第八話 マジパネェっすよ。
俺は絆の力を調べる為に、ギルドカードを使ってみる事にした。
まだ幼いとはいえ、勇者召喚で呼ばれている以上、俺や雪緒に近しい能力を持っているかもしれない。
これから先の行動を考えるのに、絆の力を知っておいた方がいいだろうと、考えたからだ。
ギルドカードの予備は、事前に城の中で、何枚か調達して鞄に保管しているので、それを使う事にした。
俺達が来た時には、セイナーレに貰ったんだが、今回は貰えなかったので、何でだろうと疑問に思ったが、俺が幾ら考えても詮無いので、この場では考えない事にした。
ただ単に、忘れただけの可能性もあると思うし。
俺は絆を膝に乗せたまま、鞄から未登録のギルドカードを取り出した。
「おにいちゃん。それな~に?」
絆は、俺の持っているギルドカードが気になったのか、訊いてきた。
「ああ、これはギルドカードって言って、まあ簡単に言えば、身分証みたいなものかな」
「そおなんだ?」
絆は俺からカードを受け取ると、興味があったのか、表裏を確認しだした。
――そして、そんな光景を、ジッと睨みつけている雪緒さんが横に居ました……。
その、なんというか、もの凄いプレッシャーと目力で、非常に怖いです。
そして、そのプレッシャーをものともしてない絆さん――流石としか言い様がありません。
お兄さんは今すぐにでも逃げ出したいです。脱兎のごとく。
あれから絆は、気がついたら、俺の膝の上に座っているのだ。この世界での、特等席らしい。
――そして、日に日に何故か、雪緒からのプレッシャーがあがって来ている。
女の子はよくわからん。
ともかく俺は、雪緒のプレッシャーに耐えながら、説明を再開した。
「これ、何も書いてないよ?」
「これには、文字を書く為に血が必要なんだ。」
「……血?」
絆が不思議そうな表情を浮かべている。
俺は自分の髪の毛を引き抜くと、魔力を通して、一時的に針と同じ硬度にした。
「で、絆には悪いんだけど、指先にチクッとこれを刺して、カードに血をつけて欲しいんだ。」
「……エッ!?」
絆はそれを聞き、少し驚き怯えた表情を浮かべた。
「本当に、指先にチョットだけでいいんだ、血を付けたら直ぐに俺が治してあげるから」
そう、俺は大怪我でもない限りは、治癒魔術で治すことができる。
「……本当?」
「ああ――本当だ」
絆は俺の言葉を信じてくれたのか、俺の髪針を受け取ると、恐る恐る自分の人差し指に刺した。
刺した事で、人差し指からプクッと血が出てきて、ギルドカードに血を塗っていた。
血を塗った事を確認した俺は、直ぐに治癒魔術を、絆の指先に施した。
「絆。痛みはまだあるかい?」
「ううん。ぜんぜん」
絆は不思議そうに、自分の指先を眺めたり、舐めたりしていた。
「うわぁ……本当に、ぜんぜん痛くないや」
「そっか――よかった」
俺は絆を誉めるように、頭を優しく撫でた。
その光景の隣で、また怒ったような、物欲しげそうな、何とも言いがたい表情を浮かべた雪緒が居りました。
……雪緒も頭撫でて欲しいのかな?
「うわ、うわぁ……なんかこれ光ってるよ?」
絆は感嘆の声を上げていた。
恐らくギルドカードに、能力が表示されたのだろう。
「絆。良かったら俺にも見せて貰ってもいいかな?」
「ん? おにいちゃんも見たいの? ――はい」
俺は絆からカードを受け取ると、絆の能力を確認した。
名前:御影絆
AGE:7
SEX:女
LV:1
JOB:聖女
HP:351
MP:344
STR:127
VIT:189
AGI:99
DEX:135
INT:812
RST:697
LUC:2858
称号:プレクスタの隷属
特性:聖女の威光、高速詠唱、呪術解除、呪術感知、魔術耐性
装備:学校制服
祝福:なし
ギルド:なし
――なにこれ? 俺や雪緒に比べても、全体的に能力高すぎるだろ……。
職業が《聖女》って事は、俺と同じで《勇者》では無いのだろうけど、能力値だけで言えば、《勇者》であろう雪緒より強いじゃないか。
……《勇者》より強い《聖女》ってなんですか?
