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お飾りの妻って、それ本当に人形ですから

作者: 播磨
掲載日:2025/11/21

「お前との婚約は家が決めたことで、俺はお前に情は持たない。せいぜい、お飾りの妻としてしっかりやれよ」


そう言い放っているのはこの国の公爵家である、セオドア・セべディズ。

氷結の貴公子という二つ名を持つ彼は、その名の通り冷たく今日初めて会う婚約者のマテル・ドール 伯爵令嬢に言い放った。


「かしこまりました。全力で努めましょう」


マテルは笑顔でそう言って、少しお茶を飲んだ。

セオドアは驚く。こんなことを言ってしまっては、泣かれるか反発されるかと予想していたからだ。


(この令嬢は何を企んでいる…)


セオドアは表情を変えずにマテルを疑うように見る。

一方マテルの内心はというと、


(ふははははは!人形にお飾りってwww。そりゃあ人形は着飾るためにあるけどさぁwww)


爆笑していた。

マテルは今、伯爵家の自室にいた。

いや、正確にはマテルの本体はだ。

現在、セオドアの前で笑顔を浮かべているマテルはマリオネットだ。

まるで本物の人形のような動きや表情は、すべて遠隔でマテル(本体)が操作してのものだったのだ。


マテルは10歳の高熱を出した時、前世の記憶がよみがえった。

この世界が前世で愛読していた『蝶の華』という恋愛ハーレム小説の世界だということも。

そして自分は、ハーレムの男性のうちの一人であるセオドアの婚約者で、いつの間にか死んだことになっているモブ令嬢だということも思い出した。

「死にたくない」「でも小説の雰囲気は壊したくない」マテルの心は生存本能と原作主義の二つに分かれていた。

どうにかして原作を壊さずに自分を死なずにするかを考えているともう一つの心が生まれてきた。

「人と会いたくない」

マテルの前世は対人恐怖症の引きこもりだった。

オンラインなどの画面さえ挟めばいけるが、いざ対面するとなると最悪気を失うほどに苦手だった。

ではなぜ死んだのか。

それは『蝶の華』の店頭限定グッズを頑張って外に出て買いに行った帰りに道に、同担拒否で暴れだしたファンに殺されそうだった子を庇ったからだ。

これに関してマテルは、「いやぁ…自分にも誰かを救おうという精神はあったとは…」と思っていた。

対人もしないで原作も壊さないで死なない。そんな難しいことが出来るのか。

「そうだ。人形にすればいいんだ。」

マテルの前世はVチューバーだった。

そして配信内で特技として披露したのは、一人人形劇という何匹もの人形の動きなどをマリオネティストとしたものだ。

Vチューバーでの画面越しの表情の作り方や、人形を操る技術、さらに器用だったためドールを作る技術も持っていた。

さらにさらに、マテルの保持する魔法はちょうどいいことに物体を操るものだったのだ。

遠隔に操作して、まるで本物の人間のようにすれば死なないし人にも合わずに済む。

そう思ったマテルはこの日から、自身の人形を外に出して交流するようになった。

今では家族までもが人形だと気づかずに生身のマテルだと思って接しているほどだ。


セオドアが疑いのまなざしを向ける中、マテルは心を躍らせていた。

(婚約したってことは、あともうちょっとでヒロインが来るってことだよね。自分の人形が死んでも、ヒロインの結末が見れるって最高じゃん!早くヒロイン来てくれないかな~♪)

その心の中を反映するように、人形のマテルの表情は笑顔のままだった。

それがよりセオドアを警戒させる。

(なぜ笑っている?普通の令嬢ならこの状況に笑ってはいられないだろう)

二人の天地とも呼べる心境のまま、その日のお茶会は終了した。


その晩に帰ってきた人形をマテルは点検と手入れをしていると、ふとギギッという摩擦音が聞こえた。

これはボールジョイントが固着しているということだ。

ボールジョイントとは、人形の関節部分に球体とそれを受け止めるくぼみを組み合わせた構造のことで、緩んでいると動きが安定しなかったり固すぎるとカクッと人間らしくない動きをしてしまうのだ。

