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第十四章


大都会ほどではないにしろ、通勤通学時間にはそこそこ混雑する朝の駅の構内。

昨夜、ゲームをなかなか止められなくて寝るのが遅くなってしまった私は、周りの目も気にせず大きく口を開けてあくびした。


まったくもって気が緩んでしまっている。

笹原たちから完全に解放されて何日か経ったんだから当然と言えば当然だ。


これが普通の女子高生ライフなんだろうな。


電車が来るまでまだ時間があるので構内のコンビニで眠気覚ましの栄養ドリンクを買う。

これも普通の女子高生ライフなんだろうな。と考えるも、いやいや中年サラリーマンライフじゃないかと思い直す。

だが背に腹は変えられないので、フタを開けた栄養ドリンクをグビッと一気に飲み干した。


飲んで数秒後、うーん、なんだか効いてきた気がする。

体が熱くなって脳が覚醒してきた。「うおおおー!」と叫びたくなる。


「てめえどこ見て歩いてんだよ!」

怒鳴り声に驚いて辺りの様子をうかがった。


街の宣伝ポスターの張られた壁の所でヨレヨレのスーツを着た小柄なおじさんが、米良の手下にいたような筋肉バカに絡まれていた。


気づかないわけがないのに周りの人は見えていないかのように装ってその横を通りすぎる。


子供たちや学生たちはまだわかる。

けれど大人たちも同じだ。

信じられない光景だけど信じられなくもない。

みんな自分に災難が降りかかるのを怖れているんだろう。


結局、これが真理なんだ。

子供の頃、仲間を助け、どんな巨悪にだろうと立ち向かう正義のヒーローこそが人のあるべき姿だと漫画やドラマや映画で洗脳されてきたわけだけど、

よくよく考えてみると、そういう作品に登場するモブキャラのほとんどが弱くてずる賢く、他人に関心を持たない人ばかりだった。


つまり、世の中はそう言う人ばかりだと、そして作品の主人公やその周りの人たちこそが稀な人種なんだと、そう受けとるべきだったわけだ。


「あの人たちケンカしてるの?」

下から声をかけられた。

目をやると小学生の低学年らしき少女が、小柄なおじさんと筋肉バカのやり取りを見ている。


「ど、どうなんだろうね?」

しどろもどろになりながらも笑顔を作って答えると少女が私を見上げた。


金髪の長く柔らかそうな髪、大きな緑色の目に長いまつげ、透けるような白い肌を持つ外国の血の美少女だった。

流ちょうな日本語を話すということは日本で生まれて育ったのかな?


「おじさんがイジメられてる見たい。なんだか可哀想」

うう。純粋な心。

けどね、世の中は綺麗じゃないんだよ。


「なんで誰も助けてあげないの?」


「え?ん?それは、そのぉ…。…ほら、私たちはこの瞬間しか見てないでしょ?だからどっちが悪いかが分からないから、口を出せないんだよ」


我ながら良い理にかなった言葉を返せた、と満足していると、筋肉バカがおじさんの胸ぐらをつかんで壁に押し付けた。


「あれでも放っておくの?」


「うーん。そろそろ誰かが警察を呼んでくれるんじゃないかな?」


「警察が来るまで、おじさんが無事でいられるかな?」

子供は質問が多い!ずーっと質問攻め!うんざりだ。


「人間って醜い」

少女はそう言うと、もめてる二人の方へと歩き出した。

呆気あっけにとられていた私だったが、すぐに追って手を取る。


「近づいちゃダメ。危ないよ」


「どうして止めるの?」


「あなたがケガするかも知れないじゃん」


「じゃあ、あのおじさんはケガしてもいいの?」


「あー!もう!クエスチョンガールはここにいなさい!」

私は面倒くさいことになったと思いつつも少女を残してもめてる二人に近づく。


「すみません!」

声をかけると今にも小柄なおじさんを殴ろうと腕を上げていた筋肉バカの目がこちらを見た。

せっかく平穏がやって来たのにまたこんな目を見なきゃならないなんて、ひょっとして私は修羅の道を歩く運命の下に生まれてきたんじゃないか?


「なんだよ?」


「あ、あのー。さっき、誰かが警察を呼んでましたよ。もうすぐ来るかもしれないんでここから離れた方が良いかも…なーんて」


相手を刺激しないように媚びへつらうような笑みで言ってみた。

が、帰ってきた言葉は「知るかよ!てめえも殴ってやろうか!」だった。


私はすかさず周りの人を見る。

しかしやはり誰もが目をそらし、視線を下に落として、足早に先を急ぐ。


「マイナス百ポイント」

少女が後ろに立っていた。


「どいつもこいつもクズばかり。こんなのが我が物顔で地球を闊歩するとか吐き気がする。おえー」

可愛い少女の小さな口から出る言葉とは思えなかった。


「あなたは別のようね」


少女の左手には杖が持たれていた。まさか、この子、魔女?


「ハガレ、シルナーボ」

少女が呟いて杖を振った。


「おおぁっ!」


一瞬のダミ声。少女の視線の先を追う。筋肉バカが床に倒れていた。


「今はまだ目立てないからなぁ。本当なら、ここにいる連中全てを豚に変えてやりたいぐらい」

少女は私を見上げてウインクすると「また会おうね」と手を握ってきた。


とても熱い手で驚き、振り払うように離すと、そんな私に手を振って去っていった。


「な、なんだ?これぇ?」

筋肉バカの体はまるで骨のない軟体動物のようにぐにゃぐにゃに曲がっている。


その表情を見ると、必死に体を起こそうとしてるみたいだ。

けれど体に全く力が入らないようで、もぞもぞとしか動けない。

するとそれをチャンスと見た小柄なおじさんは、さっさと行ってしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

体がぐにゃぐにゃになった男に聞いてみた。


「おい!俺の体、変なんだよ!どうなってんだよ?」と震えた声が返ってきた。

私にわかるはずがない。これはきっと田権さんの領分だ。




面白い、続きが読みたい、

面白くなくても読んでやろうという心の優しい方、

哀れな作家を助けると思って是非とも登録や評価をお願いします!

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