解呪
ささやかな酒宴の後片付けをするナターシャの後姿を見送った後、ヤタは寝室のベッドに横たわり窓の外の星空を見上げていた。
青、黄、緑、さまざまな色が暗黒の夜空に瞬いている。
一説によるとあれは想像を絶するほど空高くを飛んでいるものが妖精のように発する光らしいがヤタにはあまり興味がなかった。
紅い点が明滅を繰り返しながら夜空を横切っていく。
ヤタがうとうとし始めたとき寝室のドアがノックされた。
間の抜けた返事をすると丸みを帯びたネグリジェ姿のナターシャが静かにはいってきた。
「どうした」
「はい、少々不可思議な問題が発生しました」
ナターシャは片手に携えた輝石カンテラをテーブルに置いてしゃなりしゃなりとベッドに近づいてくる。
「例の、指輪ですが封印が解かれます」
そう言ってナターシャは呪文を唱えて手のひらに乗せた指輪に再び封印を施す。
紫色の魔法陣が空間に現れ球形のかごを形成した。
「封印できているように見えるが」
「いえ、もうしばらくお待ちください」
言われた通り指輪を眺めていると魔法陣が内側からじりじりと消えていく。
最後にはチリッとかすかな音と光を残して封印は完全に解けてしまった。
「解呪の力が付与されているのか、まったくどういう代物なんだこいつは。それで、いつ気付いた」
「先程、自室に下がって休もうとしたときに解呪の気配に気づきました」
解呪の力は予想外ではある。
だがあくまでも封印は指輪を誤って装備する者が出ないようにするための措置だ。
このまま倉庫の奥深くに覚書とともにしまっておけば問題はない。
ぶきやぼうぐはそうびしないといみがないぜ、古文書に記されていた諺である。
しかしながら、ヤタは嫌な予感がしていた。
深夜にもかかわらず窓の外からは人々が行きかう喧騒が聞こえてくる。
「ナターシャ、出かけるぞ。すぐに用意を」
「かし、こまりました。どちらへ」
「ダンジョンだ」