6、挑戦の朝
2週間前、課長から告げられた八代グループへの営業案件。それは西園寺グループの営業部にとっても重要なプロジェクトだった。
秋斗と相沢は時間を惜しむように提案内容の準備に没頭していた。絶対に企画内容を通して見せる!その気持ちだけを胸にして。
相沢は慣れない仕事に戸惑いを見せながらも、持ち前の素直さと努力で懸命に食らいついく。秋斗はそんな後輩を根気強く支え、データの整理や資料作成を手伝いながら、一緒に内容を詰めていった。
「ここは数値をもう少し具体的に示したほうが説得力が増しそうだな。例えば、去年の市場動向を引き合いに出してみるとかどうだろう?」
「先輩、それいいですね!じゃあ、このスライドに追加してみます!」
長時間の打ち合わせを繰り返し、何度も資料を修正しながら、彼らは八代グループの課題に適した提案を作り上げていった。その過程で相沢の成長も目に見える形で現れてきたのだ。
「相沢、いいぞ。このデータの視点は独創的だし、プレゼンの流れも説得力がある。これなら通る可能性が高いと思うよ!」
「本当ですか?!ありがとうございます!片桐先輩と一緒にやれて本当に勉強になります!」
そうして迎えた来社当日、二人の資料は完璧に仕上がっていた。
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八代グループへの訪問は朝10時。
秋斗と相沢はいつもより早めに出社し、最終確認を終えてからタクシーに乗り込んだ。タクシーの中で、緊張が隠せない相沢が隣でそわそわと落ち着きなくしている。
「先輩……、どうしましょう。僕、緊張しすぎて頭が真っ白です……」
「大丈夫だよ、相沢。お前はこの2週間で本当に頑張った。自信を持て。もし何かあっても、俺がカバーするから安心しろ」
な!と言い、 秋斗は笑顔で相沢の肩を軽く叩く。その一言に少しホッとしたのか、相沢も小さく笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます……先輩がいてくれて心強いです!」
タクシーに乗ること約30分。遂に八代グループ本社へと到着した。
ビルのエントランスは広々としており、洗練された雰囲気が漂っている。受付で名前を告げると、笑顔で案内係の方が対応してくれ、二人を会議室へと通してくれた。
「こちらでお待ちください。担当の者がすぐに参ります」
会議室の中はシンプルでありながら、上質な家具や備品が揃い、八代グループの威厳を感じさせる空間だった。
秋斗はスーツの襟を正しながら静かに呼吸を整える。相沢は緊張を隠せず、手元の資料を何度も見返していた。
「相沢、リラックスしろ。緊張するときは深呼吸だ」
「はっはい、ありがとうございます」
しばらくすると、両扉のドアが開き営業部の責任者と思われる男性が現れた。40代半ばほどの紳士で、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「西園寺グループの片桐さんと相沢さんですね。お待ちしておりました。本日はどうぞ、よろしくお願いします
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「よっ、よろしくお願いします」
挨拶を交わした後、互いに責任者と名刺交換を行う。
(さぁ、ここからが本番だ。ここではミスできないし、相沢の努力を無駄にするわけにはいかない。何よりも自分たちの可能性を証明しなければならない――)
秋斗は息を大きく吸い、呼吸を整える。
そして、秋斗は用意した資料をもとに、八代グループに向けた提案内容を丁寧に説明を行っていく。
プロジェクターに映し出されているスライドを中心に、そして時折事前に用意していた台本に無いことも交えながら話を進めていく。
後輩の相沢も緊張していたが、一部を補足しながらも持ち前の誠実さを発揮していた。
「こちらのデータをご覧ください。この新しいシステムの導入により、御社の課題を効率的に解消するだけでなく、具体的には運用コストを20%削減し、今後3年間で利益率を10%向上させる可能性があります」
営業部の責任者は時折頷きながらも話を聞き、そして的確な質問を投げかけてくる。
そのたびに秋斗は一瞬ドキッとするが落ち着いて冷静に答え、相沢も自分なりの考えを述べていた。緊張感漂う中でも二人のチームワークは徐々に強まっていく。
あれから時が過ぎお昼前、プレゼンが一通り終わると、責任者は資料を見直しながら話をまとめていく。
「非常に興味深い提案でした。これは我々が抱える課題の核心を突いた内容だと思います。詳細をさらに検討し、1週間後に改めてご連絡させていただきます」
「ありがとうございます。ぜひご検討のほど、よろしくお願いいたします」
丁寧に挨拶を交わしてから、二人は会議室を後にした。
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八代グループの会社を出た後、近くのカフェに入り、軽く昼食を取りながら今日のことを振り返りを行なう。
「片桐先輩、今日は本当にありがとうございました!初めての大仕事で緊張しましたけど、何とかやり切れました!」
「相沢、お前はよく頑張ったよ。初日にしてはなかなかいい出来だったと思う。大丈夫、自信を持って」
秋斗はコーヒーを一口飲みながら、穏やかに笑った。その笑顔に、相沢も嬉しそうに頷いたのだ。
「ありがとうございます!1週間後の再訪問に向けて、さらに準備を頑張ります!」
「そうだね。次も気を抜かずにいこう」
「はい!」
昼食を取り終わった後は、今日の成果を報告するべく西園寺グループの社内へと戻った。
課長にいい反応を得られたことを伝えると、良くやったと褒められ、特に相沢は嬉しそうな笑みを零していた。
今は努力の結晶はまだ結果には繋がってはいないが、確かな一歩を踏み出したと感じる。次回の打ち合わせに向けて、さらに内容を詰め直す必要があるが、今日の成果は確実に次への自信へと繋がっていくはずだ。
報告後、二人はでそれぞれのデスクに行き椅子に腰を下ろす。
八代グループの他にも仕事がある為、ノートパソコンを開き仕事を再開させるのだった。
こうして初日は無事に終わりを迎えらたことにとても安堵していた。だが、八代グループとのやり取りは、この瞬間から秋斗と相沢の運命を大きく左右する重要な局面を迎えることになる――。




