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愚者は踊る  作者: 君河月
第二章 旅立ち編
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第三話 




「お兄ちゃん。どっちー?」


 絆は俺の手を引っ張りながら、無邪気そうに訊ねてきた。

 

 俺は風呂から上がった雪緒と絆に、魔術での探知の件の事を話してみると、案の定確認に行く事になった。

 厄介事の可能性もあるとは俺は伝えたが、興味の方が上回ったらしい。いや、興味と云うより人として心配なのかも知れないが――可能性とは云え、もしかしたら人の子供かも知れないなどと、迂闊にも言ってしまったから。

 まあ、俺も気にはなっていたので、余り否定意見を言わなかったかのもしれないが……好奇心は猫をも殺す。

 ともかくそうにはならないように、俺は周囲を用心しながら進んではいる。 

 移動する際には浴槽はお湯を捨てて、テントと一緒に鞄に収納している――俺も風呂に入りたかったんだけど、後にすることになった……まあ浴槽は、鞄のお蔭で持ち運びできるし、お湯を入れること自体は俺にとっては然程問題では無から、後でゆっくり入ることにしよう。


 今は森の中を進んでいるのだが、既に周囲は夜で闇に落ち、森の中は木々の葉に空を覆い尽くされており、月明かりすら届かないので真っ暗で、まともに前を進むことすら叶わなかったが、幸いな事に俺が元の世界から持ち込んできていた物に、LEDライトがあった。これは携帯電話用に充電器として使ってきた物だが、本来の用途として使う機会が来た。

 魔術で明かりを灯す事も出来たが、森に巣くう魔物達は大概が夜行性であり、俺の魔術は強力すぎる為目立ちやすいので、折角ライトがあるのだから魔術を使うのは避けておいた。あるものを有効活用しないとね。


 俺は右手にライトを持ち、左手には絆と手をつないだ状態で歩いており、雪緒は俺のすぐ後ろで刀を持って周囲を警戒していた――こう云う時にこそ二人の能力(アビリティ)、|《危機感知》が効果を発揮するのかも知れないな……ただそれに頼り切るというのも俺の柄ではないが。

  

「……遥くん。その場所って云うのはまだでしょうか?」


 雪緒は周囲を見回しながら、俺に訊ねてきた。思っていた以上に森の中が暗いので、もしかしたら怖いのかもしれない。


「ああ、もう少し先だな」


「……そう、ですか」


 雪緒は俺の答えに、息を吐くように言った……。


「あれー? もしかして雪緒おねーちゃん……コワイの?」


「――ムッ。そんな事はありません。そんな事はありませんとも」


 雪緒は絆の質問に、ムキになった様に答えていた。


「な、何を言うんですか絆ちゃん。わ、私が、く、暗いからって怖いわけないでしょう!」


 ……雪緒さん。自分で暗いのが怖いとか言っちゃってますよ。今までは、日中にしか活動して無かったから気が付かなかったが、暗いのが苦手だったみたいだな。

 という事はさっきまでは、周囲を警戒していたのではなく、ただ周りが怖かっただけなんですね……。


「ふーん。そうなんだー。…………あれ?」


「ん、どうした?」


「……えっ、なんですか?」


「……あ、あそこでなにか白い影がうごいた!」


「――――」



「いやぁぁああああああああああ!! 無理です無理です無理です無理です」



 絆が森の先を指さしながら、俺達の質問に答えると、それを聞いた俺達に一瞬の沈黙が訪れる――突如雪緒は絶叫し俺に抱きついてきた。


「ううぅぅうぅううぅううう」


 雪緒は唸りながら、俺の背中に頭を擦りつけながら、ヒシッと抱きついてきている……何て云うか、色々やわらかい感触が背中に当たって、お兄さん困ってしまいます。


「えへー。やっぱり気のせいだったよ」


「…………」


 絆は悪びれずにそう言ってきた……しかし今の雪緒には、絆の科白は届いていないみたいだった。


「――はぁ、絆。そう言った冗談は余り言わないように」


「はーい。ごめんなさーい」


 うん。全く反省していませんね。絆は俺の忠告にケロッとした顔で答えてきた。絆と雪緒は城に居た時は、一緒に同じ部屋で暮らして居たので、もしかしたら知っていてやったのかも知れない……絆何て恐ろしい子!?

 ともかく俺は、抱きつかれたまま体を捻って振り返り(俺が体を捻っても雪緒は意地でも抱きついてきた)、雪緒の頭を撫でながら慰めた。


「雪緒。大丈夫、大丈夫だから」


 俺は、抱きついてきている雪緒の感触を敢えて無視して、髪を(くしけず)る様に撫で、安心させるように笑いかけた。


「ふえぇえぇええん、はるかくぅぅん」


「白い影も、怖いものとかいないから……ね?」


「……ほ、ほんと?」


 雪緒は上目づかいで、俺に訊ねてきた……なに、この可愛い生き物? 持ち帰ってもいいですか?

 半ばキャラ崩壊気味の雪緒に、安心させるように答えた。


「ああ、本当だ。もし何かいても俺が何とかしてやるから!」


「……う、うん!」


 雪緒は俺の答えに安心したのか、抱きつきから解放してくれたが――ただ、俺の右手を雪緒の手が掴んでいるんですけど……。


「……雪緒さん。この手は何でしょう?」


 俺が右手を持ち上げて訊ねてみると。


「……ダメ……ですか?」


 出ました、必殺上目づかい。遥は9999のダメージを受けた!


「いやいやいや。ダメではないですよ?」


 何故に俺も疑問系? 俺も明らかにテンパってますね。


 と云った訳で、左手に絆、右手に雪緒と云うフォーメーションで進むことになってしまった。




 ……で俺、ライトは何処で持てばいいんでしょうか?

案の定話が進みませんでした。


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