メイドエルフ
しかしこいつは逆だ。
ヤタは指輪をランプにかざす。
鬼火の光を浴びて指輪は鈍色に光る。
魔物が寄ってくるのはなぜだろうか。
理由はいくつか考えられる。
一つ目はこの指輪に魔物を興奮させるまじないがかけられているから。
魔物を興奮状態にさせる方法はいくつかあるが、ヤタが知っている限りではどれも血や薬品を使ったもので呪文による方法はない。
よしんばそのような呪文があったとしてもダンジョンの外からでも効力を発揮するような強力なものは使い物になるまい。
呪文の開発者が実験に成功した時点でその街ごと失われるはずである。
二つ目はこの指輪が魔物にとってとても魅力的なものであるから。
たとえば体内に取り込めば秘められた魔力を引き出せるとかそのような効力がこの指輪にはあるのかもしれない。
だが、そうだとしても疑問が残る。
冒険者を夜襲した魔物はどうしてこの指輪を現場に置いていったのかということだ。
ヤタはかぶりを振る。
余計なことに首を突っ込む、いつもの悪い癖だ。
当面はこいつに厳重な封印を施して倉庫に納めておけばいい。
指輪をどうにかするのは解決の糸口が見つかってからでも遅くはない。
ヤタは手元のガラス製の呼び鈴を鳴らす。
繊細な音色とともに店の奥から出てきたのは白いメイド服を着たエルフである。
「ナターシャ、これを倉庫に。得体のしれない指輪だ。くれぐれも慎重に扱ってくれ」
かしこまりました、と小さく返事をしてナターシャは細い指先で指輪を受け取る。
エルフは長寿種であり呪物の扱いに長ける。
ヒューマンのヤタよりかはいくらか指輪との相性がいいだろう。
「それと寝る前に何か飲むものを頼む」
かしこまりました、と小さく返事をしてナターシャは店の奥へと下がっていった。
これでも初めのころよりかは随分と打ちとけたのである。
没交渉になりやすいエルフの中では破格の愛想であろう。