初クエスト
僕達は、今大通りを進んでいる。だけど、大通りはあっちもこっちも、プレイヤーとNPCで混雑していて進むのが大変だ。
「うう、人多過ぎだよ」
周囲は、人、人、人。何と言うか、人酔いしそうなぐらい辺り一面人だらけだ。
「たしかにこれは多過ぎる気がするな」
「しかたがないよ。まだ始まって間もないし、みんな最初に行く所は同じだろうからね」
「つまり、周りの人達も僕達と同じ様に武器屋を目指しているってこと?」
「それもあるだろうけど、北側のフィールドに行く人達もこの中にはいるだろうね」
「つまり、進行方向が他の連中と重なっているってことか?」
「そうゆうことだろうね。プレイヤーが大量にいるんだから、混むのは当たり前だしね。だから、かなり順番待ちになると思うけどどうする?」
「だけど、いきなりフィールドに出るのは危ないだろう?」
「そうだよね。武器も防具も無しじゃあ、相手にダメージを与えにくいは相手の攻撃は強くなるわで、大変だろうしね」
「そうだよな。リディウスの方は何か案があるのか?」
「案っていうか、消去法だね。戦闘関係が難しいなら、街中を見て回らない?ひょっとしたら、クエストとか発生するかもしれないしさ」
「たしかにそれも有りだな。アストは、どう思う?」
「僕も良いと思うよ。それで何処から見て行く?」
「そうだな、時計台に上がってみないか?」
「時計台?そうだね、上の方から街を一望してみるのもいいかな」
「あ、それはたしかに良いね。じゃあ時計台に戻ろうか」
「じゃあ戻ろうぜ」
僕達三人は、大通りから脇道に移動して時計台に向かって歩き出した。
歩きながら脇道にあるものを見てみたら、大通りにある店とは感じの違う店や露店がいくつも並んでいた。
それから脇道を少し進んだ所で、勇也が立ち止まった。
「お?」
勇也が何か見つけたみたいだ。
「どうかしたの?」
「ほら、あれ見てみろよ」
勇也が目線で、示した。
「うん?」
「何かな?」
僕とリディウスは、勇也の視線を追いかけた。
すると視線の先には、いかにも困っている様子の三十代くらいの女性型NPCがいた。
なぜNPCだと一目でわかるのか。それは、着ている服が僕達プレイヤーとは違っているからだ。開始早々、服を買うプレイヤーはあまりいないだろうし、多分間違いないだろう。
「クエストかな?」
「クエストだろうね」
「そうだろうな。二人共、あの人のクエストを受けてもかまわないか?」
「僕はかまわないよ」
「僕も良いよ」
「よし、決まりだな」
僕達は、NPCに近づいた。
「どうかしたのか?」
勇也がNPCに話し掛けると、NPCがこちらに振り向いた。
「あなた達は、冒険者の方達ですか?」
「そうだ」
「それでは、わたくしの依頼を受けてもらえませんか?」
「依頼の内容は?」
「依頼内容は、この街の南にある草原に生息しているハーブラビットを倒して、私のもとまで持って来てほしいのです」
「わかった。あなたはしばらくここにいるのか?」
「いえ、依頼を受けてもらえましたので家に戻ろうと思います。ですので、あなた達がハーブラビットを倒した後は、街の南側にある薬屋においで下さい。私は、そこにおりますので」
「わかった。後で伺うよ」
「それでは失礼します」
NPCは、僕達に一礼してこの場を去って行った。
「それじゃあ南の草原に行こうぜ!」
「うん♪」
「わかった」
僕達は、南の草原目指して歩き出した。
そして、南側にある門を抜けて草原にたどり着いた。
そこは、見渡す限り一面に広がる大草原。あっちこっちに、無数の影が見える。その影の一つ一つが、この草原に生息するモンスター達のようだ。モンスター達は、草原の一定の範囲を行ったり来たりしている。モンスター達の行動範囲に入ったら攻撃してくるのだろう。に、しても。
「モンスターばかりで、プレイヤーが僕達以外には見当たらないね?」
僕は、首を傾げた。
北側は、あんなに混雑していたのになんでこっちには、プレイヤーがまったくいないんだろう?