これでは少し違和感を持たれてしまうと思い、まずは汚れやごみなどを取り除く作業から始める。

次に古い潤滑油を軽く拭き取ったら、新しく少量の潤滑油を塗る。

という作業をしていて、マテルは潤滑油が足りないことに気が付いた。


「あ~…、人形が犠牲になった時用にって新しいのを作ったからかな…。明日買いに行かなきゃ。」


そう思って、少し足りないが潤滑油を塗って関節を馴染ませて噛みこみをほぐす。

すると、あの摩擦音は聞こえない。


「明日、過度に動かさない限りは大丈夫かな。でもまだ新しい人形の操作は慣れてないし…仕方ない、マテル(人形)で行くかぁ…」


使用人さんを使わないのは、前世で慣れていないのと買うものがマリオネットに合うものでないといけないからだ。

買い物だけなら過度ではないため行けるだろうと、この時マテル(本体)は油断していた。


翌日。

市場は今日も大勢の人でにぎわっていた。

(この平和も、ヒロインのおかげなんだよね)


『蝶の華』は、ヒロインが人と関わっていき感情と平和という意味を知っていく物語だ。

女神の生まれ変わりだと光の魔法が使えるヒロインは、王国にて幽閉されていた。

魔物からの襲撃から守る結界をはらされ、休憩なしで使い続ける魔法の疲弊でヒロインの感情はなくなっていった。

平和とは何か?ヒロインは自問自答しながら、従うしかなかった。

憐れに思ったお付きのメイドは、命からがらヒロインを逃がした。

外の世界に出れたヒロインは、旅をして出会った男性たちと関わりながら世界を知っていく。


マテルはそんなヒロインが大好きで憧れを抱いている。

可愛くて優しくて純粋で、怖がらずに人と関われる。

だからこそ幸せになってほしいと。

(結末を見届けるためにも、まずは潤滑剤だよね。)

そう(自室で)意気込んで、マテル(人形)はにぎわっている市場を抜けた一般では絶対に買わない店に立ち寄る。


この店はコアな層を狙ったいわゆるニッチ店というものだ。


「いらっしゃい。人形の嬢ちゃん。」


「こんにちは、キシルおじさん。いつもの潤滑油をお願い」


「はいよ。任せな」


この気前のいい老店主は、キシル・スレッド。

現在のマテルが人形で本体は自室にいるということを唯一知っている人だ。

そして人形のための道具などを取り寄せて売ってくれる協力者でもある。


「はいよ。これでいいな」


「いつも本当にありがとう。この人形に合う潤滑油って市販では売ってなくてさ。いつも頼りっぱなしだよ」


「人形の嬢ちゃんみたいに気前のいい常連さんが来てくれるから、うちは続けてられるんだよ。それになかなか面白い話相手でもあるからな」


ニシシと笑うこの老店主は、奥さんと息子夫婦が亡くなっており、この店を開いたのも自身の終の棲家にするためなんだとか。

当然ニッチ店なのであまりお客さんは来ないが、店にくるお客は何かと老店主と気が合うことが多く、よく相談役としても頼られているのだ。

彼の片目には、愛する奥さんと息子夫妻を亡くした事故によってできた傷が今も痛々しく残っている。


「嬢ちゃんは今年何歳だ?」


「今年で17だよ。しかも昨日、婚約したばかりなんだ~。」


「それはめでたいなぁ。それにしても、嬢ちゃんとはもう七年の付き合いになるのかぁ。時が過ぎるのは早いねぇ。今頃、あの子も生きていたら嬢ちゃんと同い年になっていたのかもしれないのになぁ…」


老店主の息子夫婦には生まれたばかりの赤子がいたらしい。

助けられた際には見つかっておらず、事故も悲惨だったことから死亡だと判定されている。


「嬢ちゃんはもう、俺の孫みたいなもんだ。」


「そう言ってくれて嬉しいよ。でもお金はちゃんと払うからね」


「いつも代金はいらないって言ってるのになぁ」


「払わないと悪いからね。それが礼儀ってものでしょ」


「ホント。嬢ちゃんはお貴族様っぽくないねぇ。だから気に入ってるんだけど」


「誉め言葉と受け取っておくね。とにかくありがとう。それじゃあね」


そう言ってお店を出た。

さっそく持って帰ってメンテナンスを…と思ったのもつかの間、誰かに口をふさがれた。


「動くな。へへっ、上物のねえちゃんだなぁ。しかも伯爵家のだ。これは高く売れるぞお」


下衆な声から人さらいにだとマテル(本体)は判断した。

幸い、人形の素材を限界まで皮膚に近づけて柔らかさも再現しているので気づかれてはいないようだ。

(そもそも今までよく捕まらなかったよね。完全に油断してたわ)

