表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚者は踊る  作者: 君河月
第一章 召喚編
8/21

第七話 それ無理!

 この世界に来てから、既に一月が経とうとしていた。


 そろそろこの国の連中も、俺達の事を一般民衆に、公表する時期になるかもしれない。

 もう悠長に動いている場合では無いのだろう。公表されてしまえば、俺達の顔が知れてしまう。

 そうなれば、たとえ逃げ出したとしても、下手に動けなくなってしまう。


 そんな事を雪緒と相談していた時にそれは起こった。


 トントン!


 不意に扉をノックする音が聞こえた。


「勇者様方居られますでしょうか?」


「ああ」


 俺が返事をするのを確認すると、セイナーレが部屋に這入ってきた……。

 いや這入ってきたのは、セイナーレだけでは無かった。

 亜麻色の髪少女――いや、幼女と表現しても良いかも知れない。

 その()が、セイナーレと伴って泣きながら、俺達がいる部屋に這入ってきたのだ。


 泣いているだけならまだ良かった、ただその娘の格好が問題だった――制服に背中に背負っているのはどう見たって……ランドセルだった……。


「なあ、セイナーレ……その娘はなんなんだ」


「はい、勇者様でおられます」


「……はっ?」


 耳を疑うような答えが返ってきた……今……何て云った?


「ですから、勇者さまと……」



 嗚呼――頭の中が怒りで真っ赤に染まっていく……。

 抑えろと理性ではわかっているが。感情がついていけそうに無かった。

 俺の怒りとともに周囲が呼応するかの如く、魔力が見える程のレベルで揺らぎだした。


「ど、どう云うこと!? まさかまた勇者召喚がされたの!?」


 雪緒も酷く狼狽していた。


「はい、国王陛下が偶然巨大な魔力石を入手されたらしく、それを利用して呼ばれたらしいと」


 俺が調べてわかった事だが、勇者召喚には莫大な魔力が必要となる。

 俺達の場合は、あの召喚の間は、元々魔力が集まりやすいらしく、その上で二百年以上使用されてなかったので、一度に二人も呼ばれたらしい。

 ただ、俺達の召喚で殆どの魔力を使用してしまい、本来なら早くても、数十年以上かかる筈だったのだが……。


 だから俺は――俺達はその情報を入手して、勝手に安心していた……。


 ガリッと奥歯を噛みしめ、手を強く握り締めた。

 強く噛みすぎたのか口から血を流していたり、爪が深く食い込み、出血する感覚もあったが、とてもでは無いが、抑えられそうに無かった。


 ――これは俺の考えの甘さが生み出した事だろう……俺達が逃げ出さなければ、呼ばれないだろうと……。

 例え逃げ出してもまだ先の事だろうと……。


 雪緒は騎士団長を圧倒した……俺だって片鱗とは言え、この国の魔術師の前で力を見せてしまった

 そんな特別な力を持つ人間が……自分達に従順に動いている。形とは云え動いているのだ。

 国王は笑いが止まらないだろう。そして更に欲が出るかも知れない――駒を増やそうと。


 その結果がこれだ?


「あは……あははははははは――ははははは!」


 怒りと間抜けさで、俺は手で顔を覆いながら笑いを零していた。  


 俺の見通しの甘さが、考えの甘さが、行動の甘さが この事態を招いた。

 何故思い至れなかったのだ、その程度の事を。その程度の発想を……。

 そうだ……偉そうな事を言いながらも、悠長に事を構えていた俺の責任でもある。


 だけど呼ばれたのがこの娘だと? どう見たって子供だ。 そう、俺だって子供だ。

 だけどこの娘は幼く、どう見たって小学生で……両親の名を呼んで、泣いている子供に、世界を救ってくれって叫ぶのか? 縋るのか?

 この国は? この世界は? 嗚呼……そんな世界ならば滅んでしまえ!! 


「ふざけ――!」


 俺はセイナーレに問い詰めようとするが――俺を呼びかける声が聞こえた。


「だ、ダメ! 遥くん抑えて……お願い。」

 

 先程まで取り乱していた雪緒だったが、怒りで自傷を厭わない俺をみかねて、俺の手を掴み止めに掛かった。


「だ、ダメ、ダメだよ遥くん、気持ちはわかるけど、お願い! 今は抑えて」


雪緒は俺を抱きしめながら、優しく語り掛ける様に言った。


「今遥くんが動いちゃダメ、下手をすればこの子を巻き込んじゃう……」


 その一言で俺は一気に頭が冷えていった。


「あ、ああ……そう……だったな。

 ありがとう雪緒……」


「う、うん……うん……」


 そうだ、まだだ、まだ早い、今がその時ではない……怒りは噛み殺せ、今は雌伏の時だ。

 俺はセイナーレに向きなおすと、訊ねた。


「その娘を俺達の前に連れて来たって事は、俺達と同じように扱うのか」


「はい、その通りでございます」


 幼かろうが関係無しか……表面だけは繕っているが、どう考えたって奴隷だね。

 奴隷――で思い出したが、この娘にも例の魔術をかけているのか……?


