デスゲームモドキの始まり
僕達三人と一匹は、フォティアさんの道案内のもと、フォティアさんの家目指して路地裏を進んでいた。
だけど、店から出て見た街の雰囲気は、店に入る前とは全然違っていた。
店に入る前に見た街は、ゲームを始めたばかりのプレイヤー達で大いに賑わっていた。
なのに、今の街には暗く澱んだ空気が満ちていて、ゲーム中だとはとても思えない様相をしていた。
フォティアさんについて路地裏を歩きながら、原因を探してみるとすぐにわかった。
街の至る所に、暗い雰囲気を纏った人達がいた。ある者は泣き叫び、ある者は周囲に怒鳴り散らし、またある者は、静かに沈黙していた。さらにその人達を観察してみると、ある共通点に気がついた。それは、その人達の着ている衣装はどれも同じ、村人衣装だということだ。つまり、暗い雰囲気を纏って騒いでいる人達は、全員がプレイヤーということになる。
この時点で、先程のリディウスが時間だと言った後に何が起こったのか、だいたい想像がついた。
だけど、それは合って欲しくないことだ。でも、僕はその想像を否定することが出来なかった。
その為、僕の全身から嫌な汗が噴き出た。
僕は、視線を横にいた勇也に向けた。
勇也も周りの状況を確認して、僕と同じ想像に行き当たったらしく、青い顔をして額から汗を流しながらこっちを見ている。
勇也のその顔を見て、僕の想像がハズレていないのだと確信してしまった。
次にリディウスを見たが、リディウスの方はいたって普通だった。
この雰囲気の中で普通にしていられることを鑑みるに、やっぱりリディウスはこうなることを、又はこうなっていることを事前に知っていたんだ。
けど、さっきの勇也とのやり取りからして、リディウスが主犯や原因というわけではなさそうだ。となると、リディウスは今の状況とどんな関わりがあるんだろう?
歩きながら考えてみたけど、いまひとつ正解が見えなかった。
それでも状況は進行して行く。
移動の過程でプレイヤー達の傍を通る時に、プレイヤー達の声が聞こえてきた。
いわく、ログアウト出来ない。または、フィールドで死んだ仲間が街で復活しない等など、さっきの想像をうらずける内容のプレイヤー達の叫びや呟きが耳に入って来た。
移動中こんな内容を聞き続けて、気が滅入った。
だけど、僕もリディウスを信じていられるから今は落ち着いていられるけれど、リディウスのことを信じ切れていなければ、僕も周囲のプレイヤー達の仲間入りをしていたんだと考えると、リディウスを信じている自分の心が誇らしかった。
そんなことを思いつつ、僕達は移動を続けて、フォティアさんはある二階建ての家の前で止まった。
「皆様、ここが私の家になります。どうぞ中へ」
そう言って、フォティアさんは僕達を家の中に招き入れた。
家の中も、外観通り中世ヨーロッパ風の間取りとなっていた。
「部屋は今から用意いたしますので、しばらくの間そちらでお待ち下さい」
そう言ってフォティアさんは、僕達にソファーを奨めてから、家の奥に消えて行った。
「どうする?」
「フォティアさんに言われたとおり、座って待ってようよ」
「それがいいよ」
「そうだな」
僕達三人は、ソファーに座ってフォティアさんが部屋の準備を終えるのを待つことにした。
「なあ、リディウス?」
「何だい勇也?」
「結局、今このゲームはどういう状況なんだ?それとも、これも今は言えないのか?」
「いや、それについては教えられるよ」
「じゃあ俺達に話てくれよ」
「わかった、二人にはちゃんと約束どおり話よ。二人共、もう想像はついていると思うけど、現在このゲームはログアウト不能のデスゲームモドキになっているんだ」
「やっぱりね。けどリディウス、デスゲームモドキっていうのはどういう意味なの?外のプレイヤー達の声を聞いた限りだと、死んだプレイヤーは復活していないんでしょう?」
リディウスの言葉で、僕の不安が的中したことはわかった。けど、なんでデスゲームモドキなんだろう?
「そうだぜリディウス、モドキってのはどういう意味なんだ?」
「それはね。今、このゲーム内では、死んでも自動的に復活はしないけど、アイテム・魔法・スキルによる復活なら可能だからだよ」
「それって、デスゲームって言えないんじゃあないの?」
死んでも生き返ることが出来るなら、それはデスゲームとは言えないよね。
「そうでもないよ。なんせ、最終的に死者を出すかどうかはプレイヤーの選択に依存するからね」
「どういう意味だよそれ?」
勇也と僕は、揃って首を傾げた。
「それはね、このゲームのクリア時に死亡していたプレイヤー達は、そのまま死んでしまうからだよ」
「「え!?」」
僕と勇也は、揃って声を上げた。
クリア時に死亡していると、実際に死ぬ?
何で、一回死んだら終わりのデスゲーム仕様でもないのに、最後をそんな仕様にしたんだ、今の状況を引き起こしている人は?
