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第三章

普通、転校生がやってきたとなると、クラスの中に好奇心が抑えられない生徒が何人かいて、

休み時間になる度に転校生への接触を図るものだけど、田権エイリの元には誰もやってこなかった。


気にしていないわけじゃない。

クラスの誰もが遠巻きに田権エイミへチラチラと視線をやっているのはわかる。

ただ田権エイミの異様な風貌が他者を寄せ付けなかった。


隣の席にいる私でさえもなんとか視界に入れないようにとずっと窓の外へ目をやっていた。

それでもふとした拍子に気になってチラ見はしてしまうんだけど。


そうやって、二時間目、三時間目と過ぎ、四時間目が終わった後、

私も田権エイミも誰とも話をせず持ってきていたお弁当に静かに口を付けていた。


「おっじゃましまーす!」

教室に響き渡る声で私の箸は止まる。


心臓がドキドキと音を立て始めた。


「倉府ちゃーん。休み時間になる度に待ってたんだけどー」

笹原と浦木だった。

賑やかだった教室のトーンも急に下がった。


「しゃべってて、しゃべってて。私たちが用があるのは倉府ちゃんだから」


二人は私のところへやってきて、笹原が私の前に立ち、

浦木が私の隣の席、田権エイリの机に腰かけた。


「おいおい倉府。ご飯食べてる暇があったら、昨日の約束守れよ。意地汚い奴だな~」

笹原は指で私の机をトントン叩きながら「ほら、三万出しな」と急かす。


「え?昨日は二万って」

財布から二万円を取り出すと笹原は引ったくるようにお金を奪った。


「持ってくるのがおせーから迷惑料が発生したんだよ!」


「そ、そんな。ほ、放課後に渡そうと思ってたから二万しかないよ」


「じゃあ、残りの一万は明日な」


笹原は私の弁当箱からウインナーをつまむと口に運んだ。


「無理だよ。今日持ってきた二万でもう私の貯金はないから」

これ以上は絶対に無理。

すると隣の席に腰かけていた浦木が私の机を蹴った。

弁当が滑って床へと落ちる。


「そんなの知ったことかよ! お前がのろいのが悪いんだろ! 昨日みたいに泣かしてやろうか?」

教室中に聞こえる大声。

それでも誰も助けようとはしない。


賢い連中だ。くだらない正義感で首を突っ込むバカは、始業式の日の私ぐらいか。


すっかりと静まり返った教室で私の体は震えだした。恐ろしくて恐ろしくてたまらない。



「あのぅ」

静寂を破ったのは田権エイリだった。


「あ?」と浦木が振り替える。


「私の机からお尻をおろしてもらえませんか?」


「何?」


「スペースが狭くなって弁当を食べづらいので」


「なんだ?こいつ」

笹原と浦木の厳しい目が田権エイリに向いた。

が、すぐにその顔には笑みが張り付く。


「うわっ! キッショい顔!」


「マジかよ? こんなクリーチャー、この学校にいたか?」

二人は田権エイリの容姿をいじると机をドンと叩いた。


「おい、ここは人間の学校なんだよ。モンスターは魔王の城へ帰れよな」

笹原が大笑いして言う。


田権エイリはどんな表情なんだろう? 

顔をおおう長い髪で見えなかった。


「私は人間に見えませんか?」


「はははは。つーか毎日鏡を見てる自分が一番よくわかってんだろ? 化け物だよ、おめーはよ! はははは」

その時、窓から少し強めの風が吹いて田権エイリの髪が横に流れ、その顔があらわになった。


「わかる人にはわかっちゃいますかねぇぇ? 必死に隠しているんですけど。キヒヒヒヒ」


田権エイリの目。

白目に浮かぶ無数の毛細血管。普通は赤のはず。

なのに、田権エイリのは…青だった。


その異様な目で見上げられた笹原と浦木は表情を強ばらせ黙り混んだ。

しかし、周りの目を思い出したのか、ひきつりながらも笑顔を作る。


「お前、名前は?」


「田権エイリです」


「田権、お前は私たちの事を知らないようだな?」


「はい。今日、転校してきたので」


「だったら教えておかなきゃな。この学校じゃ私たちに逆らうと絶対に後悔すんだ」


「わかりました。では逆らいません」


「ふーん。物わかり良いね。じゃあ許してやるよ。ただし、一万払ったらな」


「一万円も持っていませんけど」


「だったら作れ。もし払えないって言うなら、死にたいって思うほどに追い詰めてやるよ」

笹原の言葉に嘘はない。

ここ数週間、私は何度もそう思っている。


なのに田権エイリは「キヒヒヒヒ」と笑い、「あなたたちに出来るんですか? 私に死にたいと思わせることが?」とあの不気味な目を見せた。


だが田権エイリは知らないんだ。本当に恐ろしいのはこいつらじゃなく。その後ろにいる米良和馬だってことを。


「このチビ、マジでむかつくな」

浦木は吐き捨てて私を見た。


「倉府。明日持ってくるの二万な」


「ど、どうして?」


わけがわからない。


「このチビの分もお前からもらう」


「え?、なんで私が?」


「嫌ならこいつからもらえばいいだろ?」


「そ、そんな!」


「こんなブサイクチビじゃ男相手に金稼げねーじゃん。だから今度からこいつが私たちをムカつかせる度にお前に金を請求するからな」


「無理だよ」


「無理じゃねーよ。体を売りゃ楽に稼げんだろバカ。そんじゃ、とりあえず明日、二万な。作れないなら親の財布からでも抜いてこい」

そう言い残すと笹原と浦木は出ていった。


教室のみんなは哀れみの目を何度か私へ向けるも、

すぐにそれぞれの会話に戻った。


私は泣き出したいのを堪えて田権エイリへ話しかける。


「田権さん、…一万円出してくれない?」


「なんでですか?」


「だって、田権さんのせいでもあるんだよ?」


「関係ありませんよ」


「関係なくないよ。あいつらの機嫌を損ねてたじゃん。あいつらの裏には米良和馬って言うこの街で最もヤバい男がいるんだよ。もしそいつが出てきたら何されるかわからないよ」


「だったらその男がいなくなったら、あのお二人はどうなるんですかね? キヒヒヒヒ」

田権エイリの大きく見開いた両目が私をとらえた。

私は思わず息をのむ。


笹原と浦木は、田権エイリを化け物と言い放った。


こういうのは人として持ってはいけない考えなのだろうけど、


その時ばかりはその言葉がピッタリと当てはまるような気がしたんだ。


面白い、続きが読みたい、


面白くなくても読んでやろうという心の優しい方、


哀れな作家を助けると思って是非とも登録や評価をお願いします!

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