HPが紙な俺に対しても遥に高いし、何より運が高すぎるだろ……。年下でもある絆が、俺達よりも強いかも知れないと思う能力値を見つめていると、ある項目に気がついた。
《呪術解除》
……チョット、まってくれ。 俺は自分の頭を抑えながら考えた。ええっと、もしかしてこれ、奴らに掛けられた魔術を解除できるんでは無いかい?
俺は一ヶ月アレだけ探ったのに、全く解除手段が見つからなかったのに、ここにきてこういう事って有りですか?
俺はいろんな意味で、眩暈がしてきた。これがそうならば、俺の一ヶ月は、完全なる徒労では無いか……。
まあいい、鴨が葱背負って遣って来たんだ、ラッキーだと思って開き直るしかない。
早速だけど、試させて貰おう。
「なあ絆、頼みたい事があるんだけど」
「なに? おにいちゃん」
「ちょっと雪緒に違和感が無いかどうか、試してほしいんだ」
絆にある特性《呪術感知》これが俺の持っている特性と、同じ様な物ならば、もしかしたら何かを感じるかも知れない。
「……遥くん。どういうこと?」
雪緒も俺の頼みに不思議そうに訊いてきた。
もしかしたら……なので、万が一違ったらぬか喜びになってしまうので、答えをはぐらかした。
「――チョット気になる事があってね。試してみたくなったんだ」
雪緒も絆も俺の答えに、とりあえずは納得してくれた。
「で、おにいちゃん。絆はどうすればいいのかな?」
「ああ、雪緒に手を翳す様にして、何か感じるか集中してみてくれ」
「うん!」
「雪緒はそのままで、動かないでいてくれ」
「……ええ」
俺がそう説明すると、絆が手を目の前に差し出した。
そして目を瞑り、ウーン、ウーンと唸っていた。
「「…………」」
俺も雪緒も黙っていると、絆が声を上げた。
「……あれ? なにこれ?」
「どうした、何かあったのか?」
「うん……ゆきおおねーちゃんの中に、なんかモヤモヤしたものがあるの」
モヤモヤ? もしかしてそれが、例の魔術なのか?
「絆。そのモヤモヤを消す事って出来るか?」
「うーん。よくわかんないけどやってみる」
そう答えると、絆は再び同じ格好をして唸りだした。
俺達は黙って見つめていると、俺は雪緒の体から、魔力が消えていくのが見えた……。
「おにいちゃん。よくわかんないけど、ゆきおおねーちゃんからモヤモヤが消えていったよ?」
「雪緒! チョット、カードを確認してくれないか!?」
雪緒は不思議そうな表情をしていたが、俺の言葉に素直に従った。
――絆の能力が確かで、俺の《魔術感知》がアレを見たとしたら、もしかしたら……。
「……えっ!? なんで?」
雪緒の反応を見るに、俺の予想は正解だったみたいだ。
なんていうか、絆さんマジパネェっすよ。
「遥くんも見てみて!?」
雪緒は俺にもギルドカードを見せてきた。
名前:五十鈴雪緒
AGE:17
SEX:女
LV:4
JOB:勇者
HP:411
MP:221
STR:296
VIT:309
AGI:294
DEX:239
INT:217
RST:222
LAC:1051
称号:なし
特性:危機感知、高速治癒、高速移動、高速詠唱、見切り、肉体強化
装備:ベイルの聖衣
祝福:なし
ギルド:なし
……もう俺いらなくね? 《勇者》と《聖女》でもの凄く形になってるし。
ここに俺の《愚者》って意味がわからん。
なんて事を二人に言えば、泣かれかねないので言える訳が無いのだが。
自分でも言うのは何だけど、二人とも俺に依存し過ぎな節があるし……。
頼られるのが嫌って訳では無いんだよ。
雪緒も絆も美少女って言えるような娘だし。
ただ、俺が居なくなったらヤバイな、何て思わなくも無い。
まあ俺も、居なくなる予定も心算は無いのだから、特に問題は無いか……。
ともかく、最大の懸念だった問題が解決されたのだ。
あとは逃げ出す準備をするだけだ。
まあ此処までされたのだ、ただで抜け出す心算など更々無いのだが。