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愚者は踊る  作者: 君河月
プロローグ
1/21

……それで、ここは何処ですか?

 ん?ああ、いきなりだけど、俺の説明をしておこう。


 俺の名前は、雪村遥、女顔がコンプレックスの、ちょっとおちゃめな16歳だ。

 朝早く……と言っても8時位だったが、学校に登校の途中、昨日は深夜遅くまで、B級映画を見ていたのが悪かったのか、寝惚け(まなこ)で歩いていたんだが、気がついたら知らない場所に立っていました……。


 あれ? 寝惚けて変な所に出ちゃいました?


―――いやいやいや、待ってくれ、いくら寝惚けていたとしても、こんな通い慣れた道で、こんな場所に来れる訳が無いだろう。



 ……それで、ここは何処ですか?



 薄暗い十畳程の空間に、足元に輝く魔方陣、奇妙な格好のジジイ共、甲冑に剣や槍で武装している兵士?がおり、昔見たアニメのワンシーンの様だなと、場違いな事を考えながら、文字通り開いた口が塞がらなかった。


「おお、見事だ、こうも容易く成功させるとは」


「ハッ! 有難う御座います」


「で、こやつも勇者であろう?」


「はい、恐らくそうかとは思われますが、まだ判断は致し兼ねます、この様な間抜け面をしている者が、勇者かと思うと甚だ不本意では御座いますが」


 ――ムッ! 間抜け面って、俺のことですか、俺のことですね。

さっき迄呆けた顔をしていたと思うから。しかしこいつらの、人を値踏みするような目は、不愉快極まりない。


「まあよい、使えるか使えぬかは、後で試せばよい」


「はい。そうかと思います」


 ローブ? を着ているのと、宝石等で華美に着飾っているジジイが居るが。二人とも、どう見ても日本人には見えない。兵士は兜を被っているので、俺には判断しようが無いのだけど。


 あれ? そう言えば、「こやつも(・・・・)」とか言って無かったか、何故に複数形なのだ?

 ――んん? さっきは呆然としていて、気が付かなかったが、部屋の隅に女の子がいる。


 黒髪ロング、美少女と言う存在を指すのなら、彼女の事を言うんだろうなと思わせる。容姿の持ち主だった。しかし、どこかの学校の制服を着ているし、どう見たってあれ……日本人(・・・)だよな?

 

 多分だろうけど、彼女もここに連れてこられたのだろうか、酷く怯えている様に見える。


「それより、大事があってはことになる、こやつらに魔術をかけておけ」


「ハッ! ――畏まりました」


 隅に立っていた兵士に、ローブを着たジジイが命令をし、俺を彼女のそばに引っ張って行った。

 俺を彼女の横に立たせると、ローブを着たジジイが、ボソボソと何かを唱えだした。


 魔術って言っていたよな? 魔術なんて物があるのか?

 ……って、魔術ですか!?


 ……仮にあるんだとして、何の魔術なんだ? 嫌な予感がする。……寧ろ、嫌な予感しかしないが、気付けば魔術? が完成していた。


『この者たちに、臣なる者への隷属を』


 ローブを着たジジイが、手に持っていた杖を、俺達の方に向けると、杖先から怪しい光が、俺達を包んだ。俺は驚き、反射でしゃがみ込んだ。しかし光こそ浴びてはいるが、何とも無い。


 んん? これが魔術? ふと気になり、同じように光を浴びている、彼女の方を横目で見てみると、何故か苦しんでいる様に見て取れた。


 ――あれ? 何で苦しそうにしているんだ。俺は驚きはしたが、特に痛かったり苦しかったり、しないのだが……?


 彼女が苦しんでいるのに、俺だけ平気なのも、もしかしたら、怪しく写るかもしれない。俺は誤魔化すように、苦しむ演技をしておいた。すると次第に光が収まっていく。


「どうだ、魔術はかかったか?」


「はい、《隷属の魔術》は問題ありませんでした」


 演劇経験が、特にあった訳では無かったが、特に怪しまれずに済んだようだ。

 しかし《隷属の魔術》ってなんだ?どんな魔術を俺達はかけられたんだ。


 隷属って事は、何かに従わせる魔術か何かか……?


