第一話 ……現実って何時も残酷ですよね。
「おはようございます」
……う、うーん……もう少し寝かせてくれよ、連日徹夜になってしまい、未だ眠くてしょうがないのだ……。
――って、あれ? 俺は一人暮らしだったよな?
起こしてくれる人なんか居なかったよな?
嗚呼、誰か可愛い義妹や、幼馴染が起こしに来てくれないかな……。
いや、もうなんと云うか……現実って何時も残酷ですよね。
……ああ……そうだ……次第に眠気が覚めて行き、昨日の出来事が甦って来た。
俺は――いや俺達はか、クソジジイ共に、異世界に召喚された勇者なんて云う存在らしい。
それはなんという幻想。いや、現実はゲームほど都合良くは無かったのだけど。
召喚、有無を言わせず強制魔術……嗚呼、なんて見事な利己主義者共。
ここに居る人間は、力ある者を屈服させることでしか、安心を得られ無いらしい。
押さえつける事でしか、人は動かないと思っているらしい。
それはとても素晴らしく、なんともくだらない幻想。
ドアのノック音が響き、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「おはようございます勇者様。そろそろお目覚めの時間になります」
……なるほど、この声で俺は微睡みの世界から現実に引き戻されたのか。
誰だ? と思いもしたが、この世界で俺を起こしに来るよな人間は限られている。
……俺が返答しなかった為、扉を叩く音が再度響いた。
ベットから起き上がると、仕方なしに俺は扉の向こうに声を返した。
「ああ! 起きている」
「失礼致します。朝食の準備が整っております」
俺の返答を聞き部屋に這入ってきたのは、やはりセイナーレだった。
侍女長とか言ってたよな、そんなお方が態々俺なんかを、起こしに来るなんてご苦労様な事で。……いや、だからこそか?
「準備が整われましたら、食堂の方までお越しください」
「ああ、わかった、けど俺は食堂の場所がわからんぞ」
「それは失礼致しました。では、準備が整われましたら、部屋の外に居ります侍女にお声をお掛け下さい。
その者が勇者様を食堂迄ご案内致します」
「わかった、それでゆきお……もう一人の勇者は如何したんだ?」
「そちらの勇者様も、これから私がご連絡に伺います」
雪緒……もう一人の勇者は当然の事だが、別の部屋で寝ている。
俺達が、セイナーレから説明を受けた部屋から、寝泊りする為の部屋に移ったのだが。
最初に俺達二人は、ツインベットがある部屋に案内された……。
そうです、察しの良い方はもうお気づきかと思いますが……セイナーレも俺の事を女だと思っていたらしい。
女の子同士だから、同じ部屋で良いやって考えだったのだろう。
勇者で女の子、容姿から同郷の人間だろうと察せられたのだろう。
だから同じ部屋に案内しても、間違ってはいなかったかもしれない。
けれど最も大きな間違いが御座いました……それは俺が男の子だったのです! 決して男の娘では無いよ、男の子だよ。見た目は兎も角、精神は真っ当な男だから。
てな事があって、俺たちは別々の部屋に案内して貰った。
……別に惜しかったなんて、考えちゃいないよ?
閑話休題
「……そうか」
「はい。それでは失礼致します」
俺に頭を下げると、セイナーレは部屋から立ち去った。そう云えば俺は、昨日の朝から何も食べていないのだった……。色々ありすぎて忘れていたが、思い出すと腹が空腹を訴えだした。
――クッ! 鎮まれ……俺のお腹よ、鎮まりたまえ……。
って、アシ〇カがタタリガミを抑えるかの如く、物まねをしても仕方が無いので、早く準備をしてから、向かう事にしよう。
俺はふと椅子が目に入り、その上に置いていた、俺が日本から持ち込んだ鞄に眼を向けた。
此処の連中は、俺達から荷物を取り上げるような事はしなかった。
いきなり《隷属の魔術》をかけてくる様な連中なのに、甘いと思う部分が多々有った。
まあ、それはそれでありがたいので、態々墓穴を掘る様な事を、云う心算も無いのだが。
立ち上がり鞄の中身を確認した。
教科書、ノート、筆記用具(ボールペン×2、シャープペン×3、消しゴム、蛍光ペン黄&赤、黒マジック)、ハンカチ、ティッシュ、携帯電話、手動充電器(LEDライト付き)、MP3プレーヤー、ペットボトル、飴10個、ガム4枚。
その他の持ち物には、腕時計と財布に制服位か……。
ここの文明レベルはまだわからないが、まともな照明器具が存在してない事を考えると、俺の持っている物は、かなり武器になるかもしれない。
……しかし鞄にお菓子とか入ってるし、何しに学校に行ってたんだろうな。
ふと気になり、俺は時計の時間を確認してみた。
――AM06:30――
窓の外を見てみたが、見た感じだけど、時計に表示されている時間と大差ないようだった。
異世界の筈なのに、太陽が二つもあるのに、日照時間が地球と大差無いのが、不思議でしょうがなかったが、それは今考えても仕方が無いので、頭の隅に追いやった。
鞄の中身を仕舞い直すと、元の場所に置きなおした。
現状着替えとかも持っていないので、このまま出て行くことにした。
風呂にも入っていないので、体臭が少し気にはなったが、諦める事にした。
俺は扉に手を掛け部屋を後にすると、通路に居た侍女に声を掛けた。
「……すまんが、食堂まで案内して貰えるだろうか?」
俺の呼びかけに気付き、侍女の娘は振り向き俺を目視すると、驚いた顔をした。
ショートヘアの活発そうな、綺麗よりは可愛いと表現する様な少女だった。
――ここの世界は、容姿のレベルが高いのだろうか?
それとも単純に、雇っている人間がそう選んでいるのだろうか?
……後者の方が可能性が高そうだな。
「――は、はい! かしこまりましちゃ! ゆうしゃしゃみゃ」
……おいおい、噛んでる噛んでる。侍女の少女はもの凄くテンパっていた。
セイナーレはこの侍女に、話を通していたのではなかったのか……。
まあいいか、案内してくれるって言うのなら、なんでもいいさ。
「で、ではこちらになります。私に付いて来てくだひゃい」
立ち直したと思ったら、結局また噛んだ。面白い子だななんて、チョット失礼な事も考えながらも、俺は彼女に食堂まで案内してもらった。