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六年目(一)




 夏を止められなかった。終わらないその暑さに、誰もが夏の拡がりを理解した。九月に突入してもなお夜は蒸し暑く、輝く星たちは変わっていくのに、夏という季節は終わらなかった。

 彼と出会って六年目の年だった。


 十二月上旬。やっと各地に運ばれ始めた寒さは曖昧なラインの上にいた。

 今年が秋という季節の最期になるのだとわかった。秋の始まりから終わりまでの間が、恐ろしいほどの速さで短くなっていることがわかっていた。

 昨年の秋の終わり、彼は何も言わなかった。約束の日がすぐそばまで来ていることを嫌でも思い知らされた。

 この時期には大好きな季節で彩られているはずのこの場所が、夏から姿をほぼ変えずにいることに,

自分は無力感を溜めこませた。



 遠くに見え始めているバス停には誰もいない。

 この時期には着ているはずのコートはクローゼットにかかったままである。寒くなってきた頃に必ず私の首に巻かれていた赤いマフラーは、結局彼にあげてしまった。あの日以来必ず現れるときにその赤いマフラーを巻いて来る彼の姿を思い浮かべて、笑みがこぼれた。




 肌に当たる風の冷たさはひどく柔らかで、風で揺れる葉たちは緑と薄い茶のグラデーションで色づいていた。悩みに悩んでやっと一枚の葉が枝からゆらりと落ちた。

 バス停には、この曖昧な季節に赤いマフラーを巻いて、いつもと変わらないコートを着ている彼が立っていた。

 吐く息が白くならないで欲しいと願った。







「やぁ」


 聞き慣れた声は明るく、重たかった。

 彼は目の前にいて、私にぎこちない微笑みを向けていた。


「君の一日を僕にくれない?」


 彼の言葉に心臓が握り潰される。

 わかっていたことなのに、知っていたはずなのに、その日が来ると覚悟していたのに、今にも私の線を引き裂こうとして勢いを止めないものがあった。

 どうにかして溢れさせまいと私は「うん」と返事をした。

 秋という季節が詰め込まれたこの一日を彼と過ごすのは、これが最初で最後だった。




 バス停には誰もいなくなった。その時間に、その空間に、その景色にいるのは、寂しく佇む時刻表と定刻通りに到着したバスだけだった。







 

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