「そうだな」
勇也も、草原を見渡しながら頷いた。
「あ~、それはだね。多分だけど、β版の『星天竜の箱庭』では最初の時点ではこの草原に入れなかったせいだと思うよ」
「え!?リディウスはβ版プレイしてたっけ?」
「いや、自分ではプレイしてないけど内容を知るツテがあってね。そのツテからの情報だよ」
「ふうーん、そんなツテがあったんだ。それで、β版からのプレイヤーがいない理由はわかったけど、新規のプレイヤーがいないのは何でだろうね?」
「さあな」
「多分、最初のプレイヤーの大移動でそのまま流されたんじゃないかな?あるいは、さっきのNPCから依頼を受けることが、開始時点からこの草原に立ち入る為の条件だったとかかな?」
「あー、それはあるかもね。だけどどうする?この依頼、ハーブラビットを倒さないといけないけど、僕達まだ村人衣装だけで武器も防具も身につけてないよ」
「一回だけ戦ってみようぜ。負けたら、武器と防具を調達してからまたチャレンジすればいいさ」
「僕は、それで異存はないよ」
「僕もそれで良いよ」
「さて、じゃあハーブラビットは何処かなっと?」
勇也はそう言って、辺りをキョロキョロ見た。
「ウサギはいないね」
僕も草原にいるモンスター達を確認してみたけど、いるのは外見が豚、牛、馬、鶏、山羊、羊などのモンスターだけだった。この組み合わせって、もしかしなくても。
「何かこの草原って、家畜系の外観を持ったモンスターしかいないね」
「そうだな。見た感じじゃあ、現実の家畜とそう変わらないしな」
「あー、それはだね。この草原って、β版だと牧場とかを持てたんだよ。その関係か、この草原には家畜の姿のモンスターばかり出現するらしいよ」
「へえ~そうなんだ。けどさ、それだとハーブラビットも家畜扱いなのかな?」
「そうかもね。今の日本はともかく、一昔前は普通に山で狩られていたはずだからね」
「うう、僕達も今から可愛い兎達を狩るんだね」
動物が好きだから、それはちょっと嫌だな。こう、いかにもモンスターな外見だと逆に気が楽になるんだけどなぁ。
「そういえば、さっきのNPCはハーブラビットを倒したらって、言ってたけど生け捕りでもいいのかな?」
「何でだ?」
「だって、あのNPC何のドロップアイテムが欲しいとか言ってなかったしさ。生け捕りにして直接渡した方が良いのかなって思って」
「そうかもな。とりあえず一匹ぐらい倒して考えようぜ。生け捕りに出来るかなんて判らないんだからさ」
「そうだね。けど結局、ハーブラビットは何処にいるのかな?」
「やっぱり奥の方に行ってみないと判らないね」
「まあ、こっから見える範囲にいないいじょう仕方ないな。けど、ウサギを見つける前に他のモンスターに襲われそうだな」
「その辺は多分大丈夫だよ」
「何で?」
「この草原のモンスター達は、草食動物のせいかノンアクティブなんだって。だから、こっちから攻撃しなければ襲っては来ないはずだよ」
「それなら安心して奥に行けるね」
「そうだな。じゃあ行ってみるか」
「「わかった」」
僕達は、草原でハーブラビットを探し始めた。
のだが、しばらく歩きまわったがハーブウサギはいっこうに見つからなかった。
「いないなウサギ」
「いないねぇハーブラビット」
「というか、何か視線がすごいんだけど」
そう、ハーブラビットは見つからないし、歩きまわっている間中モンスター達の視線が僕に集中していた。ただ、視線の種類は敵意じゃなくて、興味や好意の類に思えた。
「たしかに、周りのモンスター達全部がアストを見てるな」
勇也が周囲のモンスター達を見てから、僕の言葉に同意した。
「たしかにそうだね。けど別に襲い掛かって来るわけじゃあないんだから、放っておけばいいんじゃないかな」
「そうかもしれないけど、やっぱりこの視線の理由が気になるよ」
何で敵意じゃなくて、興味や好意の視線が僕だけに集中しているんだろう?