貴族である以上、こういうことは予測すべきだったと心の中で反省した。

抵抗のないマテルを恐怖で固まっていると思いこれ幸いにとアジトに向かう下衆。

(アジトにも誰かが捕まってるかも…。この際だしアジトを潰して助けなきゃ。)

そう思ったマテルは、下衆のいうことを聞いてアジトへと素直に向かった。


やはりアジトには複数人の女性が捕らわれていた。

誰も彼もが声も出すことも出来ないくらいに怖がっている。

そんなことも気にならないくらいにマテルは驚いていた。

(金髪の髪に、誰もがひかれる綺麗なお顔。この状況を理解していないかのような表情。確かにヒロインは外に出た一発目に人さらいにつかまるけど、まさかここだったなんて)

これではマテル(人形)に備え付けた『対防衛システム:マテルちゃん』が起動できない。

『対防衛システム:マテルちゃん』はもしものためにつけていた戦闘防衛システムで、肉弾戦の戦闘力は某格闘ゲームのようなものだ。必殺技は口からのビームで、これはマテル(本体)の魔力を通じて出せる技だ。

だがこのイベントがないとヒロインはハーレムを作れない。

でも何か危害が加えられるのは避けたい…


「へへっ、まずは嬢ちゃんの味見をッと」


「?」


(まずい!ヒロインに下衆の手が!)


清らかなままでいてほしいヒロインに下衆の手が触れることは嫌だ。

そう思ったマテルは下衆の手を掴んで制止させた。


「んだお前。反抗する気か?」


「この子に触るな」(触っていいのはお前じゃねえんだよ!)


「はっ!女が舐め腐りやがって!」


下衆はマテルの掴んでいる手を放そうと力んだが、ビクともしない。

そりゃそうだ。人形なのだからな。


「は?!お前…」


「アニキ!!誰かがこっちに向かってきてるでゲス!!」


(よっし時間は少し稼げたようだ)


しばらくするとアジトの壁が突き破られ、ヒロインのハーレムを築く男たちが現れた。

この時の男たちはそれぞれ違う目的での共闘でしかなく、初めての遭遇イベントでもあるのだ。

当然、その場にはセオドア様がいらっしゃるわけだけれど。


「貴様らは、近頃若い女性をさらっては売りさばく人攫い共だなあ。この国の王子として、見過ごしてはいけない。」


「なにを!お前ら、やっちまえ!!」


そうマテルに腕を掴まれている親分らしき下衆は、子分下衆に命令した。

子分下衆は命令どうりに、男たちに襲い掛かった。

(原作ならこの親分下衆は王子に倒されるんだよね。このまま掴んでちゃあ出来ないし。でもちょっと私もイラついたから、骨折って腕離そう)

助けに来た男たちと子分下衆の戦いの喧騒の音で、親分下衆の骨を折った痛みの悲鳴はかき消される。


「…」


「え?」(ちょっとどうしたのヒロイン!!)


何故かマテル(人形)の服をつまんで離さないヒロイン。


「もう少しで助けが入りますのでご安心を」(怖いのかな?とにかく落ち着かせないと)


「…」


「…」(何か言ってよ~!このまま掴まれちゃうとこの喧騒中に逃げられないじゃん!)


マテルとしてはセオドアに見つかることも、ハーレムの男たちに見つかることは非常にまずい。

しかしヒロインは一向に服を手放そうとしない。


「オイお前。ここで何をしている、マテル・ドール嬢。」


「セオドア…様…」(やっべぇバレた!)


