魔物避けの指輪
トリバンが倉庫代として少なからぬ謝礼を置いて辞した後、ヤタは災いをもたらす指輪と向き合っていた。
トリバンの話をまとめると次のようになる。
ダンジョンからの出土品を魔物避けの指輪と鑑定して売ったはいいが、その冒険者が低層にはいるはずがない強力な魔物に立て続けに襲われた。
命からがら逃げ出した冒険者は指輪のせいだとトリバンの店に怒鳴りこんだ。
とりあえず指輪を買い戻しなだめすかして帰らせた後に、今度は珍しい魔物寄せの指輪と謳ってよくよく実力を見定めて別の冒険者に高く売った。
その冒険者は首尾よく魔物を狩ることに成功し、意気揚々と宿屋にひきあげた。
そして街中が寝静まった頃、魔物に襲われた。
街の中で、である。
これは異例の事態だ。
普通、魔物はダンジョンを出ない、というよりも出ようとしない。
ダンジョンの入り口には一応の不寝の番がついてはいるが、魔物がダンジョンから出たというのは寡聞にして聞いたことがない。
嫌な胸騒ぎがしたトリバンは襲撃事件の現場を検分した警備隊にそれとなく伺いを立てて件の指輪を下取りという形で引き取り、今に至るというわけである。
こいつは厄介だ、とヤタは指輪を手に取る。
魔物避けの指輪の原理は毒を以て毒を制す、である。
指輪の素材としてダンジョンの深層に潜んでいるような強大な魔物の体の一部を使い、魔物の気配を周囲に発するように表側に呪文を刻み込む。
そして、裏側には魔物の気配に当てられぬように別の呪文を刻み込んで作るのが一般的だ。
つまり、大型の魔物の気配で小型の魔物を追い払うのである。
大なる災いの力を借りて小なる災いを抑える、ありふれたまじないである。