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「ここは‥」

 目を覚ましたルディは、見慣れぬ場所に寝かされていた。手足に拘束具が付けられている。拘束具には魔術がかけられてており、力では破壊できない。

「目を覚ましましたか、勇者ルディ」

 黒髪で長身の男が近づいてきた。男の後ろには、赤い癖毛の女もいる。

「あなた達は誰?そしてここはどこなの?」

 ルディは二人を睨みつけている。しかし二人は平然とルディを見下ろし目を背けなかった。

「この世界には、聖女と勇者がいる。それに対して、魔女と魔導士も存在するんだ」

 男の方が説明した。

「私たちは魔女と魔導士ってわけ。世界は陰陽、対になってるからね。光があれば影がある。善があれば悪があるようにね」

 女がルディに顔を近づけ、顎を掴んだ。

「こんな女がタイプだったのね、王子様は」

 ルディは顔を振り、女の手を顔から離した。女は不快そうにルディを蹴った。

「生意気な女ね。あんたがいくら勇者でも、魔女と魔導士二人には敵わないんだからね!」

 蹴り倒されたルディはゆっくりと身体を起こした。女は再び蹴ろうと身構えた。

「チャロアイト、勇者に傷をつけてはならないという命令に背くのか?」

「だってこいつは、我々の敵である教会の人間。さらに勇者だよ。フィリフォームだって、教会は嫌いだろ?」

 チャロアイトはむくれている。フィリフォームは軽くため息をついた。

「教会と魔塔が停戦協定を結んで100年以上が達つ。その間、聖女はこの地上に現れなかった。そして近年、連続して現れた聖女は消えた。お前の敵は存在しないじゃないか」

「そう言うなら、勇者はあんたの敵じゃない。なんでやっつけないのさ」

 チャロアイトとフィリフォームが言い合いをしていると、入り口の扉が開いた。

「ルディ!!」

 そこにいたのはロードナイトだ。

「王子!まさかこんな場所までお見えになるとは」

 フィリフォームは膝をついた。チャロアイトも頭を下げている。

「ロードナイト王子、どういうことですか?」

 ルディの視線は、突き刺さるように鋭い。ロードナイトは恐縮しながらも、ルディに近づいた。

「ディアブロ公爵家は代々魔塔と繋がりがあるんだ‥。今回、ルディをアルタイ王国に奪われたくないと叔父に話したら、二人を紹介されて‥」

 ロードナイトはルディに目を合わせられずにいた。気まずい空気が流れる。

「王子、好きなら自分の物にしたらいいと私は思いますよ。アスモデウスを召喚してこの女の魂を王子に向けたらどうでしょう」

 チャロアイトは平然と提案した。悪魔のアスモデウスを使うにはかなりの生贄を必要とする。しかも成功率が低い。ウルアクの母であるカーミラも、ガヴァリエールの心を自分の物にしようとアスモデウスを召喚させたことがあったが、アグダルの力は強く効果をなさなかった。

「チャロアイト!変なことを言うな!私はルディと本当の恋人になりたいんだ」

 ロードナイトがチャロアイトを制止した。

「勇者よ。王子がそう申している。お前の心を魔術で変えるようなことはしたくないと。その寛大なお心に、お前は応えるべきではないか?」

 フィリフォームの言葉をよそに、ルディは手枷を外そうと躍起になっている。フィリフォームは苛立ち、口を歪めた。

「お前ごときが、私とチャロアイトの作った枷を外せると思っているのか!」

 フィリフォームがルディを見下し、侮蔑の言葉を吐きつけるとロードナイトが怒りを露わにした。普段は温和で優しいと評判の王子が、冷酷な表情を浮かべている。

「フィリフォーム、チャロアイト。お前達は誰に向かってそんな口をきいている?ここにいるルディは、私が妃にと望む者!前教皇で我が伯父にあたるルシフォール閣下の息女だ!いわば王族にあたるのだぞ!」

 フィリフォームとチャロアイトは目を伏せ首を垂れている。魔塔は王侯貴族と持ちつ持たれつの関係性が大切だ。単独で富を得ようと魔術を使えば、駆逐されてしまう。

「これはルディを連れてきた報酬だ。次に、私とルディを城に移動させるんだ」

 ロードナイトは、ルディを起こすと二人にそう命じた。チャロアイトが魔法陣を描き、フィリフォームが祈り始めた。そうしてルディとロードナイトは、魔塔から城に瞬間移動したのだった。

「フィリフォーム‥。王子はあの女を本気で好きなのね。それにしても、女王に知らせなくていいのかな‥」

「女王も勇者を王子の妃にしたがっている。今回のことは黙認するはずだ。女王と王子が勇者を気に入ってなければ、戦いたかったのに」

 勇者と魔導士は敵対関係だ。前の魔導士はアースと戦い、敗北してこの世を去っていた。聖女と魔女の戦いは、100年以上前にあったが、それは引き分けと記されている。

「フィリフォーム様、チャロアイト様。教皇とアルタイ王国の王子が来ました!」

 魔塔の下っ端が呼びに来た。

「やはり来たか‥」

 フィリフォームは気怠そうに部屋を出た。魔塔主から、教会とことを荒立てるなと日々言われている。

「主に叱られるな‥。今回の拉致が、魔導士によるものだと証拠を残してしまった‥」

「オニキスがコカトリスと戦うと想定してたからね‥」

 二人はしぶしぶ下に降りて行った。下の階では、魔塔主とベルゼが対話している。年若い教皇と、白髪の老人の魔塔主。威厳では圧倒的にベルゼが不利だったが、ベルゼは怯まずに魔塔の行動を追求していた。その頭の回転の早さに、魔塔主は押され気味になっている。

「これは新教皇。今日は何事で?」

 フィリフォームは平然と尋ねた。その不敵な表情に、ベルゼとオニキスは苛立ちを感じている。

「我が姉が、道中、魔法陣にて拐われた。魔法陣といえば魔塔の得意技。姉をどこにやったのか聞きに来た次第」

 ベルゼはフィリフォームを威圧した。オニキスはフィリフォームや魔塔主を霊視しようとしたが、悪魔の結界で何も見えなかった。

「魔導士にも下級魔導士がいて、魔女にも下級魔女がいる。我々は何も知らない」

 フィリフォームは憮然と開き直っている。その様子を見ているチャロアイトは楽しそうだ。ベルゼ達は暗礁に乗り上げた。魔法陣で拐われたことは確かだが、それが魔導士なのか、下級魔導士の仕業なのかは証明できない。

「教皇殿。どちらにしても、魔塔側の人間がしでかしたこと。魔塔としても、教会に災いをもたらすことは本意ではない。調査をして何かわかれば、使いを出そう」

 魔塔主が提案した。ベルゼはしぶしぶ承諾すると魔塔を後にした。

「オニキス王子、この建物から姉様の気配は感じない?」

 ベルゼはオニキスの霊感を頼った。ルディは先程、城に瞬間移動させられた為、オニキスは気配を察知できなかった。

「ここにはいないようだ」

 オニキスは肩を落とすと、馬の背に乗った。ベルゼは乗馬は苦手の為、馬車に乗り込んだ。そして二人はひとまず教会に戻っていった。

 

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