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消えゆく光の中で〜星のような大切な君〜  作者: 春風りんご


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7、揺れる信念




 1週間後の朝、秋斗と相沢は再び八代グループへと向かっていた。2人が提出した提案の結果を聞くための訪問である。

 前回と同じ時間、同じタクシー会社、同じ道を通るにもかかわらず、その車内には前回と異なる緊張感が漂っていた。


「片桐先輩……どう思いますか?通っているでしょうか?」

「正直なところ分からない。でも、やれるだけのことはやったと思う。それだけは胸を張れるんじゃないか?」


 そう言いながらも、秋斗の胸の奥には不安が広がっていた。提案内容には自信があったが、相手企業の判断基準は自分たちの手の届かないところにある。

 タクシーが八代グループのビルに近づくにつれ、鼓動が徐々に速くなるのを感じた。 到着後、受付で名前を告げ、案内係に前回と同じ会議室へと通される。

 重厚なドアが静かに閉まる音がやけに耳に残った。


「相沢、大丈夫か?」

「は、はい!なんとか……」


 互いにスーツの襟を正していると、ドアが開き、前回と同じ八代グループの責任者が入ってきた。だが、その表情は明らかに重たく申し訳なさそうな色が浮かんでいる。


(なんだか嫌な予感がする……)



「西園寺グループの片桐さん、相沢さん、改めまして本日はお越しいただきありがとうございます。あの、先に結論から申し上げますと……、今回の企画は採用を見送らせていただく形となりました」


 一瞬、時間が止まったように感じた。言葉の意味を理解するまで、秋斗は呆然と責任者の顔を見つめていた。

 相沢は「え……」と呟いたきり、固まってしまっている。



「あの……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?何が問題だったのか、改善の余地があればぜひ知りたいのですが」


 冷静さを保とうと努めながら秋斗はそう切り出した。 責任者は申し訳なさそうな表情をさらに深くしながら、手元にある資料に目を向けて、丁寧に理由を説明し始める。


「ご提案自体は非常に興味深い部分がありました。ただ、最終判断は副社長によるものでして……現在の方針とは一部合致しない点があったのが主な理由です」

「副社長……」


 副社長、という言葉に秋斗の胸がざわめいた。相沢も同様に顔を曇らせていたが、秋斗はその感情を抑え込み、さらに踏み込んだ言葉を投げかける。


「副社長が……最終判断を、ですか?」

「ええ、社内でかなりの議論を重ねた結果ではありますが、最終的には彼の判断で決まったんです。ですが……」



 責任者は言い淀みながら続けた。


「ですが内容の修正を行えば、再提案の余地があるかもしれません」


 秋斗は食い下がるように問いかけた。


「それは本当ですか!?是非、再提案の方をさせて頂けないでしょうか?どのように修正を加えれば良いか、具体的なご指摘をいただければ次回までに改善して参ります」


  責任者は秋斗の勢いに少しばかり驚いてはいたが、直ぐに頷いてくれた。


「はい、もちろんです。可能な限り我々もお手伝いさせていただきます」


 秋斗は頭を下げ、責任者に感謝の意を述べる。


 その後会議室を出たあと、その場では何とか平静を保ってはいたが、内心は相当ショックだったのだろう。相沢の落ち込んだ様子が目に入る。





 八代グループを後にした帰り道、相沢は平気そうな振りをしながらも、肩を落としては時々黙り込んでいた。


「片桐先輩……僕が足を引っ張ってしまったせいで申し訳ありません」

「そんなことないよ。相沢、お前はよくやった。今回の結果は俺たちの力不足だった。それだけだ」


 秋斗は相沢の落ち込む姿にかけるべき言葉を選びながらも、自分の胸にも悔しさが突き刺さっている。

 だが、これで終わった訳ではない。


「でも、まだ終わりじゃないぞ。2週間。2週間後に必ず巻き返すんだ。次は絶対に通すぞ!!」

「はい……!」




✳✳✳


 自社に戻り課長への報告を行う。


 そうかぁ、と肩を落としてはいたが、再提案をさせて貰えると話をした時には穏やかな表情に戻っていた。


「次こそは必ず通すぞ!何かあれば私のことも頼ってくれ」


「課長…!はい、ありがとうございます」

「ありがとうございます!!」


 2人でお礼を伝え、デスクに戻り直ぐに修正案を作成していく。

 あーでもないこーでもない、と作成するのは大変ではあるが、これもやりがいのある瞬間だ。




✳✳✳


 その日から2週間後、修正を終えた秋斗と相沢は再び八代グループを訪れた。

 前回と同じく玄関近くで停車してもらう。タクシーを降りると秋斗はふと、玄関前に止まる黒い車に目を奪われてしまった。

 その様子に「っえ?先輩?」と心配そうに声を掛けた相沢も、秋斗が目を奪われている場所に視線を向けて、納得したように再び声を掛けてきた。


「うわぁ〜すごいですね、先輩。あの車に乗ってる人って絶対ただ者じゃないですよね?」

「…そうだな 」


 玄関前に止まっている黒の車。

 リムジンのドアが静かに開き、そこから降りてきたのは――なんと、城山夏希だったのだ。


 その瞬間、周囲の空気がピリついた気がした。まるで彼の存在そのものが重厚な威圧感を生み出しているように感じたのだ。


 城山は漆黒のスーツに身を包み、顔にはいつも見る丸ぶちの眼鏡をかけている。そして、嫌でも目立つその金髪が朝日の中で鈍く光っていた。

 秋斗の脳内には一瞬にして様々な疑問が押し寄せてくる。


(どういうことだ?……城山が、こんなところで……、リムジンに乗っていた?それにこの雰囲気……)


 普段の、いつもバーで見る城山とはまるで別人のようだった。周囲には一切の隙を見せず、誰も寄せ付けない冷たい雰囲気を纏った姿。…その姿に思わず背筋が凍りいてしまった。

 いや、城山と出会った当初はそうだったかもしれない。だが今見た姿とは少し違う冷たい雰囲気だ。



 リムジンから降りた城山は、誰にも目を向けることなく悠然と建物の中へ消えていく。


(城山って営業部担当……だよな?じゃあ、あの態度は……?っていうか、営業の人間が高級車なんかに乗るか?)


 秋斗は混乱していた。だが、今はそれを考えている場合ではない。とにかく目の前のことに集中しなければならないのだ。

 湧き上がる疑念を胸の奥に押し込め、相沢に声をかける。


「相沢、いつまでもぼーっとしてないで行くぞ。今度こそ、必ず結果を出そう」

「はい……!」


 相沢も気を取り直し、二人はエントランスを抜けて八代グループの会議室へと向かう。




(城山……一体、お前は何者なんだよ)


 今は集中しなければならない。だが、秋斗の心の中では、その問いだけがいつまでもくすぶり続けていたのだった。




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