ついにマテルとセオドアが対面してしまった。

セオドアはこの時、公爵家の騎士団として人攫いの壊滅の使命でここにいるとされている。

マテルは貴族で、護衛もなしにここにいることなど本来あり得ない。

なのでセオドアの疑いの疑問はもっともだ。


「失礼だが、服を掴んでいるそこのお嬢さんは知り合いか?」


「いっ…いえ。ここで出会った子です。」(私の推しで貴方の運命の子です)


「ではなぜ服を掴まれている」


「怖いから…でしょうか?」(それが知っていたらどうにかしてるよ…)


「…。とにかく、騎士団のおきてで家まで送らないといけない。だからついてこい」


そう言ってセオドアはマテルの腕をつかんで引こうとした


ギギッ


喧騒によって舞う埃、そして不十分だった潤滑剤が出来た風圧による乾燥。

それによって人間でない音が出てしまった。


「ん?」


「(あわわわわ!!えっとどうしよう!とりあえず腕を離してもらって何か言い訳をしなきゃ!!!)少し痛いです。力を緩めてください。」


「だが先ほどギギッて音がしたぞ」


「骨が悲鳴を上げているのですよ。」(はよ離してくれ!!!)


「だが今のは」


いつまでたっても腕を話してくれないことと焦りから、マテルは腹パンを食らわす。

勿論人形のでのパンチなので衝撃もそれなりだ。


「ぐっ…。お前…」


「すみません。痛かったもので」(知らんわ!!!すぐ離せ!!!)


「おい!!!アイツ弱ってるぞ!!やっちまえ!!!」


マテル(人形)のパンチでダメージを食らったセオドアを下衆はこれ幸いと狙う。


「(ヤバい!!私のせいだ!!)セオドア様!」


手を伸ばそうとした時、隣で鈴の鳴るような声が聞こえた。


「ヒールウォール」


声とともにセオドアはバリアに包まれた。

声の主の方を見ると、ヒロインが祈りの魔法を使ったようだ。


「えっと、ありがとうございます…?」(なんで?ここで魔法は使わないはずじゃ…)


「いえ、助けてくださったお礼です。」


「そ…うですか。」(原作でもそんなことなかったはずなのに…。あああああああ…、私がいるから原作どうりにならなかったの…?)


ヒロインは少し微笑んでマテルの服を掴みなおした。

(やめてええええ!その笑顔は本来王子に向けるものなの!それでみんなが惚れるっていう重大なものなの!!)


「おい!!大丈夫か!!!」


(今度は何!誰⁉原作に第三者の介入はなかったよね!!??)


その声の主であろう人物を見ると、なんとあの店の老店主だった。


「は⁉キシルさん⁉」(なんでキシルさんがここに!!??)


「外が騒がしいと思って覗いてみたら、嬢ちゃんが人攫いにつかまっててな。他の町民に助けを出すとともに、アジトの場所を探し当てたんだ」


「でもどうやって!?」


「嬢ちゃんの持ってた潤滑油だ。ひび割れてたのか漏れて目印になってたよ。油だし乾きにくいから探すのは簡単だったさ」


「だからって普通来ますか⁉」(それにそんなお客と店主って関係しかないのにこんな危ないところに来てほしくなかった!)


「今日言ったはずだ。あんたはもう孫みたいなもんだとな!」


キシルのその言葉にマテルは心がジーンとなる。

今まで死ぬからとあまり交流を避けていた人間関係に光が注いだ。

キシルさんの救援要請は市場にいた町の大勢の人に届き、人攫いによって行方が分からなくなっていた家族も参加していた。

原作よりも大規模となりそれでいて最短で終わった人攫い壊滅事件は、これにて幕を閉じた。


「これが…平和なの?誰かが、誰かのために動いて助け合うこのことが、平和なのね」


ヒロインはハーレムの男たちを虜にせず、そして平和とは何かをこの事件で全て学べてしまったらしい。

(いやなんで?)

マテルには絶望しかなかった。

原作のあのヒロインの幸せハッピーハーレムエンドを見ることを目標としていたマテルには、自身が原作を壊したことの罪悪感と今までの苦労が何だったのかという二つのものが押し寄せた。


「あの…貴方のお名前は?」


「えっと…」(ここで名前を言うのはまずいかな。どうしようか…)


「その嬢ちゃんの名前は『マテル・ドール 』。伯爵家の令嬢さんだ。」


「ちょっ!!」(何言ってるんですかキシルさん!!!)