「そうか、良くやった! では、わしはもう戻るが、後の事は任せたぞ」


「はい、お任せ下さいませ」


 ローブを着たジジイが、恭しくお辞儀すると。着飾ったジジイが、部屋から出て行った。


「おい! こやつらを連れておけ」


 ローブを着たジジイが、兵士に命令をし、俺達を、何処かに連れて行こうとしている。

 抵抗しようかとも考えたが、俺が暴れることで、彼女にも迷惑をかけるかもしれ無い。

 なにより、武装している相手に敵うほど、喧嘩に自信がある訳でもないので、俺は抑えておいた。




 ☆ ★ ☆ ★




 俺達が連れてこられたのは、さっきいた召喚の間(便宜上俺が命名)より、倍ほど広さを持つ部屋だった。

 とりあえず、連れて行かれている間に分かった事は、ここが地球では無いって事だ。

 空に太陽が、大小で2個存在した。


 地球に太陽は2個も無いからな。

 日照問題とか、紫外線とか、大丈夫なんですかね?


 兵士達に連れて来られた部屋には、メイドさんが居た……もう一度言うが、メイドさんが部屋で待っていた。

 ……なんでメイドさんなんだ?


 整えられた銀髪、気の強そうな瞳で、小柄ながら出るところは出ている。

 所謂、トランジスタグラマってヤツだろう。

 それにしてもこちらに来てから、美人と出会う機会が多いなと、俺は埒も無い事が思い浮かんだ。


 兵士は俺達を椅子に座らせると、入り口の前を陣取った。

 俺達を逃がさないって、意思表示でしょうか?

 ……メイドさんは俺達が着席するのを確認すると、立ち上がり。


「初めまして勇者様方、この度勇者様のお世話及び、事情等の説明を任させて下ります。

 侍女長のセイナーレ・パルメイラと申します。以後お見知りおきを」


 メイドさん改めセイナーレは、とても優雅にお辞儀をした。

 もの凄く絵になる光景だなと、見とれていたら。


「あ……あの、わたしを、ここから帰していただけますか」


 ここ迄一切喋らなかった彼女が、口をひらいた。


「……わ、わたし、勇者なんかでは無いです。お願いですから、わたしを元の場所に帰して……下さい」


 語尾が少し上ずっていた。いきなりこんな場所に、連れてこられたら、そりゃ怖いだろうな。


「申し訳御座いません。(わたくし)には、そのご希望を叶える事は参りません」


「そんな! なんでですか!?」


「私は、その様な判断を、任されている立場では下りません。

 もし、その様な判断が出来ますとしたら、国王陛下のみかと思います」


「だったら、その国王様に貴女から言って下さい」


「申し訳ありませんが、それも叶いません」


「そんな、なんで!?」


「私には意見はおろか、お目通りすら叶いませんから」


「そ、そんなぁ……」


 ――いきなり連れて来られて、それで帰れませんって。納得する方が無理だろう。俺だって無理だ、だって残してきた物あるもん。

 ……ゲームとか積んでいた本とか……あれ? 悲しくないのに目から汗が。



 って、ヤバイ!――もし帰れないのだとしたら、誰か! 俺の部屋のPCを爆破してくれ!?



 ……なんて俺は心の声をおくびにも出さない、この場でセイナーレに、そんな事を言っても詮無いと思ったので、この場では他に気になっていることを、訊く事にする。


「事情の説明って言ったよな。だったら訊きたいんだが、ここは日本では無いのか?」


 太陽が2個あるんだから、日本では有り得無い場所なんだけど、確認の為に訊いておいた。


「はい、ここは日本と仰る、場所では御座いません。私達が住むこの世界は『ガイア』と申し。

 そして、今、現在居ります場所(ここ)は、『レミール大陸』にあります。『神光国家プレクスタ』と申します」


「では、ここは地球では無いのだな?」


「はい」


 嗚呼……案の定、地球ですら無かったか。

 彼女の方も、訊いた事の無い地名を出されて、困惑の表情を浮かべていた。


「ここが日本じゃないんだとしたら、何で俺は言葉が通じるんだ?

