K 微笑
夢の覚め際に誰かが囁いたような気がした。あるいは助けを呼ぶ叫びだったか。
宿命と感応していたとでも言うのか、嫌な予感は見事に当たっていた。走った青年が目的地にたどり着いて見たものは、項垂れるように床に伏せる妹たちの姿であった。体の支えを失ったように弱いのに、冷え固まっているようにも見えた。
(死んでいる?)
この思い込みはある種、杞憂ではあった。妹たちの脈を確認したためだ。しかし、呼びかけにも応じる様子はなく、揺すり動かしてもふたりの意識は戻ることがなかった。ふたりは昏睡状態に陥っていた。
(なぜだ、なぜだ! なぜだ!)
思い当たる節はひとつのみ。
「お前か…………」
その時、ふわりと背後に降りる気配があった。
振り向くと、世界は暗闇と化した。帳が落ちたように、認識が切り替わる。
「ああそうさ」
紅の唇が闇に浮かぶ。
「お前が勿体ぶって、いつまでも殺さないからだ」
「やはりお前の仕業だったわけか」
「だったらなんだと」
「お前を殺して、奪い返すまでだ」
「できるのか、お前のような臆病者に」
「できるとも」
「あぁ、そう」
笑んだ女の口元が、闇夜に浮かぶ琉金の、尾ひれの如く鮮やかで。ふわりと着物が揺れたと思えば、宙を蹴るように高く飛ぶ。
「どこへいく?」
空を蹴り、舞いながら、女は告げる。闇を掻き回し、青年を混沌へ引きずり落としながら。
「あの子らの、様子を見になぁ」
「これ以上……手を出すんじゃないぞ」
「いいぞいいぞ愛おしいか。それならば、お前から奪った時の喜びが増すというものだ」
高笑いを続けながら女は飛び去った。暗闇の底は抜けて、青年は落ち行くばかり。これが蛆の見ている夢ならば、どれほど幸福であることか。