「ところで、お嬢さんの名前は?」


「分からない…。皆からは女神様だとか…今まで言われてた…」


(そっか。ヒロインは原作の中で初めて名前が付けられるんだっけ)


キシルさんの困惑顔にマテルはどういうべきか悩んでいた。

王様の罪が分かるのは原作でも後半の方。しかもハーレムの男たちに心を通わせたヒロインが初めて自分の気持ちを伝えるところだ。


「なあ、お嬢さん。俺が付けていいか?」


「?どうして?」


「お前さんが、俺の孫に似ている気がするんだ。その金色の瞳も、サファイアのような瞳も、俺の大切な家族によく似ているんだ…」


(原作を書いた先生はあとがきで確か…『ヒロインはこの後、唯一の血のつながりであるお爺さんと暮らします。』と書かれてたな。もしかすると…)


「その子の名前は、『デヴィ』。女神の祝福があらんことをとつけられた名だ」


「デヴィ…」


その名前はヒロインの心に空いた穴をふさぐかのように暖かく染み渡った。

記憶はないのに、どこか懐かしい。夢なのかは分からないけれど、何度も聞いた名前。

ヒロインの記憶には両親の記憶はないが、体に刻まれていた両親からの名前はヒロインの寂しかったものを埋めるかのようだった。


「(これもヒロインにとっての幸せなのかな…。だとすると原作よりも…)キシルさん。もしかするとこの子はお孫さんかもしれませんよ。」


「何言っとる。孫はもう」


「見つかっていないだけで、生きていないということもありません。それにこの子は赤子のころから幽閉されていますから」(ヒロインの幸せなら、ハーレムじゃなくてもいいのかな。)


「え…なんで知って」


「私は高性能人形です。それくらい感知できます。」(それにゴーレムとかの知能のある魔物がいるこの世界なら、こういう人形がいることも自然だよね。)


マテルは本人があやつているということは隠しつつも、マテル(人形)を意思のある高性能の人形とすることで事態を収めようとした。

これにさらに関わる人物がいる。


「ちょっと待て。お前は人間じゃないのか?」


セオドアだ。

騎士団としての後始末はしつつも、マテルという「一応婚約者であるから」という理由で家まで送ろうとして話を一部始終聞いていたのだ。


「はい。私のこの身はご主人様である『マテル・ドール』様が作られたものです。人間そっくりに作ろうと思われたマテル様は、まずご自身の見た目を模した私を作り上げたのです。誰にも迷惑をかけず、そしてご自身だからわかる部分もありますから。そして試行錯誤の末に完成させられた私は意思を持ち、こうしてマテル様の使用人人形として市場などに買い出しなどを行っています。」(こんな感じの理由でいいよね。これなら私が操ってるって思わないと思うし、私は関係は…まあ作ってるってことで関係はあるか…)


キシルはこの時空気を読んで黙っていた。マテルのこの発言が嘘であることを。


「それではマテル様がお待ちしていますので。」(これで帰れるよね。人形なら見送りとかもいらないから)


「ま…待ってください…」


そう言ってマテル(人形)を止めたのはヒロインだった。


「なんでしょう?」(お願い帰らせて!ボロが出る前に!!)


「そのマテル…様って人にお会いして、お礼が言いたいの」


「どうしてでしょう?」(お礼?マジでなんで本人である私に?!)


「それは…その…」


ヒロインはもじもじキョロキョロと周りを見ながら何も言わない。


「…とりあえず、お前が人形だろうとご主人であるマテル嬢に事情は説明してやらねばならない。」


「いえ、それは私からマテル様にお話しいたしますので結構です」(だって知ってるもん!だって当事者(人形越し)だもん!)


「だとしても、だ。それにオレも直接聞きたいことがある。ついでにこの女性も連れていく。お礼を言われることはいいことだろう。」


「は…はあ…」(んでそうなんだよ!!!あとキシルさん、笑わないでくださいます!!!??)


