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第九章


米良が待っている部屋へ入る。


そこは六畳ほどのスペースの狭い部屋で、米良はソファに腰かけていた。


「座れよ」とアゴで指示され、私と田権さんは、部屋の中央にあるテーブルを挟んだ向かい側のソファに腰かけた。


しばらくの沈黙、うつ向いているから分からないけど、恐らく米良は私の体を舐め回すように見ているんだろう。

そして、たぶん、田権さんは部屋から出される。


「おい、チビの方」

ほら来た!


「お前、魔女だろ?」


ん? 魔女? 


顔を上げた。 米良の目は私ではなく田権さんに向けられている。


田権さんを見てみるとその顔には気味の悪い笑みが張り付いていた。


「どうなんでしょう?」


「とぼけても無駄だ。俺には魔女を見つける能力がある」


米良の瞳の奥が黄色く光っていた。


「詳しく言うと、俺は魔力の素、魔素を見ることができる。チビ、お前の周りにエグいほどの魔素が漂ってるぞ」


「へえ。見えてるんですか? 凄いですね」


田権さんは、否定しない。

と言うことは、…米良の言うように田権さんは魔女? 

この時代に魔女? 

そもそも魔女なんて実在するの? 

ファンタジーの中の存在でしょ? 


けれど、魔女の存在を認めてしまえば、昼間の笹原たちの爪の事が納得できてしまう。だったらやはり田権さんは…。


「あなたが言うように私は魔女です。ですがそれが何か?」


「何か、だと? 今、この時期、この街に魔女がいる。それが問題なんだ。お前はいつからなんの目的でこの街にいる?」


「はぁ。一昨日から家族の都合で引っ越してきました」


「それを信じろと言うのか?」


「だったら他になんと言えば?」


米良は何を言いたいんだろう? 

高校生が引っ越す理由なんて九割以上が家族の都合だろう。

それとも魔女は違うの? って言うか魔女って何? 


定義がわからない。魔力を持って生まれてきた人間なのか? 

それとも妖怪の類いなのか? 

他にも違う定義があるのか? 

と言うかそんなものが本当に実在するのか?


「ちっ。まあいい。とにかくお前がこの時期にこの街にいることは許されない。六月まで他所よそに行ってろ」


「六月まで? そんなに休んだら授業に出られず単位を落とすかもしれません」


「命を落とすより良いだろ?」

米良は両足をテーブルの上に打ち付けるように乗せて、驚いた私は大きく体をビクつかせた。


「それに、お前は魔女だ。人間社会に溶け込まなくてもやって行けんだろ」


「あなた、えーと、名前は?」


「米良だ」


「あなたが米良さんですか。では、米良さん、あなたはどなたからその力を授かったのですか?」

授かった? 魔素とやらを見る能力は米良の天性の物じゃない?


「別に知る必要もないだろ?」


「理由も教えてもらえないんですか?」


「理由ぐらいなら別にいいぜ。お前みたいにこの街へ来る魔女を見つけるためだ。そして追い出すように言われている」


「そうですか。それで能力をいくつか持たされたわけですね?」

田権さんの言葉で米良の顔が強ばった。


「二つもらいました? 三つですか? それとも四つ? まさか五つも?」


「言うわけねーだろ。クソチビが」


「あなたも男性としては言うほど大きくはないと思うのですが?」

米良のこめかみに青筋がハッキリと浮かんだ。

田権さんにはこう言うところがある。

故意なのか無意識なのか、相手の神経を逆撫でする一言をカウンター気味に発する。


「ケンカ売ってる?」


「まさか。あなたを怒らせて私に得はありません。ひっそりと生きていくのがほとんどの魔女の生きる指針ですから」


「なら俺の言う通りにしろよ」


「はい。六月までで良いんですか?」


「ああ」


「わかりました」

田権さんが立ち上がり、部屋の入り口へ向かう。私も慌てて立って米良におじぎすると早足で後に続いた。



カラオケの部屋から出ると、不良連中がこちらに注目した。その刺すような視線に耐えながら進む。すると私たちの前に二人が立ちはだかった。


「てめえら! ここで何してんだよ!」

笹原と浦木だった。 やっぱりこの二人もここの住人だったのか。


「何を叫んでんだ?」

後ろから米良がだるそうにやってきた。


「米良くん! このゴミブス、やっちまってくんない? 私たちのこの手を見てよ! このチビに小指の爪をはがされたんだよ! 病院にまで行くはめになったんだから!」


二人は包帯の巻かれた手を高々と上げて周りにアピールする。

するとただでさえ険しかった不良たちの目がますます険しくなっていく。


この大人数に襲われるのを想像して私の膝はガクガクと震える。


「やめとけ」

言ったのは米良だった。


「でも米良くん! こいつらは私たちをナメてんだよ!」


「ナメられるだけで済んで良かったじゃねぇか。首が胴体と離れんのとどっちがマシだ?ああ?」


私の背後にいる米良がどんな顔をしてるのか? 

それは笹原と浦木の青い顔を見ればわかる。


けれど、米良が私たちに危害を加える意思がないのは確かで、逃げるなら気の変わらない今のうちしかない。


私は「失礼しまーす。おほほほほ」と情けなく愛想笑いをし、

頭を下げながら田権さんの背中を押すと、

さようならあの頃のお父さん、お母さん、さようならあの頃の私、

と頭で考えながら、

魔の巣窟と化してしまった思い出の黄金都市・エンジョイランドから猛ダッシュで脱出したのだった。



面白い、続きが読みたい、

面白くなくても読んでやろうという心の優しい方、

哀れな作家を助けると思って是非とも登録や評価をお願いします!

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