 ここで使用されている言語が、日本語って、訳じゃ無いんだろう」


「はい、こちらで使用されております。言語はエスペラント語と申します」


 へ? ――へぇ、エスペラント語ねぇ……地球で使われてる物とは、別物だとは思うが、ここでエスペラント語を、聞くとは思わなかった。


「だったらなんで、俺には解るんだ?」


「私もきちんとは理解しておりませんが、勇者様方には、此方の言語は、そう云う物だと考えて貰って構いません」


 いまいち分かり辛かったが、現実言葉自体は、通じているのだから、そう云う風なものだと、考えるしかないか。


「で、俺……いや俺達の事を勇者……だなんて呼んでいるが、結局の所、なんで俺達はここに呼ばれたんだ?」


 ――勇者で召喚だなんて、薄々感じてはいたが、案の定、予想通りの答えが返ってきた。


「勇者様方が呼ばれました理由――と申しますか。お願いを申します。先程もご説明致しました。ここ『ガイア』には、嘗て魔王と呼ばれる存在が、封印されておりました。しかし、その封印が弱まり、魔王が甦ってしまいました。

 その影響で、大陸全土の魔物達も活性化し、魔物により人的被害が増えてき、それ故に、国より出ての開拓も儘ならず。国同士が肥沃な大地を求め、戦争までおき始めたのです。それを憂えた吾が国は、勇者様方を御呼びしたのです。」


 まぁ、想像通りと言えば想像通りか……しかし、魔王と勇者……ねえ?

 どこぞの御伽噺か、良くあるRPGのテンプレみたいだな。で、それを俺達にしろってか?


 ……嗚呼、何て面倒臭い。


「勇者だなんて、わたしにはそんな力ありませんよ!?」


「それはご安心ください、勇者様方は、こちらに召喚されました時点で、身体能力が強化され、特別な力に目覚めていると思います」


 身体能力強化に、特別な力ねえ? ご都合主義もいい所だな。

 ――少し気にもなったので、訊いてみた


「それが分かるって事は、他にも、勇者ってのはいるのか?」


「いいえ、私が知る限りでは、勇者様の召喚は行われて下りません。他国についても同じだと思われます。そして、その情報につきましては、過去の勇者様達について書かれている、文献の記述を基より得た知識で御座います」


 つまり過去、俺達のように、ここに呼ばれた人間が入るって事か。

 ……文献になるって事は、かなり昔の事なんだろう。


「ではその勇者が、魔王を封印したのか?」


「……いえ、私はそこまで存じて下りません」


 何でここで、言い黙る必要があるんだ? 力の事とかが、そこまで分かっていて、そこが分からないとか……魔王封印とかでは無く、違う目的にでも、利用されたのか?


「だったらその勇者は、目的を果たした後はどうなったんだ?」


「……存じ上げて下りません」


 都合の悪い事には濁すか黙りですか……まあいい、後で調べれば分かるかもしれない。

 それよりも、俺が尤も気になっていたことを、訊いてみる事にした。


「で《隷属の魔術》とはなんだ?」


「《隷属の魔術》……ですか」


「ああそうだ、俺がここに召喚された時に、ローブを着たジジイにかけられた物だ」


 セイナーレは少し逡巡したが、答えた


「《隷属の魔術》とは、対象を永続的に隷属させる制約魔術となります。

 恐らくですが、勇者様には、プレクスタの王族に服従を誓う物を、使用されたかと思われます」


 ――クソッ! 予想通りかよ……それで何が勇者だ!隷属とか服従って、奴隷と大差無いじゃないかよ!


 横で話を聞いていた彼女は、絶句していた。


「具体的にはどうなるんだ? 例えばそれに逆らったとしたら」


「かけられた時に経験が御座いますでしょうが、王家の者の意に沿わぬ行動をすれば、魔術をかけられました時の、数倍の痛みが全身を襲います」


 痛み……? 俺はあの時、全く痛いとか感じ無かったんだが。

 しかし、彼女の方は、それを聞き更に蒼褪めた顔をしていた。


「で、それを解く方法はあるのか?」


「……いえ」


「わかった、つまりは俺達に拒否権は無いって事だな」


「…………」


 なるほど――帰れるかどうかでは無く、帰さない心算(つもり)なのだな。

そんな魔術を使うくらいだ、態々奴隷にそんな心積もりをする訳が無い。



 ……お願い誰か! 今すぐ俺のPCのHDDを破壊して!



