおいで!」
僕がそう言うと、眠っていたビットが、のっそりとこっちに向かって動き出した。
僕達三人と一匹は、フォティアさんのいる所に移動を開始した。