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「教皇夫妻の喪が明けるまでの間は、ルディには妃教育を受けてもらうことになる。大変だと思うけど、頑張ってほしい」
アルタイ王国では、平民の妃には最低限の妃教育をし、後は比較的自由だ。しかし、貴族の正妃や側妃には厳しい教育が施された。教皇の娘とはいえ庶民として育ったルディには荷が重い。しかも、オニキスは妃を一人と決めている為、政務を分散することもできなかった。
「心して学ばなきゃ‥!」
ルディは気合いを入れて答えた。ルディの意思の強そうな瞳は、キラキラと煌めいている。オニキスは嬉しそうにルディの肩を寄せると、頭をくっつけた。
「ルイーゼに負けないように頑張るから見てて」
「わかった。私も出来うる限りサポートするから」
オニキスはルイーゼの手を握りしめた。ルディの手は暖かい。剣を扱う為、女性特有の柔らかさはなかったが、女性にありがちな冷えもなかった。
ルディ達がゆったりと馬車の中で過ごしていると、馬車の前にコカトリスが現れた。オニキスの部下達は必死に戦っている。ルディは剣を抜くと、自らも参戦しようと馬車の扉を開けた。
『キーン‥』
その瞬間、空から魔法陣がルディの上に振ってきた。魔法陣はルディの姿を飲み込んでいく。当のルディは、意識を奪われて倒れた。そしてそのまま魔法陣と共にに消えてしまったのだった。
「ルディ!!」
目の前でいきなりルディが消えた。オニキスは焦って辺りを探す。しかし、そこには何もない。魔法陣の残骸すら残ってはいなかった。コカトリスはその様子を見て姿を消した。
「誰かが魔術でルディを拐う為にコカトリスをしかけたのか!!」
オニキスは馬車から降りると馬に跨り、方向を変えた。
「魔導士によってルディが攫われた。魔塔と繋がりがあるのは教会だけ。急ぎ教会に戻り、ルディの行方を追う!」
オニキスは部下達を尻目に、猛然と馬を走らせた。馬は、馬車とは違いスピードが速い。オニキスはその日のうちに教会に舞い戻った。
「姉様が拐われた!?」
オニキスからの報告を聞いたベルゼは驚愕している。オニキスは魔導士の仕業であることを説明した。
「魔塔とは不可侵協定が結ばれて長い。教皇の娘を拐うなど‥許されることじゃない」
ベルゼの身体が怒りに震えている。教皇が代わり、魔塔が年若い教皇を馬鹿にしていると捉えたのだ。ベルゼはすぐに魔塔に使いを出した。そしてベルゼとオニキスは魔塔に向かったのだった。




