第二話
今回サブタイが思い浮かばなかった……
〈自由都市〉に向かい始め、半分の道程が経過した……。
街道を真っ直ぐ進んでいるだけあって、特に問題も無くここまで歩いてはこられた。
少なくとも俺達を追ってきている存在は、特に確認は出来なかった――向こうは今、それどころではないだろうが、それを信じて楽観視できるほど悠長にも構えてはいない。
例えば俺は、定期的に魔術で周囲を確認したり、思いつきに呪いを発動させてたりしていた……まあ、呪いは俺の憂さ晴らしも兼ねているかも知れないが。
ともかく、そう言った問題は無かったが、違う問題が発生した。
「遥くん。お願いします!」
「お兄ちゃん。絆からもお願い……!」
――それは、お風呂である。俺達は城に居た時には、毎日では無いとはいえ、風呂に入ることは許されていた。
なんでも、この世界では風呂は貴族や王族など、裕福や高位の存在でしか入らないものらしい、俺達は〈隷属の魔術〉を掛けられてはいたが、一応の勇者の扱いとして風呂に入ることが出来てはいたのだ。
大概の人は、濡らした布で体を拭く程度で、俺達もここまではそうして来たが、日がな一日歩いており、更に日中は日差しが暑くて汗もかいているので、男の俺はともかく雪緒や絆は、流石に耐え切れなくなってきた。
此方の世界の住人だったら、それが当たり前なのかも知れないが、俺達日本人は毎日お風呂に入っていた。場合によっては汗をかく度にシャワーを浴びたりもしていたが。そういった環境に慣れきっている俺達には、この状況はかなり酷だろう。
といった切なる二人の要望により、俺が風呂を作る事になった。
まあ俺も風呂には入りたかったので、このお願いは吝かでは無かったが。
「……わ、わかったから、チョット抑えて抑えて」
俺達は余り目立たないよう、街道の外れに立っている。そこで俺は、二人に迫られるように頼みこまれていた。
二人とも今にも襲ってこんばかりに、鼻息荒く目が血走っている……うぅ、怖いよぅ。
「チョット今から創るから、待ってて」
ふぃー、ふぃーと、息荒く俺を見詰めて来ている――ヤバイ、創らなければ殺られる。
俺は恐怖に慄きながらも、材料となりそうなものを鞄から探った。
浴槽を創るならステンレスか……だとすれば鉄とニッケルにクロムが要るが。ニッケルにクロムなんて物は持っていないし、更に言えば鉄も、材料に成る程量を持ってはいない……手持ちの素材で代用して、魔術加工するしかないだろう。
俺は鞄の中からミスリルを取り出した。鞄の中身の金属は、殆どが希少金属であり、その中でも最も量持っているのがミスリルだった……。
「鉄を街まで買いに――いや、今ここを離れようとしたら殺られる……はぁ、まあいいか、使う予定は特に無かったし――しかし、これを売りに出したりしたら幾らになるんだろうな……?」
二人を一瞥して見ると、とてもではないが、今から街に買い物に行くのは無理だと判断した。仕方無しに俺はボソリと呟きながら、このまま創る事にした。
ゴッソリと鞄からミスリルの金属塊を取り出すと、武器を創った時のように魔力を通し始めた。すると次第に輝きだし――四方2メートル程の浴槽に変化していった。
日本に居た時の実家の浴槽をイメージしたので、それなりに大きな浴槽が完成した。
脱衣と周囲の目隠しの為の囲いは、テントで代用すればいいだろう。そう考え鞄からテントを取り出し組み立てると、先程創ったばかりの浴槽を魔術で浮かせ中まで運んだ。ちなみに浴槽を浮かせた魔術は、財宝を盗む際に終盤に編み出した物だ、最初からあれば、もっと盗むのも楽だったんだろうな……。
ともかく俺は、横にいる二人の期待とプレッシャーに耐えながら、次にお湯を張る事にした。
