第十話 本当だよ?
覗きになんて行ってませんよ? 本当だよ?
暗躍その壱
で、やって来ました〈プレクスタ〉で最も大きい、公爵領です。
元々情報収集の際に、有力貴族に関しての情報を得てはいたので、復讐と実益も兼ねて、財産などを盗み出す予定だったのだが、今までは万が一バレた場合、雪緒に迷惑がかかると思い自重していた。
しかし最もの懸念材料だった《隷属の魔術》が解除され、更に時間も無いと云う事で、行動に移す事にした。
流石は公爵家だけあって、プレクスタ城には及びはしないが、かなり立派なお城でした。
俺は《光学迷彩》を使用して、堂々と宝物庫など、城内の財宝を隠している場所を探る。
大概セキュリティの為に、魔術で出入り口など封じていたりしていたが、王城の宝物庫でさえ問題にならなかった俺にとっては、それは無いに等しかった。
俺にとって最大の問題は、鞄に収納する際だ……あれだけは何とかなりませんか?
この世界でも非力な俺に取ったら、金塊の重さは洒落にならない。
治癒魔術が無かったら、翌日筋肉痛ですよ……。
この世界の金を持っている貴族連中は、概ね魔術などでその場所を隠している事が多い、だから《魔術感知》を持つ俺には、鴨に過ぎなかった。
寧ろここに何かありますって、教えてくれているような物だ。
……ヤバイ、笑いが止まらない。
とある貴族の書斎に押し入った時は、入り口が魔術で封じられていたので、おかしいなとは思ったが――出るわ出るわ灰色では無く、真っ黒な帳簿などの書類たちが。
軍事に関する物もあったので、敵対国に売れば高く売れると思ったけど、それをすれば悪目立ちしそうなので、自重する事にしておいた。
しかしどこの世界も、政に関わる人間は黒い、黒いね。
まあ一応念のために、鞄の中に保管させて頂いたけど……。
まったく、いい事をすると気分がいいぜ。
俺は、王都内と城から半日で通える範囲の貴族から、片っ端から盗みに這入ってやった。
金銀財宝はもとより、武具の類は全部金属塊に戻して鞄に押し込んだ。
もちろん幻術を掛けた上で再封印しましたよ。
今回は十日程で解けるように設定しました。逃げた後バレたら面白そうだしね。いきなり一文無しになるんだし。
いきなり俺達に国を救えとか、それで命をベットしろとか言ったんだ。その程度の代償は背負って貰わないとね。
俺も逃げ出す為に、先立つ物がいるから。
さらに暗躍その弐
忌々しい召喚の間にやって来ました。
ぶっちゃけ、この部屋の正式名称は知らないのだが、興味も無いし知りたくも無い。
ともかく、仕掛けを仕込んでいく事にする。
具体的に言えば《次元の消失》を仕掛けておいた。
これは再召喚をしようとするか、俺の合図で発動する様に設定している。
魔方陣自体に壊されない様、防御魔術が使われていたが、事前に《次元の消失》で色々試していたのだが、俺の魔術抵抗力すら貫通したので、誰が掛けたかは知らないが、問題にもならないだろう。
そして、俺はこの城内に存在する書庫全てに、同じ様に仕掛けておいた。
さらに念の為にも、この国の魔術師の部屋、全てにも仕込んでいる。
これで、この国での勇者召喚なぞ、ふざけた事が出来ない筈だろう。
☆ ★ ☆ ★
そんな感じで、コソコソと暗躍しながら一週間が過ぎ、建国記念祭……つまり俺たちが、お披露目される事に差し迫っている三日ほど前。
雪緒は初日に騎士団長を圧倒してしまったので、そのお蔭か訓練自体は任意に成っている。
なので今回は、雪緒も絆も訓練には参加していなかったが、俺は偽装の為、ここの連中に落ち零れと思いこませる為にも、日常通りの剣術の訓練が終わり部屋に戻っている途中、騎士の集団に出くわした。
ここに来て既に一ヶ月以上経っているのだが、俺が見たことも無い連中だった。
男女10人程の騎士の集団……その先頭に立っている騎士――長身二枚目で、男の俺からしたら劣等感を煽られる人物だが、その男の装備している物が気になった。
俺の特性《魔術感知》が、男の鎧と剣にかなりの魔力が有しているのを見て取れたのだ。
俺が宝物庫で見た、聖剣に匹敵するかも知れない。
俺はその人物が気になり、セイナーレを捉まえて問いただした。
「――それは恐らく、ガフォーク·ヴェルヴェック様かと思われます」
俺はその名前に聞き覚えがあったが、念の為に訊ねる事にした。
「……誰なんだそれ?」
「はい。勇者様は《|栄光の騎士(ナイツ·オブ·グローリー)》をご存知でしょうか」
「――ああ」
《|栄光の騎士(ナイツ·オブ·グローリー)》――ここ『神光国家プレクスタ』が誇る最強の騎士団の名前だ。
如いてはこの『レミール大陸』の中でも、最強を誇る少数精鋭の部隊らしい。
という事は、あの集団がそう云う事だろうか……?
「では――ガフォーク·ヴェルヴェック様はその中で〈騎士の中の騎士〉で在らせられます」
〈騎士の中の騎士〉は筆頭騎士。この国で最強の騎士に与えられる称号。
つまりは、この大陸でも最強クラスの人物だと云う事だ。
そう考えれば、あのレベルの装備をしていても納得がいく。
あれは王から贈与された、聖剣クラスの武具だったんだろう……。
しかし、長身二枚目でこの世界でも最強クラスって……俺の劣等感がジクジクと刺激された。
あんだけイケメンだとさぞモテるんだろう……死ねばいいのに。
なんだよ、そんな人物が居るんならそいつに魔王退治頼めよな……。
そんな風に俺はやさぐれているが、セイナーレは気が付いていないのか説明を続けていた。
「今まで遠征されておられましたが、間も無く建国記念祭ともなり、その為帰還されたかと思います」
なるほど、だから今まで見かけなかったのか、年に一度の記念祭――そんな一大イベントに、それが国を代表する騎士ともなれば、召集されもするか……。
――しかし、今までは城に居なかったので、特に害が無いと思いほっといたが、これは逃げ出す際に面倒臭くなりそうだな……。
俺はそんな考えをおくびにも出さず、セイナーレに礼を言うと立ち去った。
「……そうか、わかった。ありがとう」
「いえ」
俺は祭りの騒ぎに生じて、逃げ出そうと考えていたんだが、万が一阻まれたら如何するべきだろうか?俺達はこれから、この国に喧嘩を売るのだ。
……そう、勇者召喚など愚かしい事をした事を、奴らに後悔させてやるのだ。