表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大地への帰還  作者: 桐生真之
38/56

K 微笑

 夢の覚め際に誰かが囁いたような気がした。あるいは助けを呼ぶ叫びだったか。

 宿命と感応していたとでも言うのか、嫌な予感は見事に当たっていた。走った青年が目的地にたどり着いて見たものは、項垂れるように床に伏せる妹たちの姿であった。体の支えを失ったように弱いのに、冷え固まっているようにも見えた。

(死んでいる?)

 この思い込みはある種、杞憂ではあった。妹たちの脈を確認したためだ。しかし、呼びかけにも応じる様子はなく、揺すり動かしてもふたりの意識は戻ることがなかった。ふたりは昏睡状態に陥っていた。

(なぜだ、なぜだ! なぜだ!)

 思い当たる節はひとつのみ。

「お前か…………」

 その時、ふわりと背後に降りる気配があった。

 振り向くと、世界は暗闇と化した。帳が落ちたように、認識が切り替わる。

「ああそうさ」

 紅の唇が闇に浮かぶ。

「お前が勿体ぶって、いつまでも殺さないからだ」

「やはりお前の仕業だったわけか」

「だったらなんだと」

「お前を殺して、奪い返すまでだ」

「できるのか、お前のような臆病者に」

「できるとも」

「あぁ、そう」

 笑んだ女の口元が、闇夜に浮かぶ琉金の、尾ひれの如く鮮やかで。ふわりと着物が揺れたと思えば、宙を蹴るように高く飛ぶ。

「どこへいく?」

 空を蹴り、舞いながら、女は告げる。闇を掻き回し、青年を混沌へ引きずり落としながら。

「あの子らの、様子を見になぁ」

「これ以上……手を出すんじゃないぞ」

「いいぞいいぞ愛おしいか。それならば、お前から奪った時の喜びが増すというものだ」

 高笑いを続けながら女は飛び去った。暗闇の底は抜けて、青年は落ち行くばかり。これが蛆の見ている夢ならば、どれほど幸福であることか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