↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

令嬢なるもの

チョロインではなく、ヤバインだった。

作者: 浮月重月
掲載日:2026/10/17

「これはもう、運命の出会いに違いないわっ!」


そう叫んで、この国の王太子殿下にマウントポジションをとる娘。

おおよそ常人とは思えないピンク色の頭髪、小動物のような体格。

その顔は愛くるしいというべきか、かなりの年少にも見える。

一見するとそれなりに人気の出そうなお嬢さんである。

そう、一見しただけならの話だ。


本日は学園で先程まで新入生の入学式だった。


先程廊下でよそ見をしていた王太子殿下とその側近候補達。

横から勢いよくぶつかって来た娘は、多分今年の新入生であろう。

倒れ込んだ殿下にまたがる格好となり、顔を見るなりこの発言。

確かに殿下は優秀さだけでなく容姿も国内外で讃えられている。

一目ぼれなのだろうが、相手が誰であれ無礼な振る舞いだ。


殿下は困惑して声を上げようとしたのだが、それよりも先に、


「ああっ、ダメですわっ、こんなところでっ」


などと言いながらこの娘、積極的に殿下の唇を狙いにかかって来た。

攻め込んでいるのは娘、おのれだろうが。


慌てて引きはがしにかかる側近候補達だが、娘は無茶苦茶力が強い。

四人がかりで後ろから引っ張るも、殿下から全く引きはがせない。

いかにイカレていようとも相手は女性、少しは遠慮もあったのだが、

ぐいぐいと殿下の顔面へと娘は唇を伸ばしている。タコか。


首をそらし顔を背け、必死に抗う殿下。途轍もない恐怖の表情だ。

殿下の顔面まであとわずかに迫った時に、側近候補の一人が、


「ええい、殿下に対して不敬だぞっ!

 身の程をわきまえんか、まず殿下から離れよっ!」


と声をあげる。すると。


娘の動きがぴたりと止まった。ぐるりっと首が後ろを向く。怖い。


「えっ…この方って王太子殿下なのっ?

 …これはもう、運命の出会いに違いないわっ!」


またものすごい力で殿下へと迫り始めた。

殿下の胴体を両脚でカニバサミにして、絶対逃すものかという体勢。

側近候補達が我に返り、また引っ張り始めるもビクともしない。


「やめよと言っているっ!不敬だというのが分からんのかっ!」


先程とは別の側近候補が怒鳴りつけたのだが。


また娘の動きが止まる。先程と逆方向にぐるりっと首が回り。


「…やめてって、もしかして、ヤキモチ?

 さっき身の程って言った人も、ヤキモチ?

 あっ、二人ともよく見たら殿下に負けずお顔がいいっ。

 これも運命の出会いに違いないわっ!」


と、引き離そうとしていた二人を掴んで引き寄せる。

ちなみに殿下は依然、娘のカニバサミから逃れられていない。

引き寄せられた二人は逃れようともがくが、こちらも動けない。

こんな華奢な見た目なのに、どう抗っても手が外れない。

なんなのだ、この怪奇粘着娘は。


気づけば殿下も捕まった二人もいつの間にか上を脱がされている。

必死に止めようとしている、無事だった側近候補の残り二人だが、

たかが一人の小柄な娘を引きはがせず翻弄されていた。


◆


幸いこの日、彼ら三名の貞操はギリギリになって守られた。


大騒ぎに他の生徒や教員達が駆け付け、二十名余りで引きはがし、

この娘は初日で退学処分を喰らった。前代未聞である。


救出された時には三人ともが下着姿にまでひん剥かれており、

普段感情を表に出さぬ彼らも取り乱し幼子の様に泣き叫んでいた。


この娘、身元を洗ってみればある成り上がり男爵家の庶子との事。


さすがにこの娘は誰かを害した訳でもないが放置も出来ず。

王宮から厳しい処分を下せ、さもなくば爵位没収との命を受け、

男爵は迷わず娘を遠国の修道院へ入れる事を決めた。

もうこの国へと戻る事もないだろう。


…と思われたのだが。


娘は忽然と行方をくらませた。厳重に施錠された馬車の中から。

多くの兵士が警護に就き、逃さぬようにしていたにも拘らず。

世が世なら、稀代の奇術師として名をはせた事であろう。

いやそんな事言っている場合ではなく。


一般常識も世界の法則も無視するような存在が解き放たれたのだ。

王太子殿下と他二名が深い心的外傷を負うような相手であり、

娘の捜索は広範囲において行われたのだが痕跡を辿れない。


襲われた三名の精神状態を鑑みて、極秘捜索とされていたのだが、

これが裏目に出てしまう。後日王宮への潜入を許してしまった。


不安定な精神を落ち着かせる薬を服用し、寝床へ着く殿下。

横になれば当然顔は上を見る。天蓋付き寝台でないのが拙かった。

あの娘が天井にへばりついていたのである。にっこり微笑んで。


恐怖の悲鳴を聞きつけた侍従や衛兵達が扉をぶち破り突入して、

娘を引きはがして捕らえようとしたが、人と思えぬ動きですり抜け、

窓を突き破ってまたしても姿をくらました。


同様の事件は、先日襲われた二人の側近候補宅でも発生する。

ある時は衣装棚の中から。ある時はくりぬかれた柱の中から。

家人すら気づかぬうちに抜け道が作られている事もあった。

それでいて普段はどうやっても娘が見つからないのだ。


事態を重く見て娘の扱いは見敵必殺(サーチアンドデストロイ)、に切り替えられた。


王宮も側近候補の屋敷でも警備をさらに厳重にし対策したのだが、

一か月の間に侵入を許した事、実に十五回。かつ捕らえられない。

が、この襲撃は一か月続いたのちにぴたりと収まった。


殿下も他二名も、相次いだ襲撃によってげっそりやつれてしまい、

襲うに値する魅力を失ってしまったせいなのかもしれない。


関係者は安堵したものの、将来を期待されていた彼らの精神は、

日常生活を取り戻せるまでかなりの月日を費やすことになった。


◆


事件の翌年であるが。

この王国とは国交のない別の国でも同様の事件が勃発する。


なんでも、行き場のない娘を養女にしてしまった貴族がおり、

その養女が入学先の学園で生徒に猛威を振るったのだそうな。


事件はまだ終わらない。

ノープランで書いてたら妖怪変化になった

実際にこんなのいたら滅茶苦茶怖いな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あー久しぶりにすごいの読んだ。(笑) 怖いよ何この子(笑)
コメディと思ったらホラーだった((((;゜Д゜))))))) ほぼ妖怪扱いですが、体組成からして人間と違ってそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。