流石に日本に居たときでも、熱湯を出す魔術の類を、アニメやゲームで見たことが無かったので、熱湯を出すという魔術は上手くイメージは出来なかった、なので水を張り直接火で温めることにした。
俺は浴槽に狙いを定め水を注ぎ込むと、次に浴槽自体に熱を送り込んだ。
幾らなんでも浴槽の水の中に、炎の魔術を叩き込むのは避けておいた……水蒸気爆発怖い。それに今回使用したのは、魔力伝導率が鉄とは比べ物にはならない程高いミスリルである。こういった方法が一番最適であろう。
すると然程時間がただずに、浴槽から湯気が漂ってきた。
俺は湯船の温度を確かめようと、浴槽に手をかけると……。
「わちゃぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
拳法家よろしく悲鳴をあげた――俺は莫迦か? もの凄く熱くなっていた浴槽に触って、おもいっきり火傷した。手の皮べろーん。
「……え? は、遥くん?」
「……お、お兄ちゃん?」
二人とも俺の様相にビックリしていた。まあ、あんな大声を出して驚かない方が無理だろう。俺は手を隠すようにして、火傷部分に治癒魔術をかけた後、安心させるように笑いながら答えた。
「ちょっと驚いただけだから、大丈夫大丈夫」
俺が火傷していた方の手を、ひらひらと振りながら言うと、それを聞いて一応は納得してくれたのか下がってくれた。
――ふう。俺は気を取り直すと浴槽の部分を冷却させ、湯船に手を突っ込みかき混ぜながら温度を確認した。
「……うん。温度はいい感じだな――よっし、風呂は完成だ」
俺が雪緒と絆に呼びかけるように言うと、二人は目を輝かせながら此方に寄ってきた。
「――ほ、本当ですか?」
「やったぁ!お風呂だ」
「ああ、ただチョットまだ熱いかも知れないから、水でも足して調整してみて」
二人とも水の簡易魔術程度なら扱えるので、特に問題にならないだろう。
「じゃあ俺は、外で周囲を監視しているからゆっくり入っておいで」
今にもウズウズとして、お風呂に入りたそうにしている二人に鞄を預けると、俺はテントから外に出て行った。
しかしまさか、ミスリルで浴槽を創る事になるとは……まさにファンタジーだな。
「じゃあ、絆ちゃん。一緒に入りましょう」
「うん!」
などとテントの中から会話が聞こえてきたが、俺は聞こえない振りに徹して、周囲を警戒した。
流石の俺も、雪緒と絆の入浴を覗く気は起きなかったし、会話を盗み聞く心算も無かった。試してはいないが、俺の《光学迷彩》が彼女達の能力の《危機感知》を上回るかわからないし、だからといってそれを試す気にはならなかった。というか怖くて出来ません。
ともかく俺は周囲を警戒するよう、辺りに生物がいればわかる様に、探知の心算で《魔術感知》と併用して魔力を飛ばしてみた。これで生きている生物がいれば、何かしら魔力の歪みを感じるだろう。
それを辺りに放っていると、森の奥のほうから、何かの生き物の反応が返ってきた……。
「ん? 生きているモノにしては反応が小さいな……?」
反応の見たサイズの大きさからして、成人男性ほどの大きさでは無いだろうが、生きた生物の反応が感じた。ただ力の反応としては、かなり弱弱しく感じた……。
周囲は既に薄暗くなっており、更に森の中なので遠視の魔術でも、木々などが邪魔で奥までは確認できない。
「んー、何なんだ? まさか子供……じゃないだろうな?」
魔物が潜んでいるかもしれない森の奥で、子供がいるとは余り考えられないが、ただ感じるサイズの大きさからしては、可能性として十分にありえた。
俺は少し気にはなったが、嫌な感じと共に面倒事の可能性もある。ともかく今はここを離れる事が出来ないので、確認に行くかどうかは、二人が風呂から上がってからだ……。