第五話 ふぅー、いい仕事をした。
初めてのお出かけから、帰ってくると、早速何処でもドア作りに取り掛かった。
試行錯誤を繰り返しながら、結果――成功した!
「じゃじゃじゃじゃ、じゃ~ん! 何処でもドア~」
大山ドラえ〇んの如く、お決まりの科白を言ってみた。
あ? ……俺はどっちかと言えば大山派だから。
だからこの際、のぶえもんって呼ぶことにしよう。
余りの嬉しさにテンションが有頂天だ。
イヤッホー! しかしまあー、やれば出来るもんだな。
幼い頃もよく言われたもんだ、やれば出来る子だって……あれ? これは違ったっけ?
と言っても、本家程の万能性は無いのだけど。
具体的に言うと、流石に次元跳躍無理だから、俺が知っている空間同士を繋げると云うことで、その為一度行った事がある場所にしか、行くことが出来ないと云う縛りがあるんだが。
――まあ本家程の万能性があるんだったら、元の世界に簡単に帰れるんだろうしな。
しかし、このピンク色のフォルム、のぶえもんの秘密道具の中で、欲しいものベスト3に入るだろう、俺は達成感に溢れていた。
「ふぅー、いい仕事をした」
かいてもいない額の汗を拭う様にしながら、ドアを眺めていると、背後から扉を叩く音がした。
「遥くん、いますか?」
この世界で、俺の名前を呼ぶのは一人しか居ないので、誰が来たのかは直ぐにわかった。
「――ああ! いるよ、開いているから入っておいで」
俺の声が聞こえたのか、雪緒が入ってきた。
そして俺の前にある物に気が付いて……呆気にとられて固まった。
「は、遥くん……それなにかな?」
ああ、そういえば、雪緒にこれを見せたのは初めてだったな。
「んー、何処でもドアだよ」
「……はい?」
「だから、何処でもドアだよ、何処でもドア……雪緒は知らない?」
「いえ……知っていますよ。ただ私の知っている物は、青い猫さんの持ち物だったような……」
「うん、雪緒が言っている物で、間違い無いと思うよ。ただこれは俺が自作した物なんだけどね」
「……遥くんの魔術は、色々出来るとは伺ってましたけど、こんなことも出来たんですね」
雪緒は俺の言葉に納得したのか、ドアをペタペタと触って、確認していた。
「何処でもって言っても、そこまで便利な物では無いんだけどね」
「そうなんですか?」
「うん、俺が作ったのは、一度行って記憶した場所にしか、行く事が出来ないんだ。
のぶえもんが使ってた物には程遠いけどね」
「そうですか……それでも、便利な物には変わりないですよ」
「そっか……うん、ありがとう」
「――い、いえ」
俺は作った物が褒められたので、お礼を言うと、雪緒は耳を赤くしながらも声を返した。
「……それで、のぶえもんてなんですか?」
あれー? 今、そこをつっこむの?
「ええっと……大山ド〇えもんだから、のぶえもん……」
いやあああああああああ、お願いだから! 俺にそんな事を説明させないで、恥ずかしぃ……。
「あ……ああ、なるほど」
雪緒は俺の説明に納得いったのか、頻りに頷いている。
俺は自分がさらっと言った科白に、果てなく後悔していた。
このままではいけないと思い、恥ずかしさを押し殺しながらも、雪緒に訊ねた。
「それで、何か用事だったのかな?」
「いえ、特に用事があるわけでは……」
雪緒は何だかんだで、俺と一緒に行動する事が多かった。
ここにいる誰よりも強いのだろうが、彼女の立場や容姿目的で、擦り寄る者がおろうが、雪緒にとってはこの世界は孤独なのだろう。
この先についての恐怖もあるだろう。
その中で、同じ出身地、同じ境遇、そして同じ立場――彼女の唯一の例外が、俺なんだろう……。
だから、時間があれば頻繁に俺の所に来ていた。
「……そっか」
「用事がなかったらダメでしょうか……?」
雪緒は上目づかいで、俺を見詰めてきた――うおぉぉおお! めちゃカワエエ! 止めろ! そんな目で見るな! 惚れてまうやろ!!
「いやいや!そんな事無いよ、そんな事無い!」
「そうですか……よかった……」
俺は慌てて答えた、それを訊いて安心したのか、雪緒は深く息を吐いていた。
だからその一々可愛い行動を止めてくれ。
「あ! ――だったら、俺が調べてわかった事を教えようかと思う」
「わかったことですか?」
「うん、そう、わかった事」
俺は魔術を駆使して、色々暗躍していたのだ。
具体的に言えば、書庫に潜入したり、騎士や兵士、侍女や魔術師共の会話を盗み聞きしたり。
またはこの国の有力貴族の情報収集等etc、そして女風呂にせんにゅ……あ、これは嘘ですよ?
書庫に潜入した際には、入り口に魔術で封印されていたけど、俺の魔術抵抗力持ってすれば、ドアノブを握っただけでぶっ壊れました。
もちろん俺が、魔術を掛けなおしましたけどね。俺以外は入れないように。
この世界の常識のお蔭で、俺がそんな事出来るなんて知っているのは、雪緒以外居ないから、大丈夫だろう……。
書庫にあった蔵書のお蔭で、色々わかった。魔術の事や勇者についての事――調べて、わかったって言うか、わからなかった事だが、俺の職業《愚者》や、俺の魔術についは書かれていなかった。
本当何なんでしょうね俺?
――ともかく、勇者についての事は、雪緒にも伝えた方が良いだろう。
「この世界に召喚された、過去の勇者について、ある程度わかったから伝えようと思って。」
「えっ! 本当ですか!?」
「うん……過去、一番新しいものでも、二百年以上前になるんだけどね。
勇者が召喚されたらしい、ここら辺は俺達と一緒だね」
「……はい」
「で、細かい事は割愛させて貰うけど、その勇者は仲間と共に魔王を封印したらしい」
ここまでは、よくありふれたお話だよね。
「そのあと、勇者はどうなったんですか?」
「うん、そこが気になるよね――その後、その勇者はこの世界で結婚して、そのまま生涯を終えたらしい。
少なくとも、俺が見た書物に書かれている勇者は、全員この世界で死んだ事になっている」
「――そんな! じゃあやっぱり……」
「この城の連中は、俺達を帰す心算が無いのだろう……。
いや――違うか、帰す心算が、では無く、帰す方法が無いのかも知れないな」
「…………」
「少なくともこの事を、この国の連中は知っている。知った上で俺達を呼んだ……。
呼ぶ事は出来ても、帰れない一方通行……まるで、かごめかごめみたいだな」
俺は吐き捨てる様に言葉を紡いだ。
「……だったら、わたしたちはもう、帰ることが出来ないんですか?」
かぼそい声だった……。俺は息を深く吸い込み、雪緒に語るように訊かせた。
「いや、 俺はまだ諦める心算はないよ。雪緒も知ってるけど俺の魔術は、この世界でも反則級なんだ。もしかしたら、何かしらの方法があるかもしれない」
嘘をついてしまった……。俺は帰れないんだろうなと、薄々感じていたのだが。
気休めとはいえ、流石に雪緒に嘘を言うのは、良心がズキズキと痛む。
「そ……そうですよね、まだ諦めるには早いですもんね」
雪緒は胸の前で、小さくガッツポースをとりながら言った。
俺はその可愛らしい行動に、癒されながらも答えた。
「ああ……そうだ。その為にも雪緒を解放して、この国から抜け出そう」
嗚呼、そうだ。この国の連中の為に、働いてなんかやるものか。
早く雪緒を解放する方法を見つけよう。