女剣士と忍者
裏通りの石畳の上を二つの影が駆けていく。
冒険者たちを乗せた馬車でごったがえしている大通りをヤタは避けて移動していた。
武器と防具がたてる重々しい金属音が街中いたるところから響いている。
対照的に、ヤタは迷路のようなダウンタウンの路地を静かに進んでいく。
ヤタは多種多様な収納ポケット付きのベストとバトルコートを着用し、腰に剣を帯びていた。
そしてナターシャは結った金髪、鎖帷子、そして赤のラインが入ったタイトスカート、いわゆる忍び装束を着用している。
ヤタはおもむろに足をとめた。
そこは古びた酒場の前だった。
「あの、ご主人様。ダンジョンへ向かうのでは」
疑問を感じながらも黙ってヤタについてきたナターシャが問う。
「その前の通過儀礼って奴だ」
ヤタは忙しなく行きかう冒険者の間を縫って中に入る。
カウンターの前に立つと顎ひげを生やした店主が無言でショットグラスを差し出した。
「珍しいわね、アンタがダンジョンに入るなんて。このうるさい夜もアンタの仕業ってわけ?」
カウンターの上に空ビンの森を築いている女冒険者がヤタに話しかける。
ああ、とヤタが応じようとしたとき、いつの間にか現れたナターシャが二人の間に割って入った。
「いえ、ご主人様の意図したことではございません。どこのどなたかはご存じありませんが礼儀を知らない方のようですね」
「あら、これはわたくしとしたことが失礼いたしました。わたくし、ヤタ様と浅からぬ関係にありますものですので少々口が軽くなってしまいましたわ。これはあなたへのほんのお詫びです。受け取ってくださる?」
女冒険者はスカートの深いスリットの間から素早く剣を抜き放つ。
速い、重い、受けはできない、瞬時に判断したナターシャはバク転をして間一髪で避ける。
体勢を崩しているナターシャに追撃せんと女は前かがみで豊満なバストをあらわにしながら突撃する。
ナターシャは獲物を取り出して迎撃の構えをとったところで背後に強烈な殺気を感じた。
しま、った、と思うナターシャに鎌が振り下ろされる。
しかし、その鎌はナターシャに届く前に四つに切り刻まれ、かき消える。
またバク転で距離をとったナターシャは自らの影の中から黒い塊がせりあがってくるのを見た。
それは人の形となり再び鎌を取り出す。
魔物のアサシンシャドウだ。
アサシンシャドウに有無を言わさず女が斬りかかる。
その寸前、ヤタは収納ポケットから取り出したアンプルを魔物に投げつけた。
アンプルの中の薬品によって実体化したアサシンシャドウは一瞬で襤褸雑巾にされてしまった。
剣を収めた女が腕組みをしながらヤタに詰め寄る。
「で、アンタはこのモンスターの異常発生をどうするの?」
「ああ。この騒動を解決するためにダンジョンの最深部に行く。パーティを組んでほしい」
「アンタと最深部ねぇ。いつぶりかしら。それで報酬はなに」
「こいつだ」
ヤタは腰の剣を女に渡す。
「見た目によらず随分重い剣。なんか足元もおぼつかないわ」
飲み、過ぎとナターシャが毒づく間に女はヤタにしなだれかかる。
「呪いの剣の類いだ。精気を抜かれて死ぬようなことはもうないだろう。それでも常人では剣をふるう体力は残らないだろうが」
「じゃああたしの体力は人並みに戻っちゃうのね。そんな体でダンジョンの最深部に行けだなんて。あの頃みたいに守ってくれるのかしら」
「そうだな。頼まれてくれるか、ベアトリクス」
ふふっと笑うとベアトリクスはさっとスリットの中に剣を収めた。
「いいわ。よろしくね、忍者さん」
「こち、らこそ」
不服そうにしているナターシャにヤタはショットグラスを渡す。
「詳しい話は道すがらだ。では武運を」
三人は一気に酒をあおる。
夜の街全体を熱気が包んでいた。