魔物
三人が馬車を降りるとダンジョン前の広場で冒険者たちが緊張した様子で武器を構えていた。
いつもは解放されている入口の扉は閂で閉じられている。
扉の内側からは何者かが扉を強く叩いている。
大きな音が響き、閂がきしむ音がする。
冒険者たちの手に汗がにじんだ。
ふと扉を叩く音が止んだ。
不可解な雰囲気が広場を包み込む。
「ブオォォオオオオオオオッッッッッッッ!」
一際大きな音とともに扉の周りの岩壁ごと扉が吹き飛ばされる。
ヤタは咄嗟に二人の前に出てコートの裾で破片を防ぐ。
先ほどまで扉を叩いていたであろうゴブリンたちの肉片や折れた閂が飛んできた。
それは見上げるような巨大な魔物であった。
ギョロギョロと蠢く一つ目をもったマンモス。
鋭い牙と長い鼻をもち毛深い体毛に全身を覆われている。
マンモスは広場に集まった冒険者たちを上からぐるりと一瞥した。
睨まれたものは体が竦み、金縛りにあう。
マンモスは大地を揺るがしながら悠然と歩を進めた。
衆人環視のもとで丸太のような脚が高く持ち上げられ、冒険者の上に影がかかる。
「そこ、です」
マンモスの足の裏に棒手裏剣が突き刺さり、爆音を立てて爆発した。
マンモスの悲鳴が耳をつんざく。
ナターシャの攻撃を合図に冒険者たちは覇気を取り戻した。
「今だ。打てェ!」
「縄だ、鉤縄をもってこい」
各々のパーティが強大な敵に勇敢に立ち向かう。
マンモスが冒険者たちの猛攻に一瞬怯んだ隙をヤタは見逃さなかった。
「ナターシャ、ベアトリクス。奴をすり抜けてダンジョンに入るぞ。ついてこい」
走り出した三人がマンモスに急接近する。
これを迎え撃とうとマンモスは巨大な牙で突き上げる。
暴虐な一撃をベアトリクスはスカートの端をかすめながら回転して回避、打ちおろしの斬撃で迎撃する。
刀身の半分が牙にめり込んだところで、牙は木っ端微塵に砕けちりベアトリクスは反動で逆回りに回転した。
「この剣の威力、想像以上ね。肩が外れるかと思ったわ」
大きくよろめくマンモスを尻目に三人はダンジョンの中へと消えていった。