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愚者は踊る  作者: 君河月
第一章 召喚編
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第三話 ……ごめんなさい! 聞いていませんでした!

 訓練でもわかった事だが、身体能力が雪緒と俺とではかなり違った。

 具体的に言うと、100M走るのに俺だと11秒かかるが、雪緒だと3秒かからない。

 さらに言えば《高速移動》を使用したら、1秒もかからなくなった。


 同じ召喚者なのに、ここまで違うのかと暫く落ち込んだが、どうしようもないから。

 ……諦めた! そう、無い物は考えない! 後ろ向きの前向きに考えていこう!

 できる事から考えていく方が建設的だろうから。



 ……というわけで、俺達は今、魔術の講義の真っ最中でした。



「―――と言う訳です。何かご質問は?」


「…………」


 ……ごめんなさい! 聞いていませんでした! テヘッ。何て言える筈も無く、無言の肯定。


 雪緒の方を横目で伺って見ると、俺と違い真面目に訊いていた様だ。

 いやだってさ、長々と魔術の歴史を語られても、興味なんか無いんだもん。

 それよりは、魔術の使い方を早く教えて欲しいんだが。


「つまり、魔術とは神々や精霊に力をお借りした物なのです。

 故に、祝福を受けた神や精霊の力だけしか使用が出来ません。

 さらに、祝福を受けられますのは、一人一柱だけと成ります。

 そして魔術におけます詠唱とは、力をお借りする為の簡易儀式にあたります」


 条件が多いな。


「……つまりは魔術師一人に付き一種類、もしくは一属性しか使用できないって事?」


「はいその通りです。魔術師にとって祝福を受ける相手は、今後の人生を左右するものです。

 そして必ずしも、望んだ方の祝福を受けれるとも限りません」


 なるほど――魔術って云うのは借り物って事か。

 神などと契約して、契約した人間にだけ力を貸すって事ですかな。


「稀に産まれた時点で祝福を受けた方も下りますが、基本は祝福を受けないと、魔術を行使することは叶いません」


「では、あたし達も祝福を受けるんでしょうか?」


「いえ、例外も存在します。まずは魔方陣を使用されました物です。

 魔方陣には一種類の効果しか、意味を持たせる事しか出来ませんが、祝福を受けずとも使用が可能となります。

 ただそれでも、魔術師以外には行使は不可能ですが……。

 そしてもう一つの例外が勇者様方なのです」


「……どういう事ですか?」


「はい。勇者様方は、異世界(こちら)でお産まれになられた存在では御座いません。

 ですので存在の立ち位置が、神々や精霊等の存在に近しいのです。

 なので祝福も受けずとも、魔術を行使する事が可能な筈だと思います」


 ふむ――勇者の次は神様ねえ?


「だったら自分の力を現象として具現化するのが、勇者にとっての魔術なのか?」


「いいえ、違います。近しい存在だと云いましたが、それ故に祝福を受けずとも、その他の神々や精霊から、力を借りる事が可能となるのです。

 しかし勇者様でも、全ての方から力をお借りできる訳でもありません」


 たしかにここの世界の人間から見たら、勇者って云うのは十分チートだが、それでもそこまでは便利ではないのか。


「そして魔術を行使する上で必ず、魔力(オド)が必要となります。

 神々等に力をお借りするので。その際に魔力(オド)を媒体として捧げます。

 祝福を受けます以前の問題として、魔力(オド)を持たない人は、魔術を行使することが不可能です。またお借りする力が強ければ強いほど、必要となる魔力(オド)も多くなり、更に詠唱時間も膨大と化していきます」


