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愚者は踊る  作者: 君河月
第一章 召喚編
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第五話 ふぅー、いい仕事をした。

 初めてのお出かけから、帰ってくると、早速何処でもドア作りに取り掛かった。

 試行錯誤を繰り返しながら、結果――成功した!


「じゃじゃじゃじゃ、じゃ~ん! 何処でもドア~」


 大山ドラえ〇んの如く、お決まりの科白を言ってみた。

 あ? ……俺はどっちかと言えば大山派だから。

 だからこの際、のぶえもんって呼ぶことにしよう。


 余りの嬉しさにテンションが有頂天だ。

 イヤッホー! しかしまあー、やれば出来るもんだな。

 幼い頃もよく言われたもんだ、やれば出来る子だって……あれ? これは違ったっけ?


 と言っても、本家程の万能性は無いのだけど。

 具体的に言うと、流石に次元跳躍無理だから、俺が知っている空間同士を繋げると云うことで、その為一度行った事がある場所にしか、行くことが出来ないと云う縛りがあるんだが。


 ――まあ本家程の万能性があるんだったら、元の世界に簡単に帰れるんだろうしな。

 しかし、このピンク色のフォルム、のぶえもんの秘密道具の中で、欲しいものベスト3に入るだろう、俺は達成感に溢れていた。

 

「ふぅー、いい仕事をした」 


 かいてもいない額の汗を拭う様にしながら、ドアを眺めていると、背後から扉を叩く音がした。

 

「遥くん、いますか?」


 この世界で、俺の名前を呼ぶのは一人しか居ないので、誰が来たのかは直ぐにわかった。


「――ああ! いるよ、開いているから入っておいで」 


 俺の声が聞こえたのか、雪緒が入ってきた。

 そして俺の前にある物に気が付いて……呆気にとられて固まった。


「は、遥くん……それなにかな?」


 ああ、そういえば、雪緒にこれを見せたのは初めてだったな。


「んー、何処でもドアだよ」


「……はい?」


「だから、何処でもドアだよ、何処でもドア……雪緒は知らない?」


「いえ……知っていますよ。ただ私の知っている物は、青い猫さんの持ち物だったような……」


「うん、雪緒が言っている物で、間違い無いと思うよ。ただこれは俺が自作した物なんだけどね」


「……遥くんの魔術は、色々出来るとは伺ってましたけど、こんなことも出来たんですね」


 雪緒は俺の言葉に納得したのか、ドアをペタペタと触って、確認していた。


「何処でもって言っても、そこまで便利な物では無いんだけどね」


「そうなんですか?」


「うん、俺が作ったのは、一度行って記憶した場所にしか、行く事が出来ないんだ。

 のぶえもんが使ってた物には程遠いけどね」


「そうですか……それでも、便利な物には変わりないですよ」


「そっか……うん、ありがとう」


「――い、いえ」


 俺は作った物が褒められたので、お礼を言うと、雪緒は耳を赤くしながらも声を返した。


「……それで、のぶえもんてなんですか?」


 あれー? 今、そこをつっこむの?


「ええっと……大山ド〇えもんだから、のぶえもん……」


 いやあああああああああ、お願いだから! 俺にそんな事を説明させないで、恥ずかしぃ……。


「あ……ああ、なるほど」


 雪緒は俺の説明に納得いったのか、頻りに頷いている。 

 俺は自分がさらっと言った科白に、果てなく後悔していた。

 このままではいけないと思い、恥ずかしさを押し殺しながらも、雪緒に訊ねた。


「それで、何か用事だったのかな?」


「いえ、特に用事があるわけでは……」


 雪緒は何だかんだで、俺と一緒に行動する事が多かった。

 ここにいる誰よりも強いのだろうが、彼女の立場や容姿目的で、擦り寄る者がおろうが、雪緒にとってはこの世界は孤独なのだろう。

 この先についての恐怖もあるだろう。

 その中で、同じ出身地、同じ境遇、そして同じ立場――彼女の唯一の例外が、俺なんだろう……。


 だから、時間があれば頻繁に俺の所に来ていた。


「……そっか」


「用事がなかったらダメでしょうか……?」


 雪緒は上目づかいで、俺を見詰めてきた――うおぉぉおお! めちゃカワエエ! 止めろ! そんな目で見るな! 惚れてまうやろ!!