「何故、それを話そうと思ったんだ? それを自分の判断で、言って良かったのか?」


「いずれ勇者様方には、お耳に入ると思いますので」


 遅いか早いかの違いでしかないと、云う事だろう。そうだよな、どうせ身を持ってその効果を、知る事になるかも知れないのだ。


「勇者様方に、こちらをお渡ししたいと思います」


 セイナーレは立ち上がると、横ににある机の上から、白いプレートを取り出し、俺達に渡してきた。俺達にプレートを受け渡すと、セイナーレが説明を続けた。


「ではまず、こちらに血を一滴垂らしてみて下さい」


 んん? 血……だと? それを訊いて俺達は訝しがんだ。


「勇者様方は、ご自身の能力を把握しておられないと思います、ですのでこちらをご用意させて頂きました。元々こちらプレートは、ギルドで使用されて下ります物で、血を垂らしますと、その方の能力などが登録され、確認する事が可能となります。」


 なるほど、ゲームとかでよくある、ステータスメニューみたいなもんか。さっきの説明を訊いた後で、血を垂らせとか言われたら、そりゃあ警戒もするだろう。

 しかし、やらなければ話が進まないし、現状把握の為にも、やっておいた方が、良いのだろう。そうでなくても、俺達に、拒否権など無いのだから。


 俺は親指を噛み、指先を出血させた……血がボタボタ垂れている。一滴所では無くなってしまった。思い切って、噛み過ぎてしまのだ。

 已むを得ず、プレートに血を垂らした。あー痛ェ。


 彼女の方も、俺がプレートに、血を垂らすのを確認すると、セイナーレから針を借り、指先を軽く刺し、血を垂らしていた。……って、針あるのかよ!?


 暫くすると、プレートに青白い文字が浮かび上がった。



名前:雪村遥

AGE:16

SEX:男

LV:1

JOB:愚者

HP:62

MP:1084

STR:66

VIT:52

AGI:71

DEX:101

INT:4712

RST:9877

LUC:558

称号:なし

特性:無詠唱、魔術感知、幻影魔術無効、制約魔術無効、攻性魔術無効

装備:学園制服

祝福:なし

ギルド:なし



 未だ名乗って無い筈の、俺の名前や年齢が、正確に書かれている。確かに便利だな。ふむ――それでこれが、俺の能力(ステータス)か……。

 しかし、この職業《愚者(フール)》って、何だよこれ?


 それに何というか……数値が、魔術特化しすぎだろう。こんなアンバランスな能力で、まともに戦う事が出来るのか、俺?


 彼女の方も文字が浮かんだらしい。らしいってのは、俺には、彼女のプレートの文字が、読めないのだが、彼女は難しい顔で、プレートを睨み付けていたからだ。

 俺はどういうことだと、セイナーレを見た。


「言い忘れておりましたが、こちらのプレートは、ご本人様と、ご本人様が許可された方のみ、内容を確認する事が可能になります」


 ――なるほど、そう云う事ですか。こんな世界なのに個人情報保護に御親切な事で。


「そういえば、過去の勇者も俺達みたいに、二人とか三人で呼ばれたのか?」


「いいえ、私が知っている限りですが、召喚されました勇者様は、お一人づつだったと思います」


「では、何故今回は、二人も呼ばれたんだ?」


「いえ、私は存じて下りません」


 多分だが、どちらかが保険だろうな。なんせ俺の職業が《愚者(フール)》なんだし。もしくはそれだけ、この国の人間は切羽詰っていたのか。


「他に、何かご質問は御座いますか」


「いや、今はもういい」


 これ以上突っ込んでも、答えて貰えるとも思えないし。


「はい、わたしも大丈夫です」


「左様で御座いますか、了解致しました――では、勇者様同士で、お話もあると思います。

 私共は暫し、此処を離れさせて頂きたいと思います」


 ん? 良いのか、俺達だけで話をさせて、逃げる為の算段をつけるとは思わないのか?って、ああ――なるほど、さっき言っていた《隷属の魔術》の効果か。


 ……つまりそれだけ、その魔術の効果に自信があるって事ですか。


「では、暫し失礼致します」


 セイナーレは俺たちに頭を下げると、扉の前を陣取っていた兵士を連れて、本当に部屋から出て行った。……本当に出て行ったよ。


「「…………」」


 お話って言われても、何を切り出せば良いんだろうな……?しかしまあ、お互い黙って見詰め合って、どんなお見合いだよ!?

