訳ありの倉庫
迷宮の門前町として雑多な人種がすれちがう街、ゴンゴゴンゴ。
ヤタ=イーチはその街の倉庫番として生計を立てている。
ただヤタの倉庫は普通の倉庫と少し違う。
ヤタの倉庫に預けられる品物は所有者が手を焼く厄介な物たちなのだ。
「いらっしゃい」
真鍮のドアベルが明朗に来客を告げる。
来客は見慣れた男だ。
ヤタは安堵したように軽く息を吐いた。
一筋縄ではいかない倉庫番としての経験が導きだしたヤタの持論は、厄介事には女がつきものというものだった。
「しばらくぶりだね。最後に来たのはなにを預けに来た時だったか。確か、手にした者の体力を吸い尽くして重量を増す呪われた剣だっけかな」
「ええ、はい。その節もお世話になりまして。このトリバンの商売、先生のお力添えのおかげで成り立っていると言っても過言じゃありません。手前みそですがあっしもものごころつく前から物売りにかかわってきた人間ですから品物の目利きは利く方だと自負しております。が、そこはそれ。どうしてもあっしの能力を超えた分野ってものがあるのもまたよーく承知しております。つきましては」
「分かった。分かったから先に品物を見せてくれ」
ヤタは放っておいたらいつまでも喋り続けそうなトリバンの口上を遮って本題に入るように促す。
トリバンは内ポケットから指輪を取り出し、カウンターの上にそっと置いた。
幅の広いリングの外側と内側にはそれぞれ別の古代文字が彫りこまれている。
「これは、魔物避けの指輪かい」
「はい。あっしもそう思います。ですがどうにもよくないんですね、これが」
「よくないって効かないのか」
「いえいえ、紛い物でしたらそれはそれで売りようもあるんですが。この指輪、魔物を寄せ付けちまうみたいなんです」
「どういうことだい。それなら魔物寄せの指輪として売ることができるじゃないか」
ああ、とトリバンは嘆息する。
「どうやらこいつは魔物を寄せ付け過ぎるんです」