「いやいや!そんな事無いよ、そんな事無い!」


「そうですか……よかった……」


 俺は慌てて答えた、それを訊いて安心したのか、雪緒は深く息を吐いていた。

 だからその一々可愛い行動を止めてくれ。 


「あ! ――だったら、俺が調べてわかった事を教えようかと思う」


「わかったことですか?」


「うん、そう、わかった事」


 俺は魔術を駆使して、色々暗躍していたのだ。

 具体的に言えば、書庫に潜入したり、騎士や兵士、侍女や魔術師共の会話を盗み聞きしたり。

 またはこの国の有力貴族の情報収集等etc、そして女風呂にせんにゅ……あ、これは嘘ですよ?


 書庫に潜入した際には、入り口に魔術で封印されていたけど、俺の魔術抵抗力(レジスト)持ってすれば、ドアノブを握っただけでぶっ壊れました。

 もちろん俺が、魔術を掛けなおしましたけどね。俺以外は入れないように。

 この世界の常識のお蔭で、俺がそんな事出来るなんて知っているのは、雪緒以外居ないから、大丈夫だろう……。


 書庫にあった蔵書のお蔭で、色々わかった。魔術の事や勇者についての事――調べて、わかったって言うか、わからなかった事だが、俺の職業《愚者》や、俺の魔術についは書かれていなかった。

 本当何なんでしょうね俺?


 ――ともかく、勇者についての事は、雪緒にも伝えた方が良いだろう。


「この世界に召喚された、過去の勇者について、ある程度わかったから伝えようと思って。」


「えっ! 本当ですか!?」


「うん……過去、一番新しいものでも、二百年以上前になるんだけどね。

 勇者が召喚されたらしい、ここら辺は俺達と一緒だね」


「……はい」


「で、細かい事は割愛させて貰うけど、その勇者は仲間と共に魔王を封印したらしい」


 ここまでは、よくありふれたお話だよね。


「そのあと、勇者はどうなったんですか?」


「うん、そこが気になるよね――その後、その勇者はこの世界で結婚して、そのまま生涯を終えたらしい。

少なくとも、俺が見た書物に書かれている勇者は、全員この世界で死んだ事になっている」


「――そんな! じゃあやっぱり……」


「この城の連中は、俺達を帰す心算が無いのだろう……。

 いや――違うか、帰す心算が、では無く、帰す方法が無いのかも知れないな」


「…………」


「少なくともこの事を、この国の連中は知っている。知った上で俺達を呼んだ……。

 呼ぶ事は出来ても、帰れない一方通行……まるで、かごめかごめみたいだな」


 俺は吐き捨てる様に言葉を紡いだ。


「……だったら、わたしたちはもう、帰ることが出来ないんですか?」


 かぼそい声だった……。俺は息を深く吸い込み、雪緒に語るように訊かせた。


「いや、 俺はまだ諦める心算はないよ。雪緒も知ってるけど俺の魔術(ちから)は、この世界でも反則級(チート)なんだ。もしかしたら、何かしらの方法があるかもしれない」


 嘘をついてしまった……。俺は帰れないんだろうなと、薄々感じていたのだが。

 気休めとはいえ、流石に雪緒に嘘を言うのは、良心がズキズキと痛む。


「そ……そうですよね、まだ諦めるには早いですもんね」


 雪緒は胸の前で、小さくガッツポースをとりながら言った。

 俺はその可愛らしい行動に、癒されながらも答えた。


「ああ……そうだ。その為にも雪緒を解放して、この国から抜け出そう」


 嗚呼、そうだ。この国の連中の為に、働いてなんかやるものか。

 早く雪緒を解放する方法を見つけよう。


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