 とりあえず、思いついた事を話題として、思い切って声をかける事にした。

 

 ……意外にシャイボーイなんだよ俺。


「君は……日本人だよね?」


「えっと。はい、そうです」


 ――やはり日本人か、勇者って云うのは日本人しか呼ばれないのか? まぁいいや、これも後で調べてみたらわかるかも知れない。


「ああ、良かった。俺は雪村遥って言うんだ。よろしく」


 俺は彼女に、手を差し出した。


「わたしは五十鈴雪緒と言います。よろしくお願いします。雪村さん」


 彼女改め五十鈴さんは、俺の差し出した手を、ジッと見つめていた。


「俺の事は遥で良いよ、後握手のつもりだったんだけど、五十鈴さんは嫌……だったかな?」


「い、いえ、そんな事は無いです。あと、わたしも雪緒で良いですよ」


 雪緒は俺の科白を訊き、少し躊躇いながらも、手を握ってきた。


 すべすべして、綺麗な手だなーと、思っていたら。雪緒は、俺の顔と手を見つめながら、尋ねてきた。


「え、えっーと、あの、遥さんって男性なんですか?」


 …………ハイ?


「えっ!? チョットまって、今まで俺の事、女だと思っていたの!?

 俺、自分の事を俺って呼んでるんだよ、この服だってどう見ても男物だよ?」


 この格好どう見たって男だろう、学校の制服はブレザーだけど、ズボン穿いているんのに。こにきて気が付くとか……確かに実名と相まって、間違われる事あるけどさ。

 寧ろ、間違われる事ばかりだけどさ。この格好の時くらいは、気付いて欲しかったよ。


「ご、ごめんなさい、綺麗な顔をされていたので、てっきり男装をされた、女性なのかと……」


 グサッグサッ、ま、まさか敵でもない筈の彼女に、ダメージを与えられるとは思わなかった。

 既にかなりのダメージを受けてはいるが、これ以上言われると、さすがに立ち直れそうにも無いので、急いで話題を変えることにした。


「そうだ! 雪緒は歳幾つなのかな? 見た感じだと、俺と大差無いと思うのだけど」


「わたしは清蘭学園の二年で、17になります」


「へ? 清蘭?……清蘭って、あの清蘭?」


「は……はい、恐らくその清蘭だと」


 清蘭と言えば、元の日本では超有名なお嬢様学校ではないか、学力のレベルも然る事ながら、容姿のレベルの高さも有名な学校だ、雪緒の顔を見れば、そのレベルの確かさを垣間見れるが。


「そうかー、清蘭かー」


 しみじみ言っている俺、傍から見ていたら、気持ち悪い事この上ないだろう。

 ――いや、だってさ、清蘭って言ったら凄いんだぜ、元の世界で、清蘭に知り合いが居るって言ったら、羨ましがられるだろうな……。

 しかし今考える様な事でも無いし、頭を切り替えるか。


「俺はしがない高校の二年、雪緒と同い年って事になるのかな、だから俺に、さんづけなんか要らないから」


「あ……そうなんですか」


 同年代と聞いて、雪緒ははにかんだ笑顔を見せたた。――うおっ、かなり可愛いです。


「それで雪緒は、ここに来るまでの事を憶えているか?」


「ここに……ですか?」


「そう、思い出せる範囲で構わないから」


 雪緒は、悩むように首を傾げながら、答えてくれた。


「わたしは学校から、帰宅の途中だったんですが、気が付いたらあの場所に立って居ました」


「……そうか」


「それ以上の事は、ちょっと思い出せそうに無いです」


 ――ふむ、なるほど、状況は、俺の時と大差は無いのだな。それにしても、帰宅途中……か、俺は登校中に攫われたが、時系列が違うのか?