 なるほど、MPを持たない人間は、最初っから魔術なんか使えないって事か。

 ゲームの戦士や武道家が魔法を使えないみたいなもんかな。


 しかし話を訊くだけだが、とても戦闘に活用できそうも無さそうなんだが。


「そして大気中には魔力(マナ)も存在しますが、これに関しましては、普通には見る事も、感じる事も出来ません。

 ですので魔方陣や魔道具など、魔力(マナ)を扱う為には外部媒体を必要とします。

 そしてそれを発動する為の切っ掛けとしても、魔力(オド)が必要となるのです。

 故に魔術師以外には、魔術を扱う事は叶いません」


 本当に条件が多すぎるだろ。にしても文明レベルも元の世界には遠く及ばないし、魔術すら、自由に扱えないのだとしたら、不便な世界だな。


「なあ、魔術師ってのは、この国だけでも何人くらい居るんだ?」


「城に所属されてます人間だけで、約30人程となっております。

この国全体で見ても、大体100人居るかどうかだと思います」


 MPが必要で更に祝福を受けなければ、使う事が出来ない。

 条件が厳しい癖に、そこまで便利って訳では無いのだったら、その位居れば上出来か。


「私が祝福を受けておりますのは、《炎神ファルネイア》と云います。

 炎神の名の通り、私の魔術は火を操る物になります。

 そして、この神は火属性を操る者にとっては、最もポピュラーな神なのです。

 ですので恐らく勇者様方も、扱えると思いますので、今から魔術を実際に使ってみますので、真似をしてみて下さい」


 おお!いよいよか……ヤバイ! ワクワクしてきたぜ! なんせ魔術だぜ、魔術。幼い頃にかめ〇め波と一緒で、一度は誰だって真似をした事があるもんだよな。

 それが実際に使えるって、浪漫溢れるよな。


 こっちに飛ばされた時に、《隷属の魔術》をかけられたけど、あんなもの邪道だよ邪道、魔術って云うのならやっぱり、炎か風だよな。


 講師役の魔術師が、右手をスッと差し出すと、俺は掌に魔力(オド)が集まるのを感じた。

 そして何かを喋っている、恐らく先程説明していた詠唱だろう。


「炎よ、火球となりて吾が手に集え『ファイアボール』」



 ボウッ!



 ……ピンポン玉程の大きさの火の玉が浮かんでいた。


 ……ええっ! ちょっ……ショボッ! 俺の浪漫を返してくれ!

 ってまあ、さっき言っていた、詠唱時間や魔力量の都合なんだろうな。


「では同じように試してみて下さい」


「ああ」「はい」


 俺と雪緒は返答すると、真似をする様に右手を前に差し出した。


 ――ええっと、それからどうだったっけ? 右手に魔力(オド)を集めていたよな?

 思い出しながら俺は右手に集中し、魔力(オド)を集めだした。

 前に《魔術感知》をやって以来、魔力(オド)を感じ取るのは、さほど苦にならなかったので簡単に出来た。

 後は詠唱だったな……先程言っていた科白を思い出し、炎を想像しながら、唱えてみた。


「炎よ、火球となりて吾が手に集え『ファイアボール』」



 ボウッ!!



 俺の掌に火の玉が現れた……って、うわぁ、俺もこんなもんか……。


 ちょっと期待していただけに、あまり変わらなかった事実にガッカリしていると、講師役の魔術師が、驚いた表情を浮かべていた。


「そ……それは、蒼炎では……」


 んん? 蒼炎? 何それ? と思いながら、再度俺の火の玉を確認すると、先程の魔術師が出した火の玉より、蒼かった……というか真っ蒼だった。


「なんだ、これ?」


 俺は不思議に思い、魔術師に尋ねてみた。


「それは蒼炎と言いまして、《炎神ファルネイア》からお借りできる。

 最強の炎と呼ばれております。私も実際に目にするのは初めてなんですが……」


「……へえ」


 ――魔術師の反応を見るに、かなり凄い事なのだろう。

 俺には良く判らなかったが、寧ろもっとド派手なヤツを出したかったんだが。

 けれどとりあえず、俺は魔術が祝福を受けずとも、問題無く使える事がわかった。


 雪緒を窺ってみると、問題無く赤い火の玉を手に浮かべていた。

 確かに召喚者ってのは、祝福を受けなくても、魔術が使えるみたいだ。


 しかし雪緒は弱点が無いな、接近戦も出来て魔術も使えるって、ちょっと反則過ぎるだろう。


「ちょっと訊きたいんだが、身体能力を強化する魔術って存在するのか?」


「恐らく……ですが、私は見たこと無いのですけど」


 在るかも知れないって、わかっただけで十分だ、とてもでは無いが、今の俺では戦力にならないだろうから、もっと勉強しなくては。



せめて彼女の足手纏いに、ならない位にはならないとな。

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