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第十一章


昨日はお昼からショッピングモールで映画を観た。

その後にゲームセンターでクレーンゲームをして、巨大なぬいぐるみをゲットした。


先週のどんよりとした気持ちが嘘のように晴れた気分で、目に映る景色が鮮やかに色づいていた。

触るもの全てに温度があった。生きることを楽しめた。


世間のあらゆる事が先週と何も変わらないはずなのに、悩みが無くなった事でこうも違うとは、人生って本当に心の持ちようなんだな。


と言うわけで日曜の今日も私は服を買いに街へくり出した。

田権さんの不吉な占いを忘れた訳じゃない。

だけど、田権さんは言った。気を付けてくださいね、と。


つまり裏を返せば、気を付けてさえいれば大丈夫と言うこと。

それにさっさと用事を済ませて帰り家で大人しくしていれば何の危険もない。


金曜日の地元の情報番組で取り上げられていたカフェのパフェを食べ終えると目当ての服屋に向かう。

午後の三時、五月の中旬だと言うのにまるで夏のように暑い。

歩いていると少し汗ばんで着ていたパーカーを脱ぐと手に持った。


「よ!」

突然、後ろからぶつかられ、前に倒れそうになったがなんとか耐えた。

振り向くと見たくない顔。


「今日はぼっちかよ。あのキショいチビはどうした?」

「お似合いのゴミコンビなのによ」

笹原と浦木。


金曜日は私を避けていたのに今日は前のようにずいぶんと横柄な態度で私を見ている。

これが田権さんの占い?なるほど、こいつらの顔を見なきゃならないなんて最悪だ。

でも恐れる必要はない。


「なんか用?」

私の堂々とした態度が気に入らないんだろうか?

笹原たちの顔が険しくなって私を睨んだ。たじろぐけど、弱味は見せられない。

また先週に逆戻りしてしまう。


「用がなきゃ、お前みたいなゴミに話しかけるかよ」

笹原は睨みながらニヤニヤ笑う。


「チビを探してんだけど、お前、知ってんだろ?教えろ」

田権さんを探している?


「知らないよ。そんなに仲がいい訳じゃないし」


「ふーん。でも、そんなの私たちに関係ないから」


浦木が言うと、すぐ近くの車道にドウンと大きな音を立ててバイクが停まった。

バイクはさらにドッドッドッドッとエンジンを震わせている。


「よしよし、ナーイス」

バイクにまたがっているのは米良だ。

米良は爬虫類のような離れた小さな目で私を見ている。


「米良君があのチビ探してんだわ。だから相棒のお前がパフェ食ってんのを見つけてすぐに連絡しといた」


「なんで?私は田権さんとは何の関係も」


「うるせえな!言いたいことがあるなら米良君に直接言えよ!」


浦木の声は大きく、行き交う大人の何人かがこちらを見た。

けれど米良が「あ?何見てんの?轢き殺しちゃうよ」と凄むと我関せずといった様子で通りすぎる。

人って言うのは本当に汚れている。


「おい、女。後ろに乗れよ」

私に向かって米良が言った。


「で、でも私は田権さんの事は何も知りませんし」


「俺は今、乗れって言ったよな?だったら乗るか地獄を見るかのどっちかだけど、どっち選ぶ?」


「ははは。カワイソー」

笹原は嬉しそうに笑って私の足を蹴った。


物理的な痛みは心にも響く。

先週のように心臓の鼓動が速くなる。

脂汗がこめかみを伝う。


私は仕方なく米良の後ろに乗った。

するとバイクが急発進して私は後ろに倒れそうなる。

慌てて米良につかまった。


田権さんの占いはこれを暗示してたのか。

私は泣きそうな顔で歪む街並みを眺めていた。





米良のバイクは信号無視を繰り返しながら二十分ほど走り、全く知らない街のとある倉庫へと入った。

体育館の半分ほどの広さの倉庫で、ずいぶんと古びていて倉庫を支えている鉄骨のあちらこちらが黄色や茶色に錆び付いている。


「おつかれーっす」

中には米良よりも背が高く体ががっしりとした二人の男がいて、倉庫に場違いなソファに座っていた。


米良はバイクを停めると私に降りるように言って、やってきた一人の男から、缶コーヒーを受け取った。


バイクから降りて居場所なさげに立っていると、米良はソファに座る。


「この前、お前も一緒にいたあのチビ。街を出てないそうだな?」

目は私に向けられている。


「は、はい」


「あいつはこの街でなにやってんだ?」


「さあ?観光だと思うんですけど」


「だといいが、おそらく違う。きっとあいつも探してんだろうよ」


「何をですか?」


「てめえは知らなくていいよ。じゃ、チビと連絡を取れ」


「私、知りません」


「あ?ダチなんだろ?」


「ち、違います!出会ってまだ三日しか顔を合わせてません。もちろん自宅は知らないし、スマホに電話番号も入ってません!」


「じゃあなんで一緒にいた?」


「頼まれたんです!この街を案内してほしいって!」


必死に弁明する。

でも嘘じゃないから口調を強くして断言できた。


「でも知り合いではあるよな?」

その質問にはうなずくしかなかった。


「なら使い道はあるか」

米良は嫌な笑みで天井を見上げた。


「あのチビが街から出ていかずにうろついてるのは知ってる。俺には魔素が見えるからな。バイクを走らせてるとあいつの魔素をちょくちょく目にした。だから今、仲間にあいつを探させてる。一回見たら忘れられない見た目だから見逃すことはないとは思うがなんせこの広い街で一人の人間を探すんだから難しいかもしれない。だからとりあえず午後十時までに見つからなければ今日は諦める。そしたらお前も解放してやるよ」


「十時?今はまだ三時半ですよ?」


「なんか文句あんの?」


「文句と言うか私は田権さんとは関係ありませんし、私がいても意味が無いと言うか」


「おいおいおい。自分の存在意義を否定するな。お前はいていいんだよ。必要な存在だ。いいか。今、俺は色々と考えている。もしあのチビが見つかってここに来るとする。だがあのチビも一応魔女だ。何をするかわかったもんじゃない。だから、お前を使うんだ」


「な、何にですか?」


「そこを考えているんだ。けど俺の頭の中で形になりつつあるプランはお前があのチビを刺すって言う方法だ。チビも俺には警戒するだろうが、友達じゃないとはいっても知り合いのお前まで強く警戒することは無いと思うからな」


「そんなの私にはできません! それに田権さんだって私に心を許していないだろうし…」


「なあ。お前、さっきから何度も何度も何度もウゼェな。俺がやれっつったらやれ!俺はお前と会話してんじゃねぇ!命令してんだよ!」


米良が怒鳴ると私の顔の横を重たい風が通りすぎて背後の壁に強い衝撃が走った。

倉庫がビリビリと細かく振動している。

米良よりも大きくて強そうな二人の男たちも顔を青くして恐れているようだ。


「何にせよチビが見つかったらの話だ。今はゆっくりしてろ」

米良は笑う。

だが人には見えなかった。


異次元から来た別の生き物に見えた。

田権さんが時折、そう見えるように。




面白い、続きが読みたい、

面白くなくても読んでやろうという心の優しい方、

哀れな作家を助けると思って是非とも登録や評価をお願いします!

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