あらあら? (ハッピーエンド編)
作者 音無威人
「みーつけた」
そう言って微笑まれた。あらあら、困りました、どうしましょう? とりあえず挨拶だけでもしておきましょう。
「こんにちは。霊媒師さん」
霊媒師さんは獰猛な笑みを浮かべ答えた。
「こんにちは、幽霊さん」
「何しにきましたの?」
分からないので聞いてみた。
「幽霊さんを退治しに来ました」
「何ででしょう? わたくしは一切悪いことはしてませんのに」
「幽霊さん嘘をつかないでください。この家の住人がポルターガイストで困っているんです。起こしているのはあなたでしょう?」
霊媒師さんはそう言って私を睨みつけた。きゃあ、どうしましょう。殿方にここまで熱い視線を向けられたのは初めて。照れるわ。キャハッ。おっと、否定しておくのを忘れてたわ。
「霊媒師さん、わたくしは何もしてません。この家の家具や道具が、わたくしの美しさに興奮して勝手に動いているんですもの」
「…………」
「あらあら、本当ですわよ? わたくしは嘘は言わない主義なんですのよ。オホホホ」
変な目で見られた。恥ずかしいですわ、もう。ぷんぷん。
「幽霊さん……。退治されるか、ここを出て行くか。どちらか決めてください」
「あらあら? もうお話は終わりなんですの。もう少しおしゃべりしましょうよ」
「嫌です」
「即答なんて悲しいですわ。久しぶりに人と会話できたのに。誰もわたくしを認識できなくて寂しくて。今日やっとわたくしを見てくれる人が現れて嬉しかったのに。……酷いですわ、もう」
霊媒師さんは申し訳なさそうにわたくしに近づいた。不思議に思っていると頬を掴まれた。
「むぎゅっ。ひゃ、ひゃにをしゅるんでちゅの(な、何をするんですの)」
「いや、あまり悲しそうな顔をしないでください。笑ってください。その方が……」
その方が……か、可愛いとかかしら? きゃあ、恥ずかしい、でもそうなら嬉しいですわ。キャハッ。
「……退治しやすいですし」
「へっ?」
「いやぁ、悲しそうな顔をされると罪悪感が湧いて、退治しにくいんですよ。その点、笑顔だとこっちも気が楽でやりやすいんです」
な、何よそれ。可愛いとか綺麗だとか言われると思ってたのに、退治しやすいですって? わたくしの乙女心を弄ぶなんて……。許しませんわ。
「霊媒師さん。わたくし決めましたわ」
「そうですか」
霊媒師さんはそう言いながら数珠みたいなものを取り出した。退治される方を選んだと思ってますの? そんなわけないでしょう。勝手に決め付けないで欲しいわ。ぷんぷん。
「わたくしは霊媒師さんに取り憑きます!」
「へっ?」
「霊媒師さんはわたくしの乙女心を弄びました。許せません、ですからわたくしの気が済むまで取り憑いて呪います」
「あー、弄んでないんですが?」
「あらあら? わたくしが嘘をついたとでも? それに霊媒師さん、わたくしみたいに可愛い女の子に取り憑かれるんですのよ。喜びはしても嫌がる道理はないと思いますが?」
霊媒師さんはあごに手を当て考え込んだ。あらあら、素敵な表情ですわ。惚れちゃいそうです。あらあら、本当ですわよ? わたくし正しいことしか言いませんもの。オホホホ。
霊媒師さんは考え事が終わったのか、歩き始めた。……出口に向かって。
「れ、霊媒師さん? どこに行くんですの」
霊媒師さんは振り返り、わたくしに手招きした。
「幽霊さん、行きましょう」
「どこに?」
「僕の家に」
「えっ? そんな家になんて気が早いですわ。で、でも将来のことを考えると……キャッ。将来なんて」
「何してるんです? 早くきてください」
「はーい」
霊媒師さんの方に近づき身体に触れた。これで取り憑き完了ですわ。案外簡単なものですわね。
「とりあえずこの家の人には退治したとでも言っておきましょう。これも商売なんで。あっ、そうだ幽霊さん」
霊媒師さんはわたくしに手を差し出した。首を捻っていると。
「幽霊さんは僕に気が済むまで、取り憑くのでしょう? ですから仲良くしましょう。そのためにまずは手を繋ぐ所から始めましょう」
わたくしは殿方と手を繋ぐのは初めてだったので、少々恥ずかしかったがそれ以上に嬉しくもあった。わたくしは霊媒師さんの手に触れた。少し力を込めて握ってみた。握り返された。あぁ嬉しいですわ。成仏しなくてよかった。
「うふふふ」
「何、一人で笑ってるんです? 気持ち悪い」
「な、酷いですわ。気持ち悪いなんて、女の子に言う台詞じゃありませんわ。ぷんぷん。次言ったら取り憑くのやめます」
「それは困ります。幽霊さんみたいに可愛い人には、滅多に出会えないんですから。ずっと僕に取り憑いていてください。幽霊さんはもう僕のものなんですから」
「うぅ。恥ずかしいこと言わないでほしいですわ」
「照れてるんですか? 可愛いですね」
うぅ、何でこんなさらっと言えますの。もう、恥ずかしいですわ。わたくしが恥ずかしさで俯いている間に、家の外に出ていた。家の周りには木々が生え、森と化していた。わたくしと霊媒師さんは森の中をゆっくり歩いた。もっともわたくしは幽霊ですから、足なんてあってないようなものですが。わたくしは霊媒師さんの横顔を見つめた。顔立ちは整っていてかっこよかった。視線に気づいたのか霊媒師さんはわたくしを見つめた。視線が交じり合った。わたくしは歯痒いような気分になった。
「幽霊さん、言っておかなければいけないことがあるんですが、よろしいでしょうか?」
「えぇ、いいですわよ」
霊媒師さんは一呼吸置いて言った。
「幽霊さん、愛してます」
わたくしはその言葉を嬉しく思った。それに答えるために、わたくしは思いを言葉に乗せた。
「霊媒師さん、わたくしも愛していますわ」
……あらあら、本当ですわよ?