「僕達の中でアストだけに視線が集まる可能性があるのは、やっぱりアストが得た隠し要素の種族とクラスじゃないかな?」
「それはありそうだな。アスト、クラスの内容は見てないのか?」
「あー、そういえば合流を優先して確認してなかったや。ちょっと待って、今調べるから」
僕は、ステータス画面を呼び出した。
ええと、クラス、クラスはっと。お!あった。
《星界竜》
ユニークハイが一素、星・宇宙・世界を司る竜。全ての生命の始まりであり、全ての生命の還る存在。
・クラス専用スキル
星の贈り物
<スターギフト>
一日に一回、その時点でのプレイヤー進入可能領域内で入手可能なアイテム一つを入手する。(レベルにしたがい、入手アイテムのレアリティー上昇)
世界の味方
<ワールドサポーター>
敵モンスターを攻撃しない限り、敵モンスターの攻撃対象にならない。
フィールド上のモンスターとの遭遇時、遭遇モンスターの好感度が一定値上昇する。
敵モンスターのテイム率(仲間になる確率)上昇。
「うあー、これはいくらなんでもないかな?」
「どうだったんだ?」
「あ、うん。モンスターの視線の理由は、クラス専用スキルが原因みたいだよ」
「やっぱりね。それはそうと、さっきは何を否定してたんだい?」
「あ~、クラスの説明文がちょっとね」
ユニークハイって、ボスモンスターか何かの別称と思うような内容だったな。それに、よく考えたら竜ってついているのに僕のキャラクターの見た目に竜の要素ってかけらもなかったんだよな。何でだろう?
「それで、どんな効果だったんだ?」
「えっとね。スキル名は、世界の味方<ワールドサポーター>。効果は、自分が攻撃しなければ相手モンスターからは攻撃されないことと、遭遇したモンスターの好感度が一定値上昇すること。最後にそのモンスターのテイム率上昇って内容だよ」
「へぇ、一つのスキルに三つも効果があるのか。さすが隠し要素、強力だな」
「そうだね。だったらさ、試しにその辺のモンスターをテイムしてみたらどうだい?」
「え!」
リディウスからの唐突な提案に驚いた。
「お、良いじゃんアスト、試してみろよ」
「え、うん、わかったよ。フォローお願い」
「わかってるよ」
「任せておけって!」
二人の返事を聞いた僕は、どれをテイムしようか視線をさ迷わせた。
すると、視界の中でモンスター以外の何かが見えた。
「うん?今の何だ?」
ひっかかった場所をよく見てみると、そこにはさっきまではなかったはずの唐辛子が生えていた。
「何でこんな所に唐辛子が?」
草原に唐辛子、組み合わせがよく判らない。しかも、さっき見た時には唐辛子なんて生えていなかったはずなのに、いつの間に生えたんだ?
「ねぇ二人共、こんな所に唐辛子なんてあったっけ?」
「いや、なかったはずだぞ。なあ」
勇也も僕と同じ反応をした後に、リディウスにも確認した。
「そうだね。僕もなかったと証言するよ」
「何で突然生えてきたんだろう?」
「だよな」
「ひょっとしたら、生えたんじゃなくて歩いて来たのかもね」
リディウスは、何かを確信したように僕と勇也に言った。
「どういう意味?」
「唐辛子が歩くわけないだろ、リディウス」
「いや、その唐辛子が植物じゃなくてモンスターなら歩きまわっても不思議じゃないだろう」
「それゃそうかもしれないけどよ、何でいきなりこの唐辛子がモンスターになるんだよ!」
「リディウスは何でそう思ったの?」
「簡単さ、唐辛子はハーブの一種なんだよ」
「ハーブ?それってもしかしてこの唐辛子の正体は!」
僕は、慌てて視線を唐辛子の根本に向けた。
そこには、焦げ茶色の毛色のウサギがいた。
「いたあーーー!」
僕は思わず叫んだ。
「いた、いた、いたよハーブラビットが!」
僕は叫びながら二人に詰め寄った。
「落ち着けアスト」
「う、うん。ごめん勇也」
僕は勇也に宥められた。
「にしても、探しても見つからないと思ったら、植物に擬態してたのか」
僕は改めてハーブラビットを見ながら言った。
「まあ、擬態というか、草に隠れて見えなかっただけだろね」
「それで、このウサギはどうすれば良いのかな?」
「テイムしちまえ」
「勇也に賛成」
「わかった。ハーブラビット、おいで」
僕がハーブラビットに手を差し出すと、ハーブラビットが寄って来た。そして、ハーブラビットの前脚が僕の手に触れた瞬間、システムメッセージが流れた。
『ハーブラビットのテイムに成功しました。ハーブラビットに名前をつけて下さい』
「そうだね、君の名前は『ビット』でどうかな?」
「キュウ♪」
僕の言葉にハーブラビット、いや『ビット』は嬉しそうにないた。
「じゃあおいでビット」
「キュウ!」
僕が呼ぶとビットは、トコトコ僕の後をついて来た。
「良し!これで依頼内容は達成だな」
「まあ、倒していないから判らないけれど、とりあえずあのNPCがいる薬屋に行ってみようよ」
「うん、そうだね」
「じゃあ行こうぜ!」
僕達、三人と一匹は薬屋目指して歩き出した。