「なあ、この娘にも例の魔術はかかっているのか?」


 セイナーレは例のと云われて、少し考えていたが、すぐに思い当たったのか答えた。


「はい、国王陛下の対応をみるに、恐らくは……」


 また怒りで頭に血が上りそうになったが、雪緒が手を握っててくれたお蔭で、何とか抑えた。


「……そうか」


「新しい勇者様は、お二方のどちらかと共に、一緒に暮らして頂けないでしょうか」


 勇者は未だ公表されていない存在だ。

 だから一緒に預けてしまおうって、考えなんだろう。

 この娘はまだ幼い、尚の事この国の連中なんかに預けられる訳が無い。

 なので是非も無い申し出だ。


「ああ、わかった、その娘は俺達が責任持って預かろう」 


「左様でございますか。ありがとうございます。

 あと序でとは申しますか、事情等の説明につきましても、お二方にお任せ致します」


 セイナーレは俺達に用件だけ告げると、連れて来た娘を残して出て行った。




 ☆ ★ ☆ ★




 ここに連れて来られた少女(いや幼女か?)は、暫く泣いていたが、(ようや)く落ち着いたので、話を訊く事にした。


「お姉ちゃんたちだれ?」


 ――お姉ちゃん……たち? ……たち……だと?

 俺はその科白を聞くと、(おもむろ)に窓枠に足をかけた。

 それに気が付いたのか、雪緒は慌てて俺を止めにかかった。


「は、遥くん! ダメだよ。ここ三階だよ。幾ら遥君でも、こんな高さから落ちたら怪我しちゃうってば」


「離せ雪緒! お願いだから逝かせてください!」


「ダメだよ。危ないよ!」


「だって、俺のこと、お……お姉ちゃんって……」


「遥くんが、性別を間違えられるのを、気にしているのは知っているけど、今は我慢して!」


「それ無理!」


 俺は雪緒から手を振り払うと、窓の外に飛び出した。


「ア ー イ ! キ ャ ー ン ! フ ラ ー イ ッ !」


 てな遣り取りが、有ったとか無かったとか。



 というわけで色々話を訊いてみたが、名前は御影絆と言い、小学二年生でまだ七歳らしい……。

 絆は俺達の説明を聞いて、直ぐに理解てくれた。なんて聡明な娘なんだろう。

 同い年の頃の俺を思い出すと、恥ずかしくなってくる。



 ランドセルを背負って居たからわかる様に、下校の途中に、俺達と同じように、気がついたらあの部屋に居たらしい。

 気がつき見渡せば、知らないジジイ共に囲まれていたら、それは怖かっただろう。

 そしてなにより《隷属の魔術(アレ)》だ、俺には効かなかったが、雪緒に訊いた話しでは、全身に激痛が走るらしい。

 それを訊いてまたキレそうになったが、絆の前なので自重した。

 

 「おにいちゃんどうかした?」


 絆は俺を見上げてきた。

 ――そう、何故か今、絆は俺の膝の上に座っている。

 座り位置を確かめるように、俺の太腿にグリグリとお尻を擦りつけたりしてるんだが。



 ……これって、何かの拷問でしょうか?



 いろいろ話したり、訊いたりしてる内に……異常に懐かれた。

 何か自分の事で怒ってくれていた事が、嬉しかったらしい。

 他にも椅子は空いているのだが、そちらに座るのでも無く、俺の膝の上に座り、嬉しそうに見上げているのだ。


 となりに雪緒がいるんだが。俺達をジッと見つめて……いや、何故か睨んでいた。

 痛い、視線が痛いですよ。雪緒さん……。


「……い……いや、な、何でも無いよ……」


 いや、何でも無い事はないんですよ? 具体的に言えば雪緒の視線が怖いから、膝から降りて欲しいなー。何て思っているんですが。

 流石にさっきまで泣いていた絆に、言うのは憚られた。


「絆ちゃん……遥くんも困ってるみたいだし、そろそろ降りてあげたら?」


 おお! ――雪緒さんよく言ってくれた。


「ヤッ!」


 絆は有無を言わず、雪緒の申し出をぶった切った。

 雪緒の顳口(こめかみ)がピクピク動いている。だから怖いですって。

 何で俺まで睨むんですか?

 俺はその状況に、ただ苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 


 しかし、これからの対応を、真面目に考えなくてはいけなくなった。

 今までは何だかんだで、暫く再召喚は無いだろうと、高をくくっていたのだ。

 これでは魔力石が見つかれば、また同じ事が行われる可能性が高いだろう。

 そう成らないように、気をつけて行動していた心算だったのだが、そうなっては本末転倒だ。


 ――だったらそろそろ、力ずくと云う手段も考慮に入れて良いだろう。

 魔術を掛けた魔術師に、解呪の方法を口を割らすか、もしくは殺害と云う手段もある。

 なんせ此方には、連中が知らない切りジョーカーを何枚か持っているのだ。 


 ただこの手段をとる場合には、二人には知られ無いようにしないとな。

 彼女達は巻き込まれただけだ。

 あんな連中とは言え、彼女たちが態々手を汚す必要は無いだろうから。

ご意見がありましたので補足しておきますが、主人公はロリコンではありません。

意図せずグリグリ刺激されれば、ある部分は反応しそうになるものだと思い、そう表現しました。

寧ろ子供に反応しちゃ駄目だろ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