「何でそんな仕様になってるんだよ!」
「さあ、この設定にした理由については、僕も知らないよ」
そう言ったリディウスの顔は、嘘を言っているようには見えなかった。
「そうなのか。それなら、ゲームクリア直前以外は死んでもそれほど問題は無いんだな?」
「問題はあるよ」
「え!問題がある?今のリディウスの話の中に問題なんかあったか?だって、ゲームクリア直前以外なら、死んでもアイテム・魔法・スキルで生き返れるんだろう?」
「そうだよ。だけど、だからこそ問題が出て来るんだ」
「どういうこと?」
「蘇生や復活のアイテム・魔法・スキルは、中盤以降にしか出てこないんだ」
「それって、ゲームの仕様的には普通のことだよね?」
ゲーム序盤に復活・蘇生のアイテム・魔法・スキルなんかあると、面白味がないし、序盤の敵はそこまで強くないんだから、最初の方では必要性は乏しいんだよね。それに、本来の仕様だと死に戻りがあるんだから、ますます序盤は必要無いよね?それのどこに問題があるのかな?
「そうだよ。だから、他のプレイヤー達は、このゲームをデスゲームだと思い込むんだよ」「???ああ!」
それはそうだよね、死に戻りしない上に復活・蘇生の方法が序盤に無いんだから、このことを知らないプレイヤー達にとっては、デスゲームだとしか思えないよね。
「それがどうしたんだよ?」
「それは一つの引き金となり、一握りのプレイヤーを残して、大半のプレイヤー達は死ぬことになる」
「何でだよ!」
「プレイヤー達にとって今のこのゲームがデスゲームであり、現実だからさ」
「それとさっきの問題にどう繋がるんだよ!」
「簡単なことだよ勇也。人は、本能的に死ぬのを恐れる。それゆえ、大半のプレイヤー達が安全なこの街の中に留まろうとするだろう」
「まあ、何も知らなければそうなるんじゃないか?」
「そうだね。だけど、この街に今このゲーム内にいるプレイヤー達を全て受け入れるだけの容量はない」
「まあ、そうだな」
「すると、容量を越えた分のプレイヤー達は当然、街の外のフィールドにあふれ出す」
「それで?」
「さっきまで僕達がいた草原と違って、β版時に現在進入可能なフィールドのモンスターは、全てアクティブなんだ」
「おい、それってまさか!?」
「うん、街に出たプレイヤー達は出た端からモンスター達に襲われるね。そして、そのまま死亡して復活・蘇生されるまでの間、この世界から消える」
「何とかならないのか?」
「無理だよ。今の僕に、僕達に出来ること何もないんだよ」
「そうか」
勇也は、リディウスの言葉にショックを受けたみたいだ。けど、リディウスの言うことも最もなんだ。子供の僕達には、どうすることも出来ない。
「そして、その惨劇を見た街にいるプレイヤー達や、運良く生き残ったプレイヤー達は、絶望して街に閉じこもるだろう」
「そうだな。そんなものを見ちまったら普通は、そうするだろうな」
「その結果、ゲームの進行は遅れ、それがプレイヤー達の復活・蘇生をさらに遅らせることになる」
「リディウスがさっき言っていた問題ってのは、こういうことか」
「そうだよ。最初で躓いて悪循環に陥る典型的なパターンだよ」
「たしかにそうだな。どうすればこの悪循環を断ち切れるんだ?」
「僕達に出来ることは、ゲームを進めて、復活・蘇生アイテム・魔法・スキルを入手して、プレイヤー達の目の前で復活・蘇生を行うことぐらいかな?」
「それで、本当にどうにかなるのか?」
「他のプレイヤー達も、このゲームがデスゲームじゃないと分かれば、大丈夫だと思うよ」
「はあ、俺達にはそれくらいしか出来ることはないか。それで、具体的には俺達はこれからどうすればいいんだリディウス?」
「僕達は、普通にデスゲームの要点を押さえながら冒険をしようよ」
「デスゲームの要点を押さえながら冒険って、リディウスそれはどういう意味?」
「言ったとおりだよ。復活・蘇生手段が入手出来るまでは、安全マージンをとりながら、クラスのレベルアップに努めるんだ」
「あ~、なるほどね。そういうこと?」
「そういうこと」
「どういうことだ?」
「それはね、序盤は復活・蘇生手段が無いことに変わりはないから、デスゲームの攻略みたいに死なないようにゲームを進めて行こうという話だよ」
「あ~、なるほどな。了解だ。じゃあ明日からは、レベル上げでいいんだな?」
「ああ」
「そうだね」
「良し、決まりだな」
これで僕達の明日からの行動は決まった。
「皆様、部屋の準備が整いました」
「わかりました」
僕達は、メリアさんの案内で部屋に行き、そのまま眠りについた。
こうして、波瀾万丈なゲーム開始一日目は終わりを告げた。