「日にちとかは憶えているかい?」


「はい、確か10月14日だったと思います。時間までは……」


 俺も確か10月14日だった筈だから、俺の方が先には飛ばされていたのか……。

 まあしかし、このまま考えていても仕方ない。


「あのさ良かったら、そのプレートを見せて貰っても良いかな?」


「はい、遥くんにだったら良いですよ」

 おおう、よくこんな短い期間で、彼女の信頼を得られたもんだな俺。

 ――まあ同郷出身で、同年代ってのが、大きいのだろうけど。


 ……しかしまあ、くん付けか、この際妥協案として仕方ないか。


 雪緒からプレートを受け取ると、さっきは見えなかった文字が、見える様になっていた。

 確かに本人と、本人が許可した人しか見えないようだな。

 少々関心しながらも、俺はプレートの内容に目を通した。



名前:五十鈴雪緒

AGE:17

SEX:女

LV:1

JOB:勇者

HP:204

MP:138

STR:176

VIT:189

AGI:186

DEX:181

INT:112

RST:147

LUC:988

称号:プレクスタの隷奴

特性:危機感知、高速治癒、高速移動、高速詠唱、見切り

装備:清蘭学園制服

祝福:なし

ギルド:なし



 これが雪緒の能力(ステータス)か……職業《勇者》って事は、雪緒が勇者なのか。本来は、この位の数値が普通なのだろうか? だとすれば俺の数値は極端すぎるな。

 何より俺は、雪緒と較べるとライフと攻撃力が低すぎる。紙と言ってもいいかも知れない、本当に俺は戦えるのか?


 それに……んん? ――この称号の《プレクスタの隷奴》ってなんだ?

 俺の方には書かれて無かったよな。俺は確認の為に、プレートを取り出し見てみた。



名前:雪村遥

AGE:16

SEX:男

LV:1

JOB:愚者

HP:62

MP:1084

STR:66

VIT:52

AGI:71

DEX:101

INT:4712

RST:9877

LUC:558

称号:なし

特性:無詠唱、魔術感知、幻影魔術無効、制約魔術無効、攻性魔術無効

装備:学園制服

祝福:なし

ギルド:なし



 やはり俺の方には、称号自体が書かれて入ない。 職業の違いは良いが、俺の方に無いのは何故なんだ……?


 そう言えばセイナーレが、俺達にかけられた《隷属の魔術》は、制約魔術とか言ってなかったか。

 ――俺の特性(アビリティ)の中に、《制約魔術無効》なる物が書かれているが、もしかして、この特性(アビリティ)で無効化されたのか?


 ……だとすれば、俺のこの状態を他の人間に、知られる訳にはいかなくなった。

 もしばれたら、他の手段を使われかねないし、何より首輪が繋がっていない犬を、奴らが飼おう何て思わないだろうし。


 不幸中の幸いだが、このプレートは俺と許可した相手にしか見えない。

 だからと言って、これは慎重に取り扱わなければ為らないのは確かだが……。

 これからの対応に思い耽っていると、雪緒の声で現実に引き戻された。


「あたしも、遥くんのを見せて貰っても、良いですか?」


 ――これは如何(どう)するべきだろうか、断ると言う選択肢も無くは無いが。

 下手に隠し立てをして、後で知られてしまうと、今ある彼女の信頼を失いかねない……今の俺にとってそれは、あまり宜しくない。


 本当は見せない方が良いのだろうけど、これからの事を考えれば、俺一人でやるにも限界がある。

 ……彼女に素直に見せて、手伝わせた方が良いか。


「ああいいよ。だけどこれを見て、気になる事もあるかも知れないが、なるべく声には出さない様に気をつけて貰えるかな」


「? ――わかりました」


 雪緒は良くわかってなかったみたいだが、俺は手に持っていた、自分と雪緒のプレートを手渡した。

 雪緒はそれを受け取ると、俺のプレートに目を通した。


「……え?」


 ――ああ、やはり雪緒は気が付いたようだ、俺のと自分のを見比べている。

 気にはなるだろう、隷奴って書かれているものが、俺の方には無いのだから。

 もしかしたら、それが自分を縛っている、魔術なのかも知れないのだから。

 雪緒は困惑した表情を、俺の方に向け訊いてきた。


「あの……これって、どうして……?」


 気には付いたが、理解は出来ては無い様だった。恐らく雪緒は、RPGゲームの類をした事が無いのであろう。

 いやもしくは、薄々は気付いているのだが、確認の為に俺に訊いてきているのかも知れない。

 

 ……しかし、如何答えた物かね。


 この部屋は、盗聴されているのかも知れないしな。今まで話していた、俺達の会話を、ここの奴ら聞かれている可能性は十分ある。俺が奴らと同じ立場だったら、そうしてるし。そう行動する。