そうして、セオドアとヒロインとキシルはドール邸に行くこととなった。


========


ドール邸につくとマテル(人形)は来訪の方がいることを伝えてくると言って三人から離れた。

そしてマテル(人形)がマテル(本人)の部屋に入ってくると、


「なんでこうなるの!え?これからどうしよう⁉絶対に会いたくない!!人形二体の操作…いけるかな???」


一か八かだ、と思いマテル(本人)はマテル(人形)の衣装をドレスに着替えさせて、新しく作った人形にメイド服を着させた。


「うっ、やりにくい…。でもこれをするしか…」


対人恐怖症もここまでくればもう病気だろう。

マテル(本人)は二つの人形を三人の待っている部屋まで動かして行かせた。

つたない手つきでマテル(人形)はノックをして入る。


「お待たせして申し訳ありません。帰ってきた人形の手入れをしていたものですので、時間をかけてしまいました」(感情の動機は新しく作った人形にリンクしないようにして…動きもリンクしないようにってめんどくさい!!!)


「気にするな。後ろのその使用人も人形なのか?」


「はい。こちらはまだ試作品ですが、先ほどのお人形のように意思を持つための調整をしている途中なんですよ。」(まだ使わないから人間部分の再現が出来てないんだよ!)


「そうか。それで、君は本体なのか?」


「はい。本体…というのもあれなのですが。とにかく人間のマテルです」


この状況を唯一知る他人であるキシルはプルプルと震えている。(なにわろとんねん)


「ちがう…」


「え」


「貴方はさっきと同じお人形さんで、人間のマテル様じゃない…」


ヒロインが衝撃の一言を言い放つ。


「えっと…何故そう思うのですか~?ほら~、この通り人間ですよ~?」(なんでバレてるの?!)


「でも、魔力の糸がずっと体を操ってる。さっきと同じ。」


「魔力の…糸…?」


「光の魔力は、その人その人の魔力感知が目でも見えるの」


(何それ知らないんだけど!!)

それもそのはず。

マテルが死ぬ前に行っていた店頭販売限定グッズは、作者書下ろしの後日談だったのだ。

帰ってから楽しみに読もうとしていたので読んでいなかったのも当然だ。

その後日談には光の魔力の設定が書かれてあり、『光の魔力は魔力感知に回復防御。さらに攻撃も超一流のチート』と書かれているのだ。


「マテル嬢。どういうことかな?」


「え…えっとぉ…」


「もういい。直接部屋に赴こう」


そう言ってセオドアは部屋から出て行ってしまった。

メイド人形でセオドアを抑えつつ、残ったマテル(人形)でヒロインに問う。


「なんで、私に会いたいと?私はただ、貴方に危害が加わらないようにしただけですよ」


「助けてくれたメイドさんが言ってたの。「この礼は、次に誰かに助けられたときに言いなさい」って。」


(メイドさんんんん!!!貴方そんなこと言ってたの⁉)


小説に書かれていないことがマテルの首を絞めていく。


「それでね、直接お礼を言うのが礼儀でしょ。だから私は直接言いたかったの。ありがとうって」


「で…でも…」


「それにね、私、憧れてたんだ。メイドさんのように誰かに助けてくれた人のことを運命っていうのなら、今度はその運命を私自身で救ってあげたいって」


「わあああ!!!」(それ原作の決戦前のセリフ!!!)


「だからね、私は友達になりたいの。助けてもらったメイドさんのように、私を助けてくれた運命の貴方と」


バンッ

意識はマテル人形の方に集中していて、メイド人形にあまり意識が向いていなかったマテル(本人)の部屋が、大きな音を立てて開かれた。

あまり意識が向けられていなかったメイド人形の力では止められなかったらしい。


「やっと対面で来たぞ、マテル嬢。さあ、話してもらおうか。何処からどこまでが本当の君なのかをな」


青筋がうっすらと見える無表情にマテル(本人)は小さく悲鳴を上げる。

ついに対面で会ってしまった二人。

そして友達になりたいというヒロインと、もう笑うことを我慢できないキシル。

お飾りの妻という人形は、原作と違ってしまった今どうなってしまうのか。

その先を唯一知るのは、その場に残されたマテル人形ただ一人のみ。

読んでいただきありがとうございます。

感想や誤字の指摘などがあれば遠慮なく書いていただけますと幸いです。


現在細々と書いてある小説です。

『尋ね人の東日録』

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