 部屋の文明レベルを伺うからに、盗聴器なる、ハイテクな物は、存在しないだろうが、魔術の類で出来るかもしれないし。訊けるかも知れない


 ……ふと、そういえば、俺の特性(アビリティ)の中に、《魔術感知》なる物があったよな。もしそれが、魔術無効化みたいに、使えるのならば、調べられるかもしれない。


 魔術――か、いまいち良くはわから無いが、あのジジイが使った《隷属の魔術》をイメージしながら、眼を瞑り辺りを集中してみた。


 ……すると何と無くだが、大気中にフワフワと漂う魔力(マナ)の流れを感じた。

 初めてなのに、とても懐かしく感じる、空間の違和感。


 ……これが魔術か……俺は一度魔力(マナ)の存在――流れを感じ始めたら、次第に辺りに存在する魔術を、感覚でだが分かり始めた。


 今もしこれを、人に説明しろと言われても、そう云うものだとしか、説明しようが無いのだが、確かに俺は今、魔術を理解している。そう知っているのだ。魔術を。

 更に、この部屋を重点的に、魔術を使用されていないか探ってみたが、魔術を使用された跡が無かった。


 如何言う事だ? 今だから判るが、この部屋には何の魔術も仕掛けられていなかった。何の警戒もせず、俺達に会話を許したのか?


 ――いや、それだけ俺達にかけたあの魔術に、自信があったって事なのか……。

 でも今まで、俺みたいな例外も居なかったのか?


 まあいいか、一々対策を考えなくて済むのだから、それならそれで好都合だ。

 先程の雪緒の疑問に、少し声を控えながらも、俺は答える事にした。


「多分……だけど、俺には、魔術の類が効かないのかも知れない。

 プレートを見て分かるかも知れないが、俺には魔術無効なる特性(アビリティ)を、持っているらしい」


「……だとしたら、遥くんだけでもここから逃げ出せるのでは?」


 俺は首を横に振りながら、答えを返した。


「いや、元の世界に帰れるかどうかも分からないし、現状情報が足りない、それに俺だけが逃げ出せば、雪緒に当たりが強くなるかもしれない」


「そんな! わたしは大丈夫ですから」


 雪緒も薄々気付いてはいるのだろうだろう、奴らは俺たちを帰す気が無いのを。

 ただ、簡単に現実を受け入れれるほど、俺は大人ではない。


「それに……」


「それになんですか?」


「俺が逃げた事で、その埋め合わせをする為に奴らが、再び勇者召喚を使うかもしれない」


「――あ!」


 雪緒も、思い当たったのであろう、奴らは使い捨ての駒のように、地球から人間を呼ぶ可能性があることを……。


 俺達を呼び、いきなり《隷属の魔術》何て物を使ってくる連中だ。俺が消えれば、直ぐにでも代わり人間を呼んだりするだろう。


 ――それは避けたい。此方の世界の住人がどうなろうかは、俺の知った事ではない。

 が、しかし、俺のせいで、地球からまた人が呼ばれるような事になるのは、それはなるべく避けておきたい。


「だから……もし逃げるのだとしても、俺達を召喚した方法を破壊(こわ)した上で……。

 雪緒、君も一緒では無いと駄目だ」


「――あ、えっと。あ……あの、ありがとうございます」


 ――もの凄く嬉しそうな顔を、されてしまった。

 俺としては、そう云う心算(つもり)で、言ったのでは無かったのだが。


 ……まあ、いいか、好感を持たれて悪い事は何も無いのだから。


「だからこの事は伏せておいて欲しい。それにもしかしたら、俺の能力(ちから)で、雪緒にかかってる魔術も、なんとか出来るかも知れないから」


「はい! わかりました。あたしにも出来る事があるのでしたら、言ってくださいね」


 これがゲームだったら、好感度上昇とか表示されるのかね。


「――ああ、ありがとう。とりあえず暫くは、従順な振りをして情報を集めよう。

 ここを逃げるのだとしても、帰る為の方法や生きて行く為にも、基礎的な知識は必要だから」


 ――そう、まずは情報だ……俺達が住んでいた日本は、情報化社会だった。

 情報の重要性は、嫌と言うほど理解している。

 なのに今の俺達は、此方の世界の事を全く知らない。

 生きる為にはお金だって必要になる、それなのに、使用されている通貨単位ですら、今の俺達は知らない……。


「はい!」



 ―――さあ踊ろう。俺達は操り人形では無い事を思い